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50、王様、一歩踏み込む



 いつしか流星祭の準備から執務室へと帰って来ると、休憩代わりにラームニードとお茶をするというのがお決まりとなってしまった。


 これで良いのかと疑問を持ちつつも、他の王付きの面々も何も言わないし、何よりラームニード自身がそれを望んでいるのだから、リューイリーゼが断れる筈がない。


 いつものようにリューイリーゼが二人分のお茶を用意する。

 しかし、今回は少しだけ変わった所があった。




「リューイリーゼと二人で話したい事がある」




 ラームニードが傍に控えていたアーカルド達にそう伝えたのだ。

 アーカルドは少し迷った様子で、チラリとリューイリーゼの方を見遣った。



「……ドアは少し開けて、キリクは壁際に立たせます」

「それで良い」



 恐らくは、リューイリーゼの外聞を慮ってくれたのだろう。

 ラームニードが許可を出せば、アーカルドは一礼をして部屋の外へ出て行き、キリクは一番離れた壁際へと下がっていく。

 

 残されたのは、戸惑うリューイリーゼのみだ。

 思わず、恐る恐ると言った風に声を掛ける。



「申し訳ございません、陛下……。あの……私は何をしでかしてしまったのでしょうか……?」

「違うわ。お前は何かをしでかしたという自覚があるのか」

「え、お説教ではないのですか?」

「違う」

「では、何の御用で……?」



 てっきり、流星祭関係で何かやらかしたのかと内心ヒヤヒヤしていたリューイリーゼは、それでは何の用だろうと首を傾げた。



「それは……その……」

 


 しかし、その問いには中々答えが返っては来なかった。

 根気良く彼の返答を待っていると、視線を泳がせたラームニードがボソリと言う。




「……お前が最近、何かを思い悩んでいるようだったから」

「へ」



 思わず、気が抜けたような声が出た。



『何を言っているのですか』『そんな事はないですよ』『大丈夫です』──。

 そんな当たり障りのない言葉を返そうとして失敗し、笑って誤魔化そうとしても失敗する。


 どういう顔をすれば良いのか分からず引き攣った笑みを浮かべて、そこで気付いた。

 

 以前のような詰問口調ではない。彼は、リューイリーゼの悩みを無理に聞き出そうとしている訳ではないのだ。


 リューイリーゼを案じるような視線に、先程とは違った意味でどういう顔をしたら良いのかが分からなくなる。

 

 直感で悟った。

 きっと、ここで嘘を吐いて適当に誤魔化しても、ラームニードはそれ以上追求する事なく見逃してくれるだろう。




(……けれど、この方に嘘は吐きたくない)




 もしかしたら、リューイリーゼも彼に聞いてもらいたかったのかもしれなかった。

 紅茶を一口飲んで喉を潤して、口を開く。



「この間の休暇に、弟と会ったのですが」

「おっ……おおう……」

「……? どうかなさったのですか?」

「い、いや……何でもない。続けろ」



 何故かラームニードが物凄く動揺している。

 泳ぎに泳ぎまくる視線を不思議に思いながらも、話を続けた。




「そこで、その……色々心配されまして、思ったのです。私は家族に心配をかけてばかりなのだと」




 悲しげに曇った弟の顔を思い返して、自嘲するように笑う。



 

「私は、私なりに自分で思った最善の道を選んできたつもりでした。けれど、その選択が家族を傷付けてしまった。それなら、これからは出来るだけそうならないように、家族の為に何が出来るのだろうかと考えてしまって……」




 もう、家族には心配をかけたくない。

 彼らを安心させる為にはどうしたら良いのだろうか、と考えてしまう。



「いっそ適当に安定した家の男性を見つけて娶って貰おうかと」

「また発想が急だな!?」

「──考えたのですが、多分『そういう事じゃないって言ったでしょ!』と弟に怒られると思うので、勝手をするのは止めとこうかなと」

「……お前の弟がしっかりしているようで安心した。それより、その弟の口振りからすると、似たような事が前にもあったという事か? どういう事だ」

「ええと……話が逸れてしまうので、それはまた後日に……」



 先程から真っ青になったり、安堵したり、不穏になったり、ラームニードの表情の変化が忙しない。

 話をしている内に、良い感じに忘れてくれますように。

 ジュリオンにされたのと同じような説教をされる予感をひしひしと感じながら、話を戻した。



「……アリーテが言っていました。『貴族に生まれたのだから、仕方がないと割り切らなきゃいけない義務がある。それを納得している』と」



 地位あるものは、それに相応しい義務を負わなければならない。

 家の為に、民の為に、そして国の為にその身を捧げ、時には己の心をも殺す。それこそが、貴族としての責務だ。

 リューイリーゼもそれは理解している。




「私は……ちゃんと義務を果たせているのでしょうか。向こう見ずに飛び出して、自分の好きなようにしているだけなのではないかと、そう思えてしまって」

 



 家の為に己が身を捧げんとするアリーテの決意を目の前にして、自分は甘えているのではないかと思ってしまったのだ。


 愛人になどなりたくないと家を飛び出して王宮侍女になり、報酬に目が眩んで相談もなしに王付き侍女になった。

 仕方がないと割り切る訳でもなく、ただただ好きな事に逃げただけだ。


 リューイリーゼもそろそろ、彼女のように貴族としての義務を負う覚悟をしなければならないのではないだろうか。


 カルムの利になるような、そして家族を安心させる事が出来るような結婚相手を探し、ごく普通の家庭を築いて、子を成して……。

 そんな当たり前の『幸せ』を見せる事こそが、家族への孝行にも繋がるのではないか。


 迷うリューイリーゼの言葉に、ラームニードは無言で考え込んだ。

 そして、おもむろに口を開く。




「──()()()()()()()()()()()?」



 

  

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