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【完結】呪いで服がハジけ飛ぶ王様の話 〜全裸王の溺愛侍女〜  作者: 依智川ゆかり
第三章、カーテンコールまで駆け抜けろ
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64、聖女は出会い頭にジャブを打ってくる

ラスボス登場。



 そして、聖国からの使節団も到着した。



 

「アルタレスの聖女ユーレイアと申します。どうぞ、よしなに」



 

 そう微笑んだのは、聖女──ユーレイア・レナスだ。

 艶やかなピンクブロンドと金に輝く瞳を持った美女で、その何処か浮世離れした清廉さは、思わず膝を折ってしまいそうになる程の不思議な力を秘めていた。

 

 ラームニードは外行きのにこやかな笑みを浮かべ、ユーレイアと挨拶を交わす。



「あの聖国の『予言の聖女』にお会い出来る日が来ようとは。この千に一つの幸運に、感謝を申し上げる」

「神の思し召しですわ。慈悲深き我らが主は、迷える()()を救わんとわたくしに仰せですの」

「おや、我が国で人探しでも? フェルニスの民は魔女の愛子、きっと御助力が出来るでしょう」

「うふふ、まあご冗談がお上手で」

「そちらこそ」



 出会い頭から、言葉の殴り合いである。

 彼らの会話を簡単に言い直すのなら、



『聖女様がウチの国に何の用だ。さっさと帰れ』

『そんな事を言って良いのか? こっちはお前らの弱みを握っているんだぞ』

『見当も付かないが、何の事だ? そもそも同胞じゃねーだろ、こちとら魔女の国じゃい!』



 といった風になる。


 ラームニードの背後に控えるリューイリーゼは、最初からハラハラし通しだった。

 流石に大っぴらに喧嘩になるとは思わないが、いつ呪いが発動してもおかしくはない。



(聖女様、お願いですから陛下を刺激しないで下さい……)


  

 心の中でそう祈りながらも、王付き侍女としての矜持から動揺を表に出す訳にはいかない。


 初っ端から水面下でラームニードと睨み合っていた聖女だったが、その後も彼女は止まらなかった。

 周囲を見渡し、黄色の百合が使われた装飾を見つけ、「まあ」と声を上げる。



「黄色の百合だなんて。わたくし、初めて見ました」

「この百合は王国南部に自生しているもので、王国では『幸運の象徴』とされています。聖女様と御目見たこの幸運を表現出来たらと思いまして」



 そう補足を入れたのは、宰相だ。

 すると、ユーレイアは何処となく物足りなさそうな顔をした。



「……白百合では無いのですね」

「まさか。聖女様に白い百合を捧げるなど、そんな恐れ多い事を出来る筈がありますまい」

「わたくしは全然構わないのですけどね」

「お戯れを」



 穏やかな口調とにこやかな笑顔で、やはりセイントリリーについて言及してきたユーレイアを、ラームニードが何とか躱す。


 相変わらずの笑顔を浮かべてはいるが、ラームニードの導火線がどんどん短くなっていっている事を宰相を始めとして、王国側の人間は理解していた。



(頑張ってください、陛下。ここで全裸は色々なものが終わります……!!)



 色々と危険だ。

 リューイリーゼも心の中で声援を送る。


 しかし、ユーレイアの追撃は止まらなかった。


 


「そうだ、式典の前に儀式があるのですよね? 是非拝見してみたいのですけれど。きっとわたくし、お力になれると思いますわ」




 ──おい、誰かそろそろこの女を止めろよ。

 

 

 王国側の人間は、揃ってチラリと聖国のお付き達の顔を窺った。



 流星祭の直前に行われる儀式は魔女の秘術だとして秘匿されており、王国の人間でさえ、王族とその重臣のみが立ち入る事が許されている。

 そんな彼らでさえ、『職務上致し方ない場合を除いて、無闇矢鱈にその内容を口にはしない』と誓約を結ばされるのだ。

 他国の人間に見せてと言われ、見せられるようなものではない。



 聖国側もそれを重々承知している筈だが、その多くは「聖女様の願いを断る筈が無いだろう」とでも言うような顔をしていた。

 元々の使節団の代表だったニーダ公爵ですらそうだ。聖国民は聖女に甘すぎである。

 

 穏やかな笑みを湛えつつも、叶わないものは何もないと思っているような傲慢さを滲ませてくるユーレイアに、ラームニードの堪忍袋の緒はもう切れそうだ。


 リューイリーゼは慌てて、聖国の面々からは見えない位置でその裾を小さく引く。

 すると、まるで人でも殺しそうな目をしていたラームニードに余所行き用の微笑みが戻るが、そう長く持ちそうにはなかった。




「ははは、神の神秘を秘めていらっしゃる聖国の聖女様がご冗談がお好きとは、意外ですなぁ」




 そこで割って入ったのが、宰相だ。

 聖女の『お願い』を冗談だと笑い飛ばして、続ける。



「そういえば、聖国の方に一度御伺いしてみたかったのですが」

「何でしょう?」

「昔何かの本で読んだ事があるのですが……そちらの国に『アルタレスの幻光夜』と呼ばれるこの世のものとは思えない程美しい場所があるとか」



 それまで余裕の笑みを浮かべていたユーレイアの笑みが、一瞬だけピクリと動いた。



「……いやあ、私も良い歳なもので、引退したら妻と共に近隣諸国を巡る旅が出来たらと思っているのですよ。お恥ずかしながら今まで仕事一辺倒で寂しい思いをさせてしまったので、少しは女房孝行をと思いましてね。それで、そこまで美しい場所が聖国にあるのなら、是非とも妻に見せてやりたいと思っていたのですが」

「ご期待に添えずに申し訳ないですが……『アルタレスの幻光夜』は聖地で行われる一年に一度の聖祭でのみ見る事が出来るものです。聖教会の特別な祭典でもありますから、関係者以外の立ち入りを固く禁じられています」

「成程……。道理でどの本を探しても詳細が載っていない訳です。合点がいきました」



 

 それならば仕方がないですね、と残念そうに言う宰相に、聖女を始め聖国側の人間は流石に黙った。

  

 宰相は別に『アルタレスの幻光夜』について無知だった訳ではない。

 聖国にも他国には見せられない儀式がある事を突きつけたのだ。

 

 そちらは見せるのを拒むのに、こちらには見せろと迫るのか、という宰相の言外の牽制に、何も言えないようだ。

 ニーダ公爵も流石に分が悪いと思ったのか、聖女様、と呼んで制している。


 今の隙に、とラームニードとユーレイアを引き離しにかかった。



「それでは、そろそろ我が王宮をご案内致しましょうか。……カロイエ」

「はい、聖国の皆様方はこちらへどうぞ」

「……流星祭まで、どうぞごゆるりと」



 宰相が話を纏め、侍女長が聖女達を誘導する。

 ラームニードも最後まで何とか笑顔をキープしたまま、挨拶を終える事が出来た。


 ホッと安堵の息を吐きかけた一同に、去る間際のユーレイアが「ああ、そうだ」と振り返る。



 ──恐らくは、これが本題だ。




「国王陛下、後でお話があるのです。陛下が()()()()()()()()()()()()()をお持ちしました。きっと気に入って下さると思いますわ」




 ラームニードの形の良い眉が、ピクリと動いた。

 それでから、殊更口端を上げて笑みを作る。──しかし、ルビーの瞳は何処か冷ややかに聖女を見つめていた。





「──ええ、是非ともお聞かせ願いましょう」



 

 

 ──それはきっと、開戦の合図だった。

 


 

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