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とある魔女の裏話

呪いをかけた魔女のお話。

このシリーズはここで完結です。


2023/08/03 初代王の名前を訂正しています。



 ──あるところに、一人の魔女がおりました。


 彼女は人とは違う力を持っていた為、人々に恐れられていました。

 けれど、心優しい魔女は人々を憎む事も出来ずに彼らを怖がらせないように隠れ住むしかありません。


 そんなある日、彼女は傷を負った一人の青年と出会いました。

 

 魔女は彼を必死に看病します。

 そんな彼女に青年は感謝し、慈愛に溢れた魔女に心惹かれるようになりました。

 魔女も青年を一目見た時から恋に落ち、彼の誠実さを好ましく思っていました。



 いつしか、魔女と青年は愛し合うようになったのです。




 ──これが『始まりの魔女』ピーリカと、フェルニス王国初代国王バルテロス・シラド・フェルニスの恋物語の始まりである。




 ピーリカ──魔女達の呼び名ではレネピリカと呼ばれる彼女は、そのままバルテロスと結婚し、王妃と呼ばれるまでになった。

 

 それからフェルニス王国は魔女──特にレネの一族にとっては特別な国だ。

 

 フェルニスの民は彼女を誤解していた事に気付いたのだ。

 そして王を支え、人々を護った彼女を敬意を抱き、愛した。

 レネピリカも、そんな彼らを愛していた。


 レネピリカの存在もあって、王国では『魔女』は特別な存在だとされていた。

 強大な力が疎まれて迫害されたり、力を利用するために捕まえて飼い殺しにするだなんて話もある中、敬われて大事にされ、それに纏わる祭りが毎年開催されるなど、まるで天国のような場所だ。


 魔女は愛情深い。

 それが己を愛してくれる存在であり、自分の血縁が関係しているならば尚更だ。



 だからこそ、レネの一族は陰ながら王国を護り、見守ってきた。

 かつてレネピリカが愛した男の末裔であり、自分達と同じ血が流れるフェルニスの王族達を。



 その魔女も、そんなレネの一族だった。

 彼女はこれまでの一族と同様に、隠れ住みながらも王国を見守っていた。



 フェルニスの王族は魔女の血を引いている。

 レネピリカが施した魔法を引き継げるのも、それ故だ。

 

 レネピリカは更に魔法をかけて、特に魔力が高く、魔法との相性も良く、王国に災いを齎さないような人物に対してのみ継承されるよう色々制約を付けたらしいが、流石にそれは過保護がすぎないか、とは思わなくもない。

 ……まあ、王国が平和だと魔女も穏やかに暮らせるし、助かるのは確かだけれど。



 そして、ある時気付いたのだ。



 ──この度生まれた次代の王は、先祖返りをしている。



 教えてくれたのは、魔女が力を借りている、境界の間に住みし者──魔妖精と呼ばれる存在だ。

 彼らは面白い事が大好きで、人間が付く嘘をとても興味深く思っている。だから、彼らの声を聞く事が出来る魔女は人の嘘を見抜く事が出来るのだ。



 僅かではあるが、その子には彼らの声が聞こえているようだった。

 ちゃんと教えたら、多分魔女の魔法も使えるようになるに違いない。

 



「何それ、良いなぁ!! 会ってみたい!!」




 魔女の同族は少ない。

 隠れ住んでいる所為もあるし、体質的に多くの子を産む事が出来ないからでもある。

 だからこそ、数少ない自分の血縁は何よりも大事にするし、自分の同族も大切なのだ。 

 


 先祖返りをしているならば、それは即ち同族も同然。

 そう意識すればする程、魔女にとって彼は大切な存在となっていた。 



(会ってみたいなぁ、話をしてみたいなぁ)

 


 そうは思っていたけれど、相手は王族だから早々簡単に言葉を交わす機会がある訳がない。

 それよりも何よりも、大切なものに執着する魔女の血が悪い方に作用してしまったようで、彼を虐げる輩が好き勝手して、それどころじゃなかったし。

 奴らはちゃんと制裁されたようなので、もうどうでも良いけれど。


 しかし、そんなある時、奇跡が起こった。

 魔女が滞在していた村に、彼──ラームニード王が偶然視察にやって来たのである。




(やっばい、噂の彼じゃん。会えるとは思わなかった、やば……)




 あまりの感動に、魔女の語彙力は死んでいた。

 自分の推しとも言える人物に相対した魔女は、自らの姿を老婆に変えて、いそいそと握手を求めに行った。

 最早、劇団の看板俳優を前にしたファンのような状態である。




「偉大なる王よ、この哀れな婆に祝福を……」




 返って来た言葉は、これだ。




「小汚いババアにする祝福などあるか。そのように穢らわしい姿を我が前に晒すな。くびり殺される前に、疾く去れ」




 魔女は前述した通り、嘘を見破るのが得意である。

 だから、彼が言った言葉の真意をちゃんと分かっていた。




『そんな怪しい風貌で、よりにもよって王族に触れようとするなど、無礼だと切り捨てられてもおかしくない。見逃してやるから、早くどこかへ行け』




(……つ、伝わらないよ、それは……!!!)




 魔女は理解したけど、もどかしい思いだった。

 



(何このツンデレ。伝わらないよ、誤解されるよ、そりゃあ……)




 確かに優しい子なのに、その言動で誤解され続けているのだろう。なんて難儀な子だ。

 

 この子は他者への愛情の向け方を知らない、とても不器用な子だ。

 自分を守る為に、心の中に強力な防壁を築き上げてしまった。だから、これまで心の内に入れたもの以外を受け入れようとしないのだ。




(……このまま推しが誤解されていくのは嫌だなぁ)



  

 魔女は考え、そして一つの魔法をかけた。




「酷く傲慢で、哀れな王よ。人を慈しむ心を知らなければ、お前は永遠に【裸の王】のまま、孤独に死んでいく事だろう」




(服がハジけ飛ぶのと同じように、警戒心も吹き飛ばしちゃえ。裸になるのと同じように、自分の心の中も曝け出しちゃえ! そうすれば、きっとあなたを心の底から愛してくれる人を見つける事が出来る。あなたも孤独にならずに、幸せになれる!!)



 素直でないラームニードを思いやる気持ちでかけられた魔法だったのだけれど、服がハジけ飛ぶのは完全に面白半分だった。


 魔女は愛情深い。しかし、それと同時に面白い事が大好きなのだ。

 たとえ、それが推し相手でも容赦をする事はない。……それが魔女という生き物である。




 それから、魔妖精が時々教えてくれるラームニードの日常を知る事が魔女の楽しみとなっていた。



 王宮に帰って、ラームニードの服が初めてハジけ飛んだらしい。

 彼は流石に狼狽えていて、王宮中が騒然となったようだ。




「やだー、超面白そう! その場に居たかった!!」




 その呪いに対応出来たという事で、新しい侍女を召し上げる事になったらしい。

 ラームニードは彼女をとても気にしているようだ。




「え、何? ラブ? ラブなの!? 恋の予感にキュンとしちゃうわ!」




 ラームニードは彼女を側から離そうとしないらしい。

 彼女も彼の事を憎からず思っているようだ。




「無自覚ラブ!? 何なの、魔女をときめきで殺す気なの!? んもー、好き!!」




 流星祭の儀式でラームニードに喚び出された魔妖精は「好きな子がいるんだって? 早く告っちゃえよって煽って来た」とドヤ顔で報告しに来た。

 よくやった、と魔女は大いに褒めた。

 とっておきの酒を振る舞ってやる程だ。酒は、その魔妖精の大好物なのだ。


 

 そして、その後、王国中に大きなニュースが齎された。

 ラームニード王が、結婚するというのだ。相手は、あの件の侍女だ!!




「祝結婚! ばんざーい! ばんざーい!! 今日は祭りじゃー!!!」




 魔女は、満足だった。

 

 推しを幸せに出来た。

 凍っていた彼の心を溶かす事が出来る人と巡り合わせる事が出来た。

 きっとこの後、彼は愛しい家族を全力で護り、家族が暮らすこの国の事も大事にしていく事だろう。


 彼が目の前の愛情から目を背ける事はもう無い。

 それが、心の底から嬉しかった。




(でも、それはそれ、これはこれ!!)




 だが、それでも魔女は呪いを解く気はこれっぽっちも無かった。

 ──その方が、何だか面白そうなので。



最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました!

感想、評価などありましたら、お待ちしています。

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― 新着の感想 ―
[一言] わりかし王道展開に容赦なくぶち込まれる全裸! 終始笑いながら読みました。物語の要所で全裸要素がくるの楽しすぎました。 聖女との対決のシーン、すっごいやる気でノリノリな王様に爆笑しました。 …
[一言] それでも魔女は呪いを解く気はこれっぽっちも無かった。  ──その方が、何だか面白そうなので 魔女(*^ー゜)b グッジョブ!!
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