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23、それは祝いか、それとも呪いか



「陛下らしいですね」




 キリクにラームニードとの一件を話せば、返ってきたのはそんな感想だった。



「それに少し懐かしい、です」

「キリク先輩も似たような事が?」

「……似たような、というか」



 リューイリーゼの問いに、キリクは珍しく迷った様子を見せた。

 黙り込んだキリクに首を傾げると、彼は迷いに迷った挙句、口を開く。




「リューイリーゼさんは、前王妃については知っていますか」




 急に話が変わった事に戸惑いつつも、リューイリーゼは頷いてみせる。

  

 

「はい、この間侍女長に詳しく教えて戴きました」

「僕は幼い頃、お忍びで城下に出ていた陛下に拾われ、侍従として王宮に入りました。……あの頃の陛下の待遇は、本当に酷かった」



 忌まわしい過去を思い出したのか、キリクの整った相貌が僅かに歪んだ。


 今の様子からは想像もつかないが、ラームニードもその頃は黙ってそれに耐えていたのだという。


 嫌味を聞き流し、食事に異物を混入されれば黙って取り除き、たまに強く当たられても文句一つ言わなかった。

 言っても何も変わらないと諦めているようだった、とキリクは語る。



「陛下はただ黙って受け流していましたが、彼らにとってはそれが気に食わなかったんだと思います。そして、陛下に付き従う僕の事も」



 そして、転機が訪れた。



「侍従として働き始めてしばらくしたある日、僕は何人かの侍従に呼び出され、殴る蹴るの暴行を受けました」

「えっ!!」

「集団で囲まれて、ボッコボコに」

「リンチじゃないですか!?」



 リューイリーゼは思わず大きな声で叫んでいた。

 


(これか、集団リンチ!!!)



 何故ラームニード達があそこまで集団リンチを警戒したのか、ようやく合点がいった。

 こんなにも身近に集団リンチの被害者がいたら、当然だった。

 衝撃を受けたリューイリーゼに、キリクは淡々と続ける。



「それを知った陛下は、とうとうブチ切れました」

「ブチ切……」



 リューイリーゼは言葉を失い、こめかみを抑えた。

 何となく、話の展開が読めたような気がする。



「……その者たちは首を落とされましたか? それともキリク先輩以上にボッコボコに?」

「ある意味ボッコボコではあるとは思いますが……どちらかといえば肉体的ではなく、精神的、社会的に……?」

「うわぁ……」



 リューイリーゼは慄いた。

 末恐ろしいお子様である。

 社会的にボッコボコだなんて、本当に何をしたのだろうか。怖いから聞きたくはないけれど。



「怪我が治った後、すぐさま騎士団の訓練に参加させられました。自分の身は自分で守れるように、と」

「なるほど、先輩は講座だけに留まらず、実践形式で……」

「色々役に立っているので、学んで良かったと思っています」



 頭の中に、ノイスに関節技をかけるキリクの姿が思い浮かんだ。

 仮にも騎士であるノイスに何故あんな事が出来るのかと不思議に思っていたが、色々納得した。道理であれほど綺麗に極める訳である。


 ちなみに、その時面倒がらずに世話を焼いてくれたのが、当時隊長だった現在の騎士団長らしい。

 きっとラームニードはそういう部分を鑑みて、彼に騎士団長を任せたのだろうな、と思った。彼の事だから、信用出来ない者に王国一の武力を誇る騎士団を安心して預けられる筈がない。

 

 一人納得していたので、ポツリと落とされた言葉を聞き逃しかけた。

 


「……陛下が、昔言っていました」

「え?」

「王家の血を受け継いだものは、多かれ少なかれ、己がこれと定めた大切なものに執着するきらいがある、と」


 

 それは魔女ピーリカから受けた祝福の副産物のようなものなのか、血が濃ければ濃いほどに顕著に現れるのだという。

 


「ある意味『呪い』のようだと」

「呪い……ですか」

「はい。現に前王妃らによる政変は、ある意味ではその王族固有の特性によって起こされたようなものと言えるでしょう。……あの女の愚行は『呪いのせいだったから仕方がない』で済まされるようなものではないですが」



 ラームニードの父親である先王ニルレドは、愛する妻へ。

 母親であるへレーニャは、初恋の人へ。

 前宰相ロンドルフ公爵は、愛を捧げた唯一の人へ。


 三者三様の執着ともいうべき愛が、悲劇を生み出したのだ。


 もしも、ニルレドが想い合う二人に気付き、身を引く事が出来たなら。

 もしも、へレーニャが王妃としての自覚を持ち、政略結婚を受け入れる事が出来ていたならば。もしくは、ニルレドにロンドルフ公爵への愛を伝える事が出来ていたのなら。

 もしも、ロンドルフ公爵が臣下としての分を弁え、国母となった彼女への恋慕の情を断ち切る事が出来ていたならば。


 何かが少しでも違ったならば、あの悲劇は起こらなかったのだろうか。それとも、また別の悲劇が起こってしまうのだろうか。


 そこまで考えて、はたと気付いた。




「──まさか陛下も?」



 

 恐らくは、これが本題だ。

 両親と従兄弟伯父にそこまで強い『特性』が出ているのなら、ラームニードに出ない訳がない。


 訊けば、キリクはコクリと頷いた。 

 


「陛下は確かに一旦敵と見做したものに対しては容赦がないです。でも、反対に一度心の内に入れたものは何より大切にする。……一見そうとは判り難くても」



 キリクのガラス玉のように透き通った瞳が、リューイリーゼを捉えた。

 初めて出会った頃の、警戒した様子は無い。どことなく優しげで、そして何か期待が込められているようにも思えた。




「だから、あなたも自分を大切にしてください。あなたが傷付けば、きっと陛下も悲しむから」


 


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