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【完結】呪いで服がハジけ飛ぶ王様の話 〜全裸王の溺愛侍女〜  作者: 依智川ゆかり
第三章、カーテンコールまで駆け抜けろ
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70、戦いの鐘が鳴る



 服がハジける呪いからも分かるように、魔女は享楽主義で面白ければそれで良いという思考なのだという。

 そんな魔女がきっかけで始まったこの流星祭のパーティーは、他国から見ると実に自由なものであるらしい。


 基本的にファーストダンスはその場で最も地位が高い者から踊るものだが、その決まりも特にない。

 好きに踊るも良し、料理を摘み酒を楽しみながら歓談するも良し。

 流星が見られる夜更け過ぎまで、形式に拘らずそれぞれ好き勝手に騒ぐのだ。


 その自由さこそが、流星祭の醍醐味だった。



 会場に入ると、人々の視線が一挙にリューイリーゼ達に集中する。

 リューイリーゼが婚約者のフリをする事情は主な貴族らには周知されている筈なので、「陛下の隣の女は誰だ」というよりは「ああ、あれが例の」といった風な視線だ。また、ドレスの正体に気付き、目を瞠っている者もいる。


 

「……臆するな」



 ラームニードの囁きに、丸まりかけていた背筋を伸ばした。

 そうだ、ここでリューイリーゼが下手を打つ訳にはいかない。

 出来るだけ優雅に見えるよう、必死に微笑みと振る舞いに気を付けながら、会場の中へと入る。




「国王陛下にご挨拶を」



 

 まず、話し掛けてきたのはレジス・ロンドルフ公爵だ。

 久方振りに社交界に姿を現し、更にはラームニードに挨拶をしている彼を驚いたような目で見ている者も多い。


 

「……レジスよ、先日振りだな」

「ええ、先日は楽しい時間を有難うございました。リューイリーゼも変わらないようで何よりだ。そのネックレス、思った通りとても良く似合っているよ」

「あまりに素敵なネックレスで驚きました。何とお礼を言えば良いか……」

「何、お守り代わりと思ってくれれば良いさ。礼なんて良いよ」



 ネックレスはかつて聖国から友好の証として贈られたもので、ロンドルフ公爵家の家宝ともいうべき代物だ。

 聖国の人間に誰が後ろに付いているかを理解させるのに、手っ取り早い。

 そう言って気軽に家宝を貸してくれるレジスは懐が広いのか、単純に直接領地に関係しない物への関心が薄いのか、実に微妙な所だった。



「……ああ、やっぱり違うな。そう思ってくれるのなら、またお茶でもしないかい? 今度は君が気に入りそうな菓子を用意しておくよ」

「俺が許すと思ったか」

「心の狭い男は嫌われますよ、陛下」



 計画通りに、そう和やか(?)に談笑する。

 これは、ラームニードとレジスとの間には何ら禍根が残っていない事、そしてリューイリーゼとレジスが親しい間柄であり、後ろ盾でもあると強く印象付ける為だ。

 

 目的を果たし自分の役目を終えたレジスは、早々にパーティー会場を後にした。

 何でも、領地で流星祭を過ごす為に今から急いで戻るつもりなのだという。相変わらず、驚く程の領地愛だ。



「今度君も公爵領においで」


 

 それ程愛される領地ならば、リューイリーゼもいつか行ってみたいと思った。

 ……ラームニードが許してくれるかどうかは分からないけれど。




「おお、ラームニード王よ!」




 次に話をしたのは、アペジオ皇弟だ。



「そちらの方は?」

「リューイリーゼと申します。以後お見知り置きを、殿下」

「ほほう、リューイリーゼ嬢というのだな。これはこれは……ん?」



 ドレスの裾を摘んで優雅に礼をすれば、アペジオはリューイリーゼを見て何かに気付いたように驚き、呵呵(かか)と笑った。



「いやはや、どこのご令嬢をエスコートしているのかと思えば、まさかお嬢さん(レディ)だとは。今年の流星祭は実に驚きで満ちているな。これは良い土産話になりそうだ」



お嬢さん(レディ)』と前回と同じ呼ばれ方をされ、リューイリーゼは思わず目を丸くする。



「何故分かった」

「いや、普通の人間ならば分かるまいよ。実に見事なものだ。だが、どう足掻いても骨格だけは変えようがないだろう?」



 何と、骨格だけを見て変装を見破ったのか。

「この変態め」とジト目でボヤいたラームニードに、アペジオは訳知り顔でリューイリーゼのネックレスに視線を向けた。



「まあ、其方がそこまでする理由も何となく察するさ。そのネックレスの意味もな」

「……これで分からぬようであれば、こちらも容赦する気はない」

「勝算はあるのだな?」

「勝ち目の無い喧嘩を売る程、馬鹿ではない」

「はっはっは、それでこそ、我が友だ!」



 安心したから酒を飲む!

 そう去って行く間際、アペジオが振り返った。

 まるで揶揄うように、そして少しだけ咎めるようにニヤリと口角を上げて言う。



「外堀ばかりを埋めていくのだけは、あまり感心せんぞ! 特にそういう事柄ではな!!」

「ぐっ……」



 ガッハッハ、と去っていくアペジオの背中に、ラームニードが唸り声を上げる。

 後に残された二人の間に残されたのは、微妙な空気だ。




「……その、だな」




 気不味げに視線を泳がせながら、ラームニードが口を開く。

 



「は、はい……」




 リューイリーゼも、何となくドギマギとしてしまう。



「これが終わったら、話がある。……!」

「陛下……?」



 顔を赤らめたラームニードは何かに気付いて言葉を止めた。

 リューイリーゼも表情を引き締めた彼の視線の先を見て、その理由を悟る。

 

 こちらに近付いてくるのは、お付きを従えた聖女ユーレイアだ。




 ──最後の戦いの始まりを伝える鐘が鳴る幻聴が聞こえた気がした。






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