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【完結】呪いで服がハジけ飛ぶ王様の話 〜全裸王の溺愛侍女〜  作者: 依智川ゆかり
第三章、カーテンコールまで駆け抜けろ
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59、アルタレス聖国の聖女

リューイリーゼ視点。



 流星祭の式典に招待している主な国は二つ。

 西のリヴィエ皇国と、北のアルタレス聖国だ。

 

 リヴィエ皇国の方は建国以来長きに渡って交友を深めている仲で、ラームニードの従叔祖母(いとこおおおば)に当たる人が皇国に嫁いだり、皇国側の貴族を貴族学院の留学生として受け入れたりと、極めて良好な友好関係を築いている。

 


 問題はアルタレス聖国の方だ。

 アルタレス聖国とフェルニス王国の間では、長い歴史上の中で幾度も紛争が起きている。理由は、聖国が聖女信仰の国だからだ。


 神に加護を受けた選ばれし乙女──聖女が起こす奇跡によって、国を発展させ、護って来た。

 それはある意味、フェルニス王国にとっての魔女の様に。


 だからこそ、アルタレス聖国はピーリカは魔女ではなく、奇跡を使う『聖女』である。彼女が創った王国は聖女の国である聖国に従属するべきだ、と主張した。

 奇跡に匹敵する魔法の存在によって、聖女の権威が失墜する事を恐れたのだ。


 勿論、王国は反発した。

 王国側にとってはピーリカは聖女などではない、魔女だ。

 魔女が残した魔法が彼らの言う神の奇跡などではないとその身で知っている王国民らにとっては、聖国の主張は事実無根の戯言であり、到底受け入れる事など出来やしない。

 

 それ故に王国と聖国は歴史の中で幾度も衝突し、戦争も起きた。

 所謂(いわゆる)、『魔女聖女戦争』と呼ばれるものである。



 そして幾度となく繰り返した結果、気付いた。


 


 この戦争……実は物凄く不毛なのでは、と。




 王国側が聖国側に侵攻しようとしても、『聖女の守り』という外敵を阻む結界に阻まれ、立ち往生しているうちに攻撃を受ける。

 聖国側が王国側に侵攻しようとしても、『守りの結界』によって途中で何かしらの不幸が起こり、地味に嫌な損害が出てしまう。


 どう足掻いても決着がつかない為、どちらも何も得をしない。

 ただ無駄な軍費と兵が失われるだけだ。



 それに気付いた数代前の王達が歩み寄って協議し合い、平和条約が結ばれた。

 それに伴い国交を回復し、少しずつ互いの国への理解を深めている。

 

 二国の間の諍いは一応の決着を迎えた……かのように見えてはいるが、本来相容れない考えを持つ同士だ。

 どちらも損しかないから戦争を止めただけであって、互いに思う所が無い訳ではない。




***




「……という訳で、聖国から聖女が来る」

「まあ」



 流星祭における大きな変更点があるとして聞かされた内容に、リューイリーゼは言葉を失った。 


 王国の歴史上、かつてない事態だ。

 まさかの特別ゲストの来訪の知らせをどう受け取ったら良いものか悩んで、素直に尋ねてみる事にした。




「聖国の狙いは何なのでしょうか」



 これまでアルタレス聖国から訪れる流星祭の出席者は、聖王の名代として、その血縁であり高位貴族の人間である事が多かった。

 それなのに、それを突如聖女へと代えた理由は何なのだろうか。


 リューイリーゼの問いに、宰相は苦笑しながら顎元を撫でる。




「単純に親交を深めるのが目的……な訳がないでしょうねぇ。だって、あの聖国が、聖女を送り込んでくるんですから」




 そもそも聖国で何より敬われ大切にされる聖女を、何の目的も無く他国へと向かわせる事自体が信じられない大事件である。

 聖国は聖女を使い、王国に対して何かを仕掛けようとしているのではないか。

 そんな疑念を抱いてしまうのは、当然だろう。



 

「あの国は、事あるごとに『魔女は聖女である』という言質を取って主導権を握る隙を窺っていますからねぇ、面倒な事に」

「よりにもよって聖女を送り込んで来るのだから、余程の付け入る隙を見つけたのだろう」



 

 恐らく聖国は、自分達が優位に立てると確信出来るような【王国の隙】を見つけている。

 だからこそ、今回聖国の宝である聖女を自信を持って送り出せるのだ。




(王国の付け入る隙……)



 

 チラリとその場に居る全員の顔を見渡せば、皆が皆悟ったような顔をしたり、塩っぱい顔をしている。

 恐らく、全員の気持ちは同じだった。


 心当たりがあるか無いかと言われたら、それはあるだろう。

 というか、心当たりしかない。思い当たる節が今まさに目の前に。



 隙というか……王の恥部というか……全裸というか……。




「……何だ、言いたい事があるのなら言ってみろ」

「……いえ」

「何でもないです……」



 流石に自覚はあるようで、ラームニードも苦々しい顔をしている。

 物言いたげにしながらも黙って視線を逸らす面々の中で、宰相だけは冷静だった。



「……まあ、固定概念を抱くのは余り宜しくはありません。情報を集めましょう。万が一、億が一にでもただの聖女様の物見遊山という可能性もあるのかもしれないですし」



 初めからそうと決め付けてしまっては、見えるものも見えなくなってしまうかもしれない。

 宰相の意見に、ラームニードも気を取り直して頷いた。




「目的が何であれ、彼の国が油断ならぬ国だという事に変わりはない。心しておけ」

「「仰せの通りに」」




 周囲を見渡して言い放たれたラームニードの言葉に、執務室にいる全員が恭順を示す。




「……それと、諜報部に手の空いている者はいるか?」

「居ると思いますが……如何されましたか?」

「試しておいて欲しい事がある」




 ラームニードは側近達をグルリと見回し……そこで、気付いた。




「どうした、リューイリーゼ?」




 

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