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【完結】呪いで服がハジけ飛ぶ王様の話 〜全裸王の溺愛侍女〜  作者: 依智川ゆかり
第三章、カーテンコールまで駆け抜けろ
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72、魔女はいつだって王国を守っている


「……どういう事でしょうか」



 休憩室に場所を移して早々、聖女は震える声でそう切り出した。



「わたくしは……わたくし達はあのような行いをするつもりはなかった! あのような下劣で、愚かな事を口にするだなんて……わたくし達を操ったのですか!?」

「他ならぬ使節団を謀り、罠に掛けるなどと何と卑劣な……! この事は国を通して厳重に抗議させて頂いても宜しいですかな?」



 暗に魔法を使ったのだろうというユーレイアとニーダ公爵の抗議に、ラームニードがまさか、と肩を竦めた。



「こちらが自発的に魔法を掛けたという事実は無いが」

「ですが……!」

「そもそも、()()が王国にあるという事はそちらも承知の上で入国したのだろう? てっきり、そうなる覚悟があって入国したものだとばかり思っていたが」



 ラームニードの言葉に聖国の面々は唖然として、それでから思い出したようだった。

 

 王国側が『自発的に』魔法を掛けた事実はないが、王国に掛けられていると公然の事実である魔法の存在を。




「……まさか『守護の結界』……?」




 呆然と呟いたユーレイアに、ラームニードはニヤリと笑った。



「我が国を愛した魔女は悪戯好きでね。我々ですらどんな効果が及ぶか分からないが……とにかく国を害する思惑を持った者を、それを断念せざるを得ない状況に追い込む事を好むのだ」



『国を害する思惑』の部分で、ニーダ公爵がぐうと苦しげに呻いた。どうやらその自覚はあるらしい。



「そ、そんな……おかしいですわ。だって……」

「聖女の力で守護の結界を中和していたのに、ですか?」



 宰相の言葉に、ユーレイアは口を噤んだ。

 その表情は『聖女の力で守護の結界を中和しつつ、王国を害する思惑を持っていた』と認めたも等しい。

 

 そんな聖女を、ラームニードが嘲笑った。



「そもそも、疑問には思わなかったのか? 王国と聖国との間に起こった戦争に、何故決着がつかなかったのか」

「……え?」

「王国の『守護の結界』と聖国の『聖女の守り』。……互いにそれをどうにかしようと考えた事があるとは思わなかったのか?」



 魔法と聖女の力。

 互いに互いの国を守っているものが邪魔だと思い、それを排除しようとした。

 だが、出来なかった。

 その事を身に沁みて理解したからこそ、平和条約が結ばれたのだ。



「我々王国側も、呪いの解呪をするのに聖女の力を検討した事はある。……まあ、結論としては、恐らく無理であろうという意見で一致したが」

「それは……何故ですか」

「過去の歴史を思い返せば、当然そうなるだろう」



 何をバカな事をと言わんばかりのラームニードに、聖国側は納得がいかないような顔をしている。




「そうですねぇ。……ネルティエの戦いについてはご存知ですよね?」




 宰相の問いに、ニーダ公爵が頷いた。




「平和条約が結ばれる前に行われた、最後の両国間の戦争でしょう」




 聖国が王国最北部の都市ネルティエまで攻め込み、それを守る当時の辺境伯軍と約三日間刃を交えたとされる戦争である。

 これまで聖国が王国内に攻め込む事はあっても、守護の結界の効果で都市の近辺まで到達された事は無かった。

 それ故に、聖国との間で最も長い期間行われた、戦争らしい戦争だとして知られている。



「その詳細は、聖国ではどのように伝わっていますか?」

「……両国の争いに多くの血が流れる事を憂いた聖女が、聖王に戦争を止める事を懇願した。三日間の説得を受けてそれを受け入れた聖王が軍を引き、王国側に平和条約を結ぶ事を提案。王国もそれを受け入れた、と」



 聖国では『慈愛の聖女』と『賢王』が結ばれた美談として有名な話だ。

 勿論、本の中では二人の周りにはセイントリリーが咲き乱れている。 


 ラームニードはそれを鼻で笑った。

 


「我が国にある聖国の歴史書通りか。聖教会や聖王家の周辺ならばあるいはと思ったが、自国民の間でも都合の悪い部分を耳当たりの良い美談で誤魔化すか。……救いようがないな」

「……どういう、事ですか」


「なあ、聖女よ。……どうして聖国がネルティエまで攻め込めたと思う?」



 その問いに、ユーレイアとニーダ侯爵が何を聞かれているか分からないとでも言うような顔をした。

 


「どうして……?」

「それまでの数百年もの間、聖国は決してそこに到達する事なく、守護の結界の効果に野望を邪魔され続けていたのです。しかし、その時だけは違った。……()()()()()()()()()()()を用いたと考えるのが自然ではないでしょうか?」



 宰相の言葉に聖国の面々が考え込む。

 そして、どうやら思い当たったようだ。──自分達が今回用いたものと同様の方法を。



「ま、さか……」

「そうです」



 宰相はニコリと微笑む。

 それはさながら、生徒の正答を喜ぶ教師を思い出させるようだ。




「その戦には、聖女が従軍していたのですよ。──あなた方の言う『慈愛の聖女』様がね」





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