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47、窺う王様とお茶を飲む

観察されるリューイリーゼ。



「……茶を淹れろ」

「え」



 流星祭関係の仕事に追われ、執務室に戻ってきた途端にラームニードにそうせがまれ、リューイリーゼは目を丸くした。


 キリクもアリーテもこの場にいるのに?

 そう思って二人の方を見るが、二人は黙って首を横に振って、言う通りにしろと訴えかけてきた。そう言うなら、やるけども。

 


「丁度いい、お前も飲め」

「はい?」

「一人で飲むのは味気ない。お前も付き合え」

「……宜しいのですか?」

「休憩にも丁度良いだろう」



 不思議に思いながらもお茶の用意をしていると、更なる要望を受けた。実に自由だ。

 それでも、何となく労われているのだと察して、有り難く同伴する事にする。


 ちなみにアリーテとキリクもお茶に誘ってみたが、キリクには「この後すぐに休憩ですので」と真剣な目で丁重に断られ、アリーテには「良いのよ、私は! 全然気にしないで!」と明らかにニヤけた様子で言われた。本当に何なんだろう。


 何かを期待されているような視線に落ち着かないような気持ちになりながらも、ラームニードと共に応接用のソファでお茶を飲む事にした。



「どうかなさいましたか?」



 ソファに座ってカップに口を付けるラームニードは言葉少なげだが、何故か妙に視線を感じた。

 まるで観察でもしているかの様な、どこか物言いたげな視線に首を傾げれば、ラームニードは「いや……」と濁して視線を逸らせる。

 リューイリーゼは思わず両手で顔を覆った。



「何故顔を隠す」

「……私、顔大丈夫ですか? 目ヤニとか乾いた涎とか付いてませんよね?」

「お前はそんな寝起きみたいな状態で出勤しているのか」

「ちゃんと整えているつもりではいますが、そんなまじまじと見られると、余程おかしな状態になっているのかなと思いまして……」

「整えた事実に対してもっと自信を持て。たった半日でそこまで崩れる筈ないだろうが」



 呆れたように言われて、両手の覆いを外す。


 それでは、何故こんなにもじっと見つめてくるのだろう。

 リューイリーゼが言いたい事に気付いたラームニードが、何気なく視線を外す。




「何だ、その……最近近くにいないと思って」




 確かに、最近は流星祭の打ち合わせやら確認やらで、ラームニードの側を離れる時間が増えた。

 そうは言いつつ、ラームニードはラームニードでその準備の関係でバタバタとしているのだが。



「確認事項が色々と多くて。……やっぱり侍女長はやっぱり凄い方ですね。この他にも沢山仕事を抱えてらっしゃっているのに」 

 


 今現在女性王族がいない為、侍女長は本来ならば王妃らに任せるべき案件の多くを任されてしまっている。

 そんな中で通常業務やリューイリーゼ達の教育やらも行っているのだ。あの人だけ一日が五十時間ぐらいあるのではないかと疑ってしまう。



「そうは言うが、楽しそうではないか」

「やりがいはあります。それに、王付きになってから初めて任された大きなお役目ですもの、頑張らなくては。流星祭も楽しみですし」

「……そうか」



 そう拳を握り締めたリューイリーゼに、ラームニードは何かを飲み込んだような物言いだった。その何処か拗ねたような表情に、片眉を上げる。



「流星祭はお嫌いですか?」

「嫌いではないが……好きでもない。毎年毎年、この時期だけ異様に業務に忙殺されるからな。喜びよりもうんざり感の方が強い」



 それは確かに、うんざりしてしまうかもしれない。




「……それに」




 言い掛けて、ラームニードは言葉を飲んだ。


 数秒黙り込んで、カップに手を伸ばして紅茶に口を付ける。それは一見すれば、ごく自然な動作に見えた。



 

「……まあ、ともかくだ。初めての仕事であろうが、そこまで気張るな。いつも通りにやれば、お前なら出来る」



 

 激励の言葉に、リューイリーゼは一瞬目を瞠る。


 侍女長へ常日頃の恩を返したいと思ったのは事実だが、本当の所はそれだけではない。

 ラームニードの信頼に応えたかったのだ。

 与えられた仕事をきちんと全うし、自分が王付き侍女に選ばれた事は間違いではなかったのだと知らしめたかった。

 それこそが、ラームニード自身に対しての評価にも繋がるからだ。




(キリク先輩が諜報術を学ぼうとした気持ちがよく分かるわ。自分が原因で陛下の評価が落ちるだなんて事、したくないもの)




「ありがとうございます。精一杯努めます」



 

 そう微笑めば、ラームニードは一瞬手を上げかけて、何故か舌打ちをした。

 ……本当にどうしたのだろうか?




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