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28、嵐到来



 初めから、嫌な予感はしていたのだ。




「あ、ああ! リューイリーゼじゃない」




 王宮内の各部屋置きのラームニード用の衣類や布類を補充中、前の職場である王妃宮での先輩であるノアラに出会した。

 


「ノアラ先輩、お久し振りです」

「元気だった? あなたが王付きになってから、話す機会なんて無かったものね」



 暫く互いの近況について話していると、突然ノアラが「あ!」と何かに気付いたような声を出す。



「そ、そういえばね、ついこの間、あなたの落とし物を見つけたのだけど」



 聞けば、王妃宮の庭園で、リューイリーゼの物と思われるハンカチを見つけたらしい。

 大分前に無くした事は事実だったし、リューイリーゼがそのハンカチに刺していた刺繍の事にまで言及されては、信じる他ない。


 しかし、そこで妙な違和感を感じた。

 



「今度会えた時に渡そうと思って、休憩室に置いてあるの。丁度良いから、持って行ってくれるかしら?」



 いつもの彼女とは、どことなく様子が違うような気がしたのだ。

 妙な胸騒ぎはしたものの、休憩室ならば執務室へと戻る道すがらにある。

 下手に断って後日呼び出されるよりは良いかと思い、そのまま一緒に休憩室の方へと向かい──その道中の小部屋に引き摺り込まれた。




「お久しぶりね、リューイリーゼ・カルム」




 そこに待ち構えていたのは、イシュレアだった。

 逃げ場を塞ぐように、小部屋にリューイリーゼを押し込んだノアラが、部屋の外から扉を閉められる。




 ──嵌められた。




 閉まる瞬間「ごめんね」と謝ったノアラの申し訳なさそうな顔を見て、リューイリーゼはそう悟った。




(やばい、リンチされる!?)




 知らない人に付いて行ってはいけないのは分かっていたが、知っている人に付いて行っても駄目だった。これは、多分後で叱られる案件だ。


 ラームニード達の教えを思い出して、すぐさま室内を確認すると、いつの間にか一人のメイドが閉じた扉の前に立ち塞がっている。



(……二対一ってリンチの範囲に入る? それともセーフ?)



 イシュレアを警戒して身構えると、そんなリューイリーゼを見て、彼女はクスクスと笑いを零した。




「そんな顔をしないで。私はただお話がしたくて、あなたのお友達に協力をお願いしただけなんだから」



 

 あの様子を見ると、協力じゃなくて脅迫でしょうが。

 思わず、そう毒付きたい気持ちになる。



「何のご用でしょうか、『見知らぬお方』」

「イシュレア・エルランダよ。これで見知らぬ人ではなくなったでしょう?」

「……何のご用でしょうか、エルランダ侯爵令嬢」



 親しくなるつもりはない。

 そう主張するように堅い口調で問えば、イシュレアの赤い瞳がスッと細まった。




「単刀直入に言うわ。───あなた、私に協力なさい」




 何とも尊大な命令だった。

 自分の要求が通らないとは思っていないような言い方に、思わず眉を顰めてしまう。



「協力とは?」

「私はね、陛下が欲しいのよ」



 予想していた通りの要求だった。




「政変の影響で、国内情勢は著しく変化したわ。前王妃やロンドルフ公爵を仰いでいた家の多くは没落し、その力を失った。その混乱が今だに続いているの」




 口ではラームニードへの支持を表明してはいるが、前王妃やロンドルフ公爵派寄りだった家の中には、己らの地位を危うくした原因であるラームニードに理不尽な恨みを持ってたり、前王妃らの被害者ともいうべきラームニードとの距離感を図りかねていたりする者もいるという。

 宰相を始めとして、心から彼の支えになろうとする者も少なからずいるが、過去のあれこれが影響して、水面下では未だに緊張状態が続いていた。


 

「陛下には、力のある味方が必要だとは思わない? あのお方には支えが必要なのよ」

「……あなたには、それが出来ると?」

「私はエルランダ侯爵家の娘ですもの。国内の貴族を纏め上げる事も、造作ないわ。それに、ふふ、男の方は皆『美しい花』がお好きでしょう? 慰められるもの」



 その言い様に嫌悪感を覚えたリューイリーゼが顔を顰めると、イシュレアはその自信を示すように、その赤い唇をニイと釣り上げた。

 



「協力してくれるならば、いくらでも報酬は出すわ。あなたの家を援助してもいいし、婚約相手を見繕う事も出来る。どうかしら? 悪い話ではないでしょう?」



 彼女が出す条件は、リューイリーゼにとって都合が良過ぎるものばかりだった。

 恐らくは、リューイリーゼの事情も何も全てを調べ尽くした上で提示しているのだろう。




 ──それでも、リューイリーゼはこう告げた。




「お断りします」




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