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へっぽこ魔人生  作者: 岸辺濫瀟
第2章
18/104

6.話し合い

ご無沙汰しております。大まかなこれからの筋道は決まっているので、ゆっくりと更新していくことになるかと思います。


 薄暗い平地を駆ける。俺とウィンティはファンタズマに跨り、ザクスは自分の足で走っていた。

 見渡す限りの草原と言いたいところだが、真夜中のためよく見えない。ファンタズマやザクスが地面を踏む音からうっすらと雪が積もっていることがわかる。俺とウィンティの前を走るザクスはウルフやゴブリン、スライムなどの魔物を一撃で消し飛ばしている。

 誇張でも比喩でもなく彼が腕を振った瞬間にはもういなくなっているのだ。最強の露払いだと思いながらも、偽鉱石はいつ盗むかが頭を悩ませる。

 

 1等級冒険者であっても一瞬くらい隙があるかと思ったが、ザクスの場合はたとえ隙が生まれても超人的な身体能力でなかったことにしている。それに遠距離の敵には魔法で狙い撃ちをしていながら近接戦をこなしていると考えると『怪物』という異名が伊達ではないことを物語っている。


 コンパスを頼りに王都を目指して街道を使わずに一直線で進む。街道を使ったほうが遥かに安全かつ接敵する回数が少ないという利点がある。しかし、今回同行しているのは1等級冒険者である。一般市民にとって危険であっても1等級の前では塵芥に等しい。現に魔物たちは木端微塵になっている。なにをどうすれば爆弾のように炸裂するのか。

 高い技量を見抜く眼力など持ち合わせていないのでなんかすごいことが起きているなくらいの感想しか出てこない。あまりにあっけない光景から思わず口に出して感想を述べていた。


「あっけないものだな。つまらない」


 後ろで俺につかまっているウィンティにも聞こえるか怪しい声量でボソッとつぶやく。誰かに言うわけでもなく、ただただ目の前の光景に圧倒されてでた感想だった。


「さすが1等級冒険者という感じですね。4等級冒険者のパーティで討伐するような魔物たちも視界を遮る物体程度にしか見えていなさそうです」


「聞こえてたか。まぁ同感だな。1等級の実力は見たことがなかったがそこら辺の魔物じゃ脅威にならないだろうな」


「まだウォーミングアップ程度で本気とまで行かないでしょうが、確かに本気を出して敵わない相手なんて早々いないでしょうね」


「彼らが相手取る敵は国を滅ぼせるような強大さを兼ね備えた魔物や化け物たちだ。もちろん、常にそんな相手だらけだとは思えないがね。彼らほど強ければきっと何の気負いもなしに依頼を受けれるのだろうね」


「うーん、そうとは限らないんじゃないですか?誰だっていやなものはありますし、断ることもあるんじゃないですか?」


 ウィンティと初めて見た1等級冒険者の実態について話していると、速度を緩めてファンタズマに並走しているザクスが息も乱さずに話しかけてきた。


「おい、そろそろ休憩をはさむ。野営用の道具は魔法鞄に入っている。いいか」


「あ、はい。ザクスさんもずっと走ってましたし休憩しましょう」


「そうですね。タルバさんと私はずっとファンタズマに乗っていただけですから、ザクスさんの判断にお任せします」


「わかった。俺は疲れているわけじゃないが、強行軍する必要はないからな。ちょうど見えてきたあの木の根本で休憩を取る」


 かろうじて草原にポツンと佇む木を見つける。タットルンを出発してから2時間ほど経過したため、暗闇に目が順応してきたが、それでも目を凝らしてやっと見えるかどうかの木だった。俺の視力は低いわけじゃない。とすればザクスの視力までもが優れていることを表している。ザクスの身体能力や五感はどれだけ高い能力を持っているのだろう。きっとご飯も人一倍美味しく食べれるんじゃないかな。少しうらやましい。


 数分後には目印にしていた木の根元に野営用のキャンプを設営していた。魔法鞄内にはテントや簡単な調理器具などがあるため、野営には困らない。

 この道具セットも過去の転生者、転移者が持ち込んだ知識だ。今じゃもうこれなしでは野営できないとも言われている。野営道具がなかったころは地面に寝っ転がっていたと聞いたことがある。そんなことしていたら虫型の魔物や毒などの攻撃からどのように身を守るのだろうか。

 テントがあったところで大差はないが、外から急所を狙うことは至難の業だ。そういった意味で生存率は上がるだろう。当然ながら見張りも持ち回りで行うため、少しでも快適に休息を取る方がメリットが大きい。


 不慣れなウィンティには座っていてもらい、ザクスと2人で手分けしてテントや焚き火の用意をする。だだっ広いだけの草原で焚き火なんて自殺行為でしかないが、1等級がいるのだから何も気にすることはない。手間取ることなく、5分もすれば組み立て終わっていた。俺とウィンティはザクスが用意している焚き火を囲むようにして座る。

 ザクスは魔法で火をつけながら俺たちに話しかけてきた。


「タルバ、あんたの目から見て俺はつまらなかったか?」


「なんのことだ?」


「さっき言ってたことだ。あっけない、つまらないと言ってた」


「あぁ、そのことか。1等級の前じゃそこらの魔物なんて足止めにすらならない。だからつまらないと言った。あと話しづらいからお互い冒険者同士だし、フランクにいかせてもらう」


「圧巻の光景でしたからね。タルバさんと一緒に見ていた私からもまるで何もいなかったように感じました」


「そうか。実際に俺に敵う敵など長らく見ていない。いつもこんな感じだ」


「あっさりした戦いばかりだろうな。一方的で負けることがない。追い込まれることも焦ることもなさそうだな」


「数分もかからないな。技術なんて不要だ。ただ力押しすればもう勝ってる」


「あんたほどの力があればそれも納得だな。だがいづれあんたを脅かす敵が生まれるかもしれないぞ?」


「俺を脅かす可能性を持ったやつは見たことがないぞ?タルバ、あんたの言う敵はいつ来るんだ?」


「そりゃーいつかとしか言えない。明日かもしれないし10年後、100年後かもしれない。ザクスが必ずしも会えるわけじゃない」


「それでは意味がない。俺が退屈なんだ。それになんでそんなことが言えるんだ?」


「なんでって、それはザクスが証明しているじゃないか?」


「?俺が、証明?何をだ?」


 ザクスは呆けた顔をして質問を返してきた。俺は屁理屈で大した意味もない言葉をもったいぶるように時間をかけて返答した。


「ザクスという存在がその世に生まれているのだから同等の人間や魔物なんかが生まれることはあり得るってことだ。同じ時代かはわからんがな」


「タルバさんは意味ありげなことを言って当たり前のことしか言いませんね。そんなのザクスさんも分かりきってることですよ」


「ウィンティはここのところ俺に刺々しいことしか言わないな」


「そんなに言ってる覚えはないんですけど、何か言いましたっけ?」


「いや、なんでもない」


 ウィンティから思わぬ厳しい言葉の棘が飛んできたが、事実だからなんとも言えない。ジグライトの話とか鋭利過ぎて首を切り落とされたかと思ったわ。

 急に黙り込んでザクスは考えているかと思えば徐に口を開いた。


「タルバの言う通りかもしれないが、俺が会えないなら意味がない。つまらない人生を変える何かが欲しい」


「何も戦うことが変えるものじゃないだろう。ザクスは二十歳と若いくせに他国を巡ろうとしないから見識が狭い。1等級だったらどこに行っても歓迎されるんだから、旅も悪くないだろ」


「旅か。王都に入れば困ることもない生活だったが、それも良いかもしれないな」


「旅しろ旅。そうすればなんか見つかるさ。金に困ってないんだから各地の美味い飯食ってダンジョンにでも行ってみれば良いさ」


「タルバさんもこれから旅に出るみたいですからね。ザクスさんも一緒に行けば良いんじゃないですか?」


「ウィンティ、馬鹿なことを言っちゃいけないよ?1等級には柵も多いんだ。行きたいと思ったらすぐ行けるわけないじゃないか」


「そうなんですか、ザクスさん?旅に出るまでに手続きとかあるんですか?」


「いや、特にないはずだ。行こうと思えばすぐにでも行ける。止めるものは全て消せばいい」


 ウィンティに乗せられてザクスが俺の旅に同行することに難色を示さないのはなぜだろう。俺が止めないと本当についてきそうな気がする。1等級冒険者なんて引き連れていたら目立ってしょうがない。それにザクスがやらかしてついてくれば俺もお尋ね者になってしまう。それは避けなければならない。


「今サラッとすごいこと言ったぞこいつ。冗談で済まないからタチが悪い。あと俺と一緒に来たからといって何か見つかるわけじゃないんだぞ」


「だが、俺は行く宛などない。ならばタルバに着いて行ってもいいだろう」


「俺のファンタズマはお前を乗せられないぞ」


「走るから問題ない」


「俺が困るんだよ。全く。今後どうするかは王都に戻ってからじっくり考えとけ。新聞や本じゃ手に入らない経験が旅だったら手に入るぞ。それにそもそもの話、一か所に留まる冒険者のほうが少数なんだ。王都じゃなくてもベゼル王国国内ならどこ行ったっていいだろう」


「それなら仕方ないか。だがタルバについていくことをあきらめたわけではないぞ」


「なんかフランクに話すようになってから若干図々しいのは気のせいか?俺は目立ちたくないんだ。ザクスが居たら目立つだろ。体躯も大きいし、目を引く。それに1等級冒険者だ。注目の的になってしまう」


「なんで注目されることを嫌悪するのかわからないな。冒険者になったからには名を上げようとか成り上がろうと思うものだろう」


「ザクスさんの言う通りですよ。異名まで持っているのにタルバさんはもったいないことをしています。タルバさんがいない間にタルバさんのことをお聞きしましたけど、ヒルドじゃ英雄らしいじゃないですか。なんで目立ちたくないんですか?」


「人の評価なんて当てにならないだろう。本当の実力は(伴っていないから)隠すに限る。俺の強さは手の内を知られることで弱点にもなる。(武器が操作不能になる魔法とかな)能ある鷹は爪を隠すとか韜光晦迹(とうこうかいせき)というからな」


 そう言い切って椅子から立ち上がり体を伸ばす。ファンタズマに跨っている時間が長かったためか、座っていると腰が痛い。長らく馬に乗っておらず、不慣れな二人乗りだったためか無意識に姿勢が悪くなっていたようだ。


 周囲を見渡してみてもただの草原しか広がっていない。ザクスが意図的に発する気配を察知してか今は魔物や野生動物も寄ってこない。見下ろせばウィンティは焚火に両手を前に出して温まっており、ザクスは魔法鞄から取り出した薪をくべていた。


「やはり本物は噂とは違うな。一つ、タルバに聞いてみたいことがある。あんたはなんのために生きているんだ?」


「生きることに理由なんてないさ。冒険者をやってるんだからいつ死んでもいいとすら思うけど、相応しい死に場所が存在しない。だから退屈でもつまらなくても生きている。いろんなことに手を出してみて楽しみを見つけるのさ」


「楽しみは見つかってのか?」


「あぁ見つかったよ。銭湯や読書なんかがそうだな。ザクス知ってるか、各地にある銭湯は特殊な効能を持っているものもあるらしいぞ」


「タルバさん銭湯お好きなんですね。意外です」


「それは知らなかったな。銭湯なんて気が向いたときにしか行かん。それに本にそこまで面白いことが載っていないだろう」


「わかっていないな~。若いから刺激的なことでしか楽しみを見つけられないだけだよ。王都に戻ったら今までやって来なかったことをするといい。きっと何か見つかるよ」


「保障でもしてくれるのか?」


「いや、そこまではできないけどさ。一旦戦いから遠ざかってみればいいとは思うよ。俺のほうが長く冒険者をやっているからわかることがある。荒んだ心は感受性が鈍くなるんだ。嫌な出来事から身を護るために体はそうなるんだ。すると嫌なことも楽しいこともなーんとも思わなくなっちまう。今のザクスは心がすり減っているのさ」


「俺はそんなに軟じゃない。心が摩耗などしていない」


「自分ではそう思い込もうとしているだけさ。悪いことじゃない。ザクスは強すぎる。だから普通の人と同じ感性を持てない。恐怖とか顕著な例だと思う。君は強すぎるから恐怖なんて感じないと思うけど、多くの人にとって魔物は恐ろしい対象でしかない。数が多ければそれだけ絶望もする。でも君はスタンピードを一人で殲滅できてしまう。そのせいでおびえるような気持ちはあまり感じたことないだろう?」


「そうだな。今まで魔物相手で恐れたことなんてないな」


「でも君の心は間違いなくすり減っているよ、別のことで」


「恐怖以外で俺の心がすり減る原因はタルバにわかるのか?」


「間違いなくわかる。普通の人はならない気持ちで弱っているのさ。それは長年の退屈さだと推測している。人は刺激的なことでも弱っていくけど、あまりに退屈な日々が続いてもダメだ。適度な刺激がないとなんで生きているのかわからなくなってしまう」


 普通の人間の人生は山や谷に例えられることがある。辛く困難なことを山、楽で平易なことを谷になぞらえる。しかしザクスはこのたとえに当てはまらない。

 ザクスの人生を例えるなら海だろう。生まれ落ちた時を海面と捉えて、刺激があればあるほど海面に近づけると考える。若いうちは初めて見る光景に新鮮さや刺激を感じ、空から降り注ぐ太陽の光でさぞかし身の回りの海中は綺麗に見渡せただろう。


 しかし、その景色もいずれは飽きる。景色に退屈した瞬間からザクスはひたすら深海へと沈んで行っているのだ。新たな刺激がないから浮上することもできない。王都に引き籠ってばかりいた強すぎる彼には命を賭けた戦闘以上の刺激が手にはいらなかったのだ。それに光の届かない深海では視野は狭まってしまう。

 自分の現在地もどこへ向かうのかもわからない迷子状態。それこそがザクスの強すぎたがゆえに陥った現状だろう。


 一度でも旅に出ていれば現状は変わっていたかもしれない。だがそれは1等級冒険者という身分が安易には許さなかった。1等級冒険者は一人で戦況を一変させることができるほど強力だ。

 冒険者はどこへ行くも自由だが、他国にみすみす戦力を渡す国はいない。なんとか引き留めようと尽力する。その結果がザクスに代り映えのしない日々を与えたのだ。


「どうすれば刺激が見つかるんだ?戦うこと以外に楽しみなんてなかった。昔は何回か負けたこともあったし、リベンジをして勝てた時は嬉しかった。俺の嬉しかった思い出はそれしかないんだ」


「若く力を持ったのにどうして外の世界を見に行こうと思わないのか。おじさん悲しい。君はどこにでも行ける。望めばなんにでもなれる。でもきっとザクスは手に入ることがわかっているからこそ価値を感じないんだろう」


「手に入ることがわかっているものを手に入れて嬉しいとは思わない。王都にはなんでもある。王都になければ外の世界にもないだろ」


「それは先入観で作られた偏見だ。王都には様々な文化が流入するけどそれが全てじゃない。百聞は一見に如かずともいうからな。ザクスも経験あると思うが、聞いてイメージしていた魔物と実際に戦ってみれば大したことがなかったとか。その逆にめちゃくちゃ手強かったとか」


「それもそうだな。話よりも強かったことは一度もなかったが、聞いたことが事実と等しかったことはあまりないな」


「だから外に出るんだ。何にも負けない強さがあるんだ。どこにだって行ける。誰も見つけたことがない世界の果てや謎を探しに行ってもいいだろう」


「タルバさんは自分ではやってないみたいですけどね」


「ウィンティ、水を差さないでくれ。今いいところなんだから。俺はザクスほど強くはない。それにかなり年を重ねてきている。鍛えていれば衰えを遅らせることもできるが、限界は来る。だがザクスはまだ18歳。伸びしろが十分にあるんだ。旅をして見識を広めることはザクスの今後の人生にきっと役立つ」


「たしかに、今のザクスさんは視野狭窄といった感じですからね。私は気軽に旅できるほど強くはありませんが、ザクスさんなら問題なさそうですよね」


「タルバは俺に旅に出るべきだと考えているんだな?」


「あぁ、そうだよ。君は一つの国に留まるような人間ではないと思う。世界を見に行くべきだ」


「わかった。旅に出よう。そしてタルバについていくことにしよう。よろしく頼む」


「旅に出ることは勧めたけど、同行してくれとは言ってないんだがな」


「断ってもいいが、ついていくだけだ」


 ザクスからの提案に俺は深いため息をつかざるを得なかった。話の流れからしても冗談ではないんだろう。断ったとしても簡単に振り切れるとは思えない。いったん受け入れるとしよう。

 人生経験が長くなれば長くなるほど諦めが早くなる。どうなるか想像できてしまうからだろう。でもこれでいいのかもしれない。ザクスは自分とは真逆だ。強さはなかったが世界を旅したいと思っていた自分と、強さはあっても一か所にとどまっていったザクス。


 不要なお節介と思う反面、自分のできなかったことをザクスにはやってもらいたいと思ったのかもしれない。彼の前途には明るい未来しかないのだ。偽鉱石を盗まなければならない俺とは違う。


 タルバたちは白みだした空を見ながら他愛もない話をつづけた。雲一つない空に太陽が昇る様は新たな決意を抱いたザクスの心に似ていた。


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