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38、久々の再会と、不憫なノイス

リューイリーゼ視点と、最後の方だけノイス視点。



『もし可能であれば、三日後の夕方の鐘が鳴る頃に通信を下さい』



 そんな内容の手紙を受け取ったのは、王付き侍女の増員が決まってから直ぐの事だった。


 フェルニス王国では、遠く離れた場所との連絡を取るには昔ながらの手紙か、通信魔道具を使った遠隔通信を使うのが一般的だ。

 通信魔道具は設置された場所が限られてはいるが、届くのに時間が掛かる手紙よりも直接やり取りが出来る上、料金さえ払えば誰でも利用は出来る。


 王宮内に設置された通信魔道具にコインを入れて、連絡先を設定した。

 暫くして、通信に出た人物に目当ての人物への取り次ぎを頼む。目当ての人物は、直ぐに出た。恐らく、通信所のすぐ近くで待機していたのだろう。



「そういえば、もうすぐ初めての休暇が貰えるの」



 近況報告や雑談をして、ふとそんな話になった。



『それはいつになるかとかは決まっているの?』

「あらかじめ希望を出しておけば、調整は出来るけど」



 通信の先の人物は、声を弾ませて言った。



『なら、今度僕と休みを合わせて、王都を散策しようよ。久々に会いたいし、前に話していた件もあるでしょ?』



 リューイリーゼは一瞬驚いたものの、嬉しそうに顔を綻ばせる。

 断る理由は、どこにも無かった。




「勿論、良いわよ」




 そうして、訪れた約束の日の当日。

 リューイリーゼは王都の噴水広場にいた。 


 人通りの多い大通りに面した噴水広場は、待ち合わせ場所として有名なスポットだ。

 友人と、恋人と、または家族と。人によって様々な再会を横目にしながら、通り過ぎる人々の中に待ち人を探す。


 ふと、聞き覚えがある声が聞こえた。





「───()()()!」




「ジュリオン」



 弟のジュリオンだ。

 母親譲りの黒髪と、リューイリーゼと同じ緑の瞳の色彩を持つ彼が、片手を上げてこちらに近付いてくる。

 久々に目にしたその姿に、思わず顔が綻んでいた。



「久し振り、元気そうで安心したわ。少し背が伸びたんじゃない?」



 前回会ったのは、学院が長期休暇の時に実家で、だっただろうか。

 その時よりも幾分か視線が上がった事を指摘すると、ジュリオンは「成長期だからね」と自慢げに笑った。



「姉さんこそ、元気そうで良かったよ。色々噂は聞いていたから、心配していたんだよ。父さん達だって……」

「ああ、もうその話は後でも良いでしょう?」


 

 説教が始まってしまいそうな気配を察して、リューイリーゼは慌ててジュリオンを押し留める。流石に、ラームニードに関する話を誰が聞いている分からないような場所でする訳にはいかない。

 文句なら後でも聞くから、と言い聞かせて、ジュリオンを促した。




「さっさと行きましょう。その為に、こんな格好までしたんだから」




 リューイリーゼが今日着ているのは、普段使いしているものよりも上等な、黄色を基調としたワンピースだ。

 勿論、ジュリオンの方も人混みの中で浮く程目立つようなものではないが、見る人が見れば質が高いと分かる、いかにも紳士とした格好だ。何かの時に使えるかもしれないと、ジュリオンへ贈っていて正解だった。

 一見すると、お忍びの貴族のカップルがデートをしている姿に見えるかもしれない。



「……分かったよ。けど、絶対に後で話をさせてもらうからね」

「はいはい」

「姉さんもいつもそうやってお洒落すればモテると思うのになぁ」

「大きなお世話」



 ジュリオンはブツクサと文句を言いながらため息を吐いて、リューイリーゼに向かって恭しく手を差し出した。




「──お嬢さん(レディ)、宜しければエスコートをさせて頂いても?」




 戯けたようなジュリオンの言い様に、先程までムッとしていたリューイリーゼも思わず吹き出した。



 

(小さい小さいと思っていたけど、いつの間にかこんなに大きくなったのね)




 弟の成長を喜ぶ気持ちと、明らかに姉を揶揄っている事に対する呆れやら可笑しさで表情がだらしなく緩みながらも、差し出されたその手を取った。

  



「ええ、喜んで」




***




 そんな二人の様子を、遠くから眺めている二人の人物がいた。




「……何でこんなことになっちゃったかなぁ」


 


 色粉で髪を染め、伊達眼鏡と帽子を目深に被ったノイスは心の底から嘆きたかった。

 

 ただの尾行ならば、任務として割り切れる。

 けれどそれが他人のデートを監視するというものな上、よりにもよって同行者が同行者なので余計に虚無感が湧いてくる。


 同行者である()()()()()──いや、正確には女性ではない。

 品の良い白地のワンピースを着た深窓の令嬢といった風体のキリクは、ノイスの腕を取って満面の笑みを浮かべた。




「……行きますよ、ダーリン!」


 


 本当に何でこんな事に。

 ノイスは頭を抱えた。




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