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46、水面下で何かが始まっているような、あらゆる違和感

徐々に何かに備え始める周囲と、ただ一人蚊帳の外感なリューイリーゼ。




 魔女ピーリカが初代国王に祝福を授けた日──即ち、フェルニス王国の建国記念日が近づいて来た。



『王国の平和を願って、一年に一度星を降らせましょう』



 ピーリカの言葉通り、その日の夜は一年に一度の大きな流星が振る。それに因んで、通称『流星祭』と呼ばれていた。

 

 その日は、国中総出で祭り騒ぎになる。

 街には露天や屋台が並び、大人達は星を見ながら夜通し酒宴を開き、子供達もその日だけは徹夜で遊ぶ事を許される。

 また、王宮では周辺国からも賓客を招き、盛大な式典を催す。

 フェルニス王国では新年祭よりも重要視されている一大イベントだ。




「それは……大丈夫なのですか?」




 リューイリーゼは、思わず心配になった。

 厳粛な式典の最中に呪いが発動してしまったら、偉い事だ。他国からの要人も参加している以上、取り返しの付かない大惨事へと発展してしまう。

 

 そう心配げな視線を向ければ、ラームニードは呆れたようにため息を吐く。



「お前は俺を何だと思っているんだ。流石にそれくらいは弁えるわ」



 弁えられる人は、財政破綻をする勢いで服をハジけさせたりしない。

 異議を申し立てるラームニードに疑惑の眼差しを向ければ、宰相と騎士らがフォローする。



「大丈夫、式典は予め決められた手順の通りに進みます。余計な事を口にする隙はないですよ」

「まあ、これでも陛下は外交上は問題行動はした事はないですよ、一応」

「前に一度隣国の大使をやり込めましたけど、あれは彼方側が大分礼を逸してましたしね……。あれは仕方がない」 


 

(大丈夫……本当に大丈夫かな、これ……?)



 フォローをしているのか、していないのかさえよく分からない。

 それでもこれまで王宮侍女を務めた中で、ラームニードが式典や他国との外交で問題を起こしたという話は聞いた覚えがない。

 不安な気持ちは拭えないが、信じる他無い。



 流星祭に向けて、王宮中が忙しない雰囲気の中、リューイリーゼにも王付き侍女筆頭としてやる事が出来た。



「これまでそれらしい王付き侍女筆頭がいなくて、侍女長に兼任してもらっていたようなものですからね。彼女がやっていた仕事を幾つかあなたに任せたいと思っているんですよ」

「成程」



 リューイリーゼは納得した。

 教育を与えてもらうなど、侍女長にはいつも世話になっている。

 ただでさえ忙しい彼女の助けになれるのなら、願ったり叶ったりだ。



「それに、折角やっと正式な王付き侍女筆頭が誕生したのです。期待していますよ」

「……! ご期待に沿えるよう、微力ながら尽力致します」

「頑張って下さいね」



 やる気を見せるリューイリーゼに、宰相はそう笑った。

 ……その表情にいつもとは違う何か違和感を覚えたのは、果たして気のせいだったのだろうか。




***




 流星祭における王付き侍女筆頭の仕事は、勿論というべきか、ラームニードに関係する事が主だ。

 当日の予定や式典の進行についての確認や打ち合わせ、式典用の衣装のチェック、式典に参加する国内貴族や近隣国からの来賓のリストの確認。式典後のパーティー関係の諸々。

 大半が地味な作業ではあるが、やらねばならない事は沢山あった。


 

「分からない事があれば、私かキドマ卿の元へ。それと、式典の資料が見たいのであれば、資料庫に行くと良いですよ」

「侍女長、有難うございます。一度確認したかったので、是非そうさせて頂きます」



 流星祭の準備に携わって意外だったのは、リューイリーゼが王付き侍女筆頭を務めている事に対して難色を示している人がそこまでいないという事だった。


 以前アリーテが言っていたように、王宮内に元王付き、または王付き候補という肩書きの者が多い故に、王付きはやっかみを受けやすい。


 だからてっきり『全裸のおかげで三段跳びで昇進出来た元下級侍女』だとか『呪い対策班(笑)』だとか、もっと厳しい目で見られる事も覚悟していた。


 しかし、蓋を開けてみれば、大半の反応は「ああ、あの……」である。

 その後ろに何が付くのかといえば、当然「王付きの」ないし「全裸の」だ。

 出来るならば、前者であって欲しい。


 また「大変でしょう」と哀れんだり、「応援しているから」と労ってくれる人が殆どで、たまに窺うような視線を向けてくる人もいるにはいるのだが、リューイリーゼの仕事を観察して、その内何かを納得したような顔でその場を去っていく。

 

 少し拍子抜けをしつつも、色々な業務で立て込んでいるリューイリーゼにはそれに構っている余裕はなかった。

 仕事に支障が起きないのであれば、それで良い。それだけだ。




「すみません、キドマ卿お尋ねしたいのですが」

「カルム嬢、どうされたのですか?」



 

 流星祭の担当文官であるキドマは、とても親切な人だった。

 物腰が柔らかく穏やかで、分からない事だらけのリューイリーゼに助言をしたり、色々と気遣ってくれる。



「アルタレス聖王国について分かるような資料など、ご存知ないですか? あまり詳しくないので図書室で本を探してみたのですが、リヴィエ皇国のものと比べると何というか……」



 キドマは、リューイリーゼが言わんとしている事を直ぐに理解したようで、ああ、と苦笑を浮かべた。



「あの国は聖女信仰が厚過ぎて、どの本もどうにも装飾過多というか、壮大で抽象的過ぎて、いまいち参考にし難いんですよねぇ……」

「そうなんです、どこまで信じて良いのか分からなくて」



 アルタレス聖国について書かれた本は、ありとあらゆる本の中でも一、二を争う程難解さだと有名だった。

 聖女や聖王が急に空を飛ぶのは当たり前だし、唐突に天からの使いが踊り出す事も多々ある。

 歴史上に魔女が登場したり、奇抜な呪いと日々関わりがあるフェルニスの民でさえ、読んでいて『あれ、これ舞台か何かの台本だったっけ?』と困惑する事もしょっ中である。

 聖女と聖王に対しての権威と神秘性を増す為だという説が濃厚ではあるが、ここまで抽象的過ぎると、本来の資料本としての意味を成していないのではないかと首を傾げたくなる。



「それでしたら、おすすめはマイリー・ファレット著の『アルタレスを歩く』か、アウグス・トリエス著の『聖国と聖女、その黎明』、もしくは、いっそ資料庫の……」



 キドマが口にする本や資料の題名をメモに残していく。

 直ぐに王宮図書館と資料庫で探そう。リューイリーゼは、満足げに頷いた。

 


「もし分からない事があれば、そ、その……私に、どんどん聞いて下さいね!」

「キドマ卿、有難うございます!」



 笑顔で礼を述べれば、キドマは恥ずかしげに顔を赤らめて、視線を泳がす。



(お礼を言っただけで照れるだなんて、奥ゆかしい人なんだなぁ)



 リューイリーゼは、微笑ましく思った。



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