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52、流星祭のお守りと、お呼び出し

 




 彼の言葉が、何度も頭を過ぎる。





『ならば、それで良い。──俺の側にいろ』





「──……ゼさん? リューイリーゼさん?」

「えっ!? は、う、うん!」



 見れば、隣を歩いていたナイラが不思議そうな顔をしている。

 



「どうしたんですか? 急にボーッとして……。顔も何か赤……」

「な、何でもないから! そ、そう、流星祭のお守りについて話していたのよね!?」



 かつて初代国王が即位した際、彼の頭に王冠を載せたのは魔女ピーリカの役目だったという。


 それに準えて、流星祭ではそれぞれ家族や恋人などに贈り物を贈るのが習慣となっていた。

 基本的にアクセサリーなどの装飾品や刺繍入りのハンカチなど、普段から持ち歩けるような物を贈るのが一般的で、それを一年持ち歩けば身を守ってくれるお守りになると言われている。



「ナイラは、やっぱりご家族にあげるの?」



 慌てて話題を戻せば、ナイラは不思議そうにしながらも話に乗ってくれた。



「はい! 勿論です。五人も弟妹がいるので、大変ではあるんですけどね」



 ナイラは元気良く頷いた。



「ナイラの家では、何か作るの?」

「勿論作りますよー。うち、貧乏なので」



 流星祭のお守りは、各家庭ごとに特色がある事が多い。

 首飾りだとか、腕に付ける物だとか、暗黙の了解でどういった装飾品を贈るかが決まっているのだ。

 だからこそ、流星祭で好きな人へお守りを贈ると、どこの誰が贈ったのか周囲に悟られやすい。


 周囲への牽制にもなる上に、相手への真剣な気持ちが伝わり、更には『お守りを贈り合い、流星を見た恋人同士は永遠に結ばれる』という言い伝えまである為、流星祭を期に告白や求婚を行うという者も多いようだ。



「うちは組紐ですね。毎年糸を何色か買って来て、編み込んだ物を髪紐に使ったり、剣の飾り紐に使ったりするんですよ。今年は王付きになれて報酬も貰えたので、奮発して飾り石も付けちゃおうかなって思って」

「家族全員分作るの? 大変ね」

「えへへ、でも皆健康でいて欲しいですし。皆にあげないと、また喧嘩になるでしょうし」



 そう微笑んだナイラは、いつもオドオドとしがちの彼女からは考えられない程、きちんと『姉』の顔をしていた。

 家族を大切に思っている事が伝わってきて、リューイリーゼの表情も自然と緩む。



「リューイリーゼさんの家では、何を贈るんですか?」

「うちは基本的に刺繍入りの物かな」

「え、お父様もですか!?」

「勿論」



 実の所、家族の中で一番刺繍が上手いのは父なのだ。

 そう話せば、ナイラは「へええ、凄いですね」と感心したように頷く。



「あ、そういえば、アリーテさんは何をあげるんでしょうね」

「アリーテは……」



 アリーテの無理に笑った顔を思い出して、胸がチクリと痛んだ。

 リューイリーゼさん? と心配げに首を傾げるナイラに、何でもないと微笑み返す。



「アリーテの家は、アメジストを使った物を贈る事が多いって言ってたわ」

「わー……流石、伯爵家ですね……。かけるお金が違う……」



 感心したように何度も頷くナイラに微笑んで、ふと思った。

 

 流星祭のお守りは、家族や恋人の一年の安全を思って贈るものだ。

 そんな人達がいない人はどうするのだろう。




(……陛下は誰かからお守りを貰うのかしら)




 そんな疑問が頭に浮かんだ──その時だった。





「……リューイリーゼ殿、少しお話があるのですが」





 背後から掛けられた声に振り向いて、思わずギョッとした。




「ヒェッ……」




 同じように振り返ったナイラが、か細く悲鳴を上げた。

 気持ちは分かる。リューイリーゼだって、それが見知らぬ人だったなら、悲鳴をあげている所だ。




「あ……アーカルド、様……?」




 まるで、戦場で将が一騎打ちでも申し込むが如く。

 振り返った先には、気迫のある腹を括った表情のアーカルドが仁王立ちしていたのだから。




***



「もう少し穏便な呼び出し方はなかったんですか?」




 中庭の隅に場所を移して、改めてアーカルドに苦情を呈した。

 あれでは、果し合いの申し込みと何ら変わりない。



「すみません……。どうにも顔に力が入ってしまって」

「ナイラなんて、完全に殴り合いの喧嘩か何かをすると勘違いしてましたよ……。『ご武運を』って言われましたし」

「本当にすみません。後で誤解はいくらでも解くので、とりあえず話を聞いてくれたらと……」



 色々文句を言いたいのは山々だったが、平身低頭謝られては仕方ない。

 そこまで言うのなら、と話を聞く姿勢に入った。



「それで、一体何のお話ですか?」

「それは……その……」



 その訓練で日に焼けた肌が、僅かに色付いた。

 片手で口元を隠し、僅かに視線を泳がしながら言う。



「……恥を忍んで、頼みがあるのですが」

「はあ……」

「その……女性への贈り物について、相談出来たらと」



 今にも消えそうな声で告げられた頼み事に、思わず顔を顰めた。



「……アーカルド様?」

「はい」



 何かを感じ取ったのか、アーカルドの姿勢がスッと伸びる。



「相談に乗って差し上げたい気持ちもあるのですが、女性に対する贈り物を他の女性に相談する行為はあまり褒められた事ではないと思いますが。私、アーカルド様の恋人さんに睨まれたくないです」



 例えば親族だったならまだ許容範囲内ではあるだろうが、何の関係もない異性の仕事仲間に選ばれたプレゼントを渡されて喜ぶ女性がいるだろうか。いや、いる筈がない。


 静かに怒るリューイリーゼに、アーカルドは慌てて弁解をする。



「恋人ではなく、片思いで」

「尚更悪いです」

「それにあなたに頼んだ理由もちゃんとあって」

「理由?」



 眉間に皺を寄せたリューイリーゼに、アーカルドは蚊の鳴くような声で白状した。





「…………相手がアリーテ殿だからですよ」





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