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へっぽこ魔人生  作者: 岸辺濫瀟
第6章
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26.ご対面

 カナンやカエデを放置して、崩落して入り組んだアタナシアの城を下る。粒子化を行って隙間を縫いながら例のアンデッドへと向かう。

 岩の隙間を通り抜けると、少し崩れた城の螺旋階段を見つけることが出来た。


「これを下れば辿り着けるか?」


 眼下には老朽化した石の螺旋階段。奥底から感じ取れるアンデッド特有の瘴気が地下からこみ上げてくる。一歩進むごとに強まる瘴気を無視して、歩みを進める。踏みしめたところが崩れるが、それも翼で低空飛行に切り替えれば問題なかった。


(アタナシアがまさか匿っていたとはねぇ…ちょっとこれは想定外だったよ)


 俺の精神世界から現実を見ている古の勇者でも驚いているようだった。少し前に知ったばっかりの存在に出会うとは俺も思っていなかった。というか、ワンパンってどういうことなんだろうか。凄い自信ある感じで言い切っていたけど。


(切り離されたとはいえ、繋がりはあるんだよ?他の肉体はともかく、ここの肉体はアタナシアを倒した時点で正確に把握できてるし、僕の彼らを縛る力が君の影響でで強化されているから無抵抗に倒せるはずだよ。もっとも普通のアンデッドみたいに倒すわけじゃないけどね。)


 そういうことか。自信満々過ぎてむしろ疑わしかった。この古の勇者、自分基準で考えるから一般的な基準と乖離している自覚がない。魔王って存在も魔人よりは弱いらしいけど、古の勇者の話を聞く限りそんなこともない気がする。


(古代の魔人達と現代の魔人たちじゃ総合的な強さが違うからね。今の魔人で当時の魔王に勝てるのはカナンくらいじゃない?あとは数人がかりだったら勝てるくらいかもしれないね)


 とんでもない爆弾発言ですよそれ。古代の魔人ってなんですか。俺知らないんですけど。階段を下りながらツッコミを入れる。


(魔人って生きた年数と使命を果たし続けることで自分に権能を与えた神様との結びつきが強固になっていくんだよね。カナンはその典型例だね。だから悠久の時を生きた魔人って桁違いに強くなるし、生まれて数百年の魔王程度じゃ敵わないのさ。でも使命を果たしていない魔人じゃ勝てないくらいには強い。魔王ってのは不思議な生物でね。創造神様以外この存在について把握していないんだ。つまり創造神様お手製の生物の可能性が高い。だから魔人は介入できないとかなんとか。で、人間達に協力させて倒させようとしているみたいなんだよ)


 へ~。魔王って俺みたいに創造神様直下の存在みたいなものか。魔王って何で生まれたのだろうか。気になるな。創造神様に聞いてみたいところだけど、何でもかんでも聞いてしまうのは違う気がする。空気中を漂う砂埃を払いながらも古の勇者との対話をつづけた。


(理由はわからないけど、そろそろ()()()()()()()()んじゃない?だいぶ時間も経ったしさ、人間も僕が生きていた時代よりも栄華を極めている。僕みたいな存在が生まれるかはわからないけどね)


 怖いこと言わないでくださいよ。あなたがもう一回倒してくればいいんじゃないですか?


(なーに人間寄りのこと言ってるんだい。もう僕も君も人間じゃないんだから、人間の肩を持つことは許されないんだよ?神様のために動くのが魔人だから、使命のために人間を使うならともかく人間のためだけに肩入れすることは違反行為になるんじゃないかな)


 違反行為くらいなら咎められないんじゃないでしょうか。厳重注意くらいですよね。


(裁くのは神様なんだよ?神様が注意するだけで留めると思う?君の場合は使命が伝えられていないから恩赦はあると思うけど、他の魔人たちは消滅だろうね。魔人はまた作ればいいんだから)


 こっえ~。やっぱ神様は恐ろしいな。無条件で消されないことはいいか。気分を伺う必要がないのはいいな。創造神様は意外とフレンドリーだし、そんなに怖い印象も無いんだけどなぁ。


(君が創造神様の魔人だからだね。僕も大概だけど、君も創造神様にとっては特別なんだよ。良くも悪くもイレギュラーな存在だからね。本来は世界を維持するために規律を重んじる方で例外を作らない方なんだ。だってそうだろ?創造神様が作った例外は後の世界で新たなルールと化してしまうからだ。魂の番人という概念がこの世界に作られてしまったけど、そこは創造神様のみが作成可能というルールにしたみたい。大変だろ?新しい概念が出来たらそれにルールを付与しなければならないなんてね)


 魂の番人って元から存在するものかと思っていたけど、そうじゃなかったのか。仕事がどんどん積みあがっていくなんて過労死するんじゃないかな。でも神様って死ねないのか。死ぬことも許されず働き続けるなんて考えたくないな。


 古の勇者から思い出したかのように新情報が飛び出してきて創造神様の心労を慮りながらも、魔王という存在に心を馳せていたところ、最深部に到達した。

 牢獄が左右に立ち並び、蜘蛛の巣が張り巡らされたレンガ造りの牢屋は時間の経過を感じさせる。遥か昔の牢獄だったのだろう。そしてここに人間たちが収容されていたことは想像に難くない。布一枚しか無い牢屋はここに入れられる人間たちの扱いがその程度のものだったのだろう。あとはボロボロの箱が1つだけあるのみだ。


「かび臭いし、ひどい場所だな。上の城にはきっと過去にどこぞの王族がいたんだろうし、そいつらが使ってたんだろうけどまともな監獄って感じはしないなぁ。立場を使って私刑相手を監禁していたんじゃないかと思ってしまう」


(近からずも遠からずだね。ここが監獄ではないのは正しいけど、私刑相手の監禁場所でもないんだ。僕はここと似た場所を知っているから推測がつくんだけどね)


「じゃあここは何が行われていたんですか?人間がいたような場所ですけど…」


(ここは実験対象を一時的に収容する場所さ。だから最低限の設備しかない。生きてれば状態なんて気にされないんだ。どこぞのマッドサイエンティストが作った薬の効果実験や呪いといった公で試すこと出来ないものを実験する場所さ。)


 人間の実験場。そう言われれば得心がいった。箱は排泄物を入れる用なんだろう。布一枚で死ななければいい程度の管理というわけか。自分が知らないだけで世の中糞みたいな施設があるもんだ。


(新しい技術っていうのは犠牲無くして発展することは少ないと思うよ。なんだって失敗してその失敗を糧に新しい挑戦をするからさ。その犠牲が人間だったってだけで。)


 この光景を見て淡々と言えるとは古の勇者さんは中々肝が据わっている。そう思ったとき、ふとなぜこんなことを知っているのかと思った。古の勇者は生前は清廉潔白さで有名だった。もしこのような施設に加担しているのであれば後世で暴かれてもおかしくはない。それに古の勇者の顔は当時の誰もが知っていたとも言われている。だからこそ、このような施設の存在を知っているのは違和感でしかない。つまり、それは―――。


(君の辿り着いた結論。それが答えで間違いないよ。僕の最期はここと似た場所で迎えたんだ。そうしてこの先のアンデッド達が生まれてしまった。ただそれだけの話。もう昔過ぎて最期の瞬間に抱いていた感情すら覚えてないけどね)


 言いづらいことを言わせてしまったという申し訳なさがこみ上げる。ただここで謝罪するのは何か違う気がして踏みとどまった。今聞かなくてもいつか必ず聞いていた気がする。そしてこれと似たような施設があるという発言からもきっと避けては通れない話題だったと思う。


(それでいいよ。遥か昔に死んだ僕に気なんか使わなくていい。そんなことよりも君は君の人生を生きないとね。古い時代には古い時代の出来事があるというだけの話さ。今ほど倫理観も醸成されていなかっただろうから。時代がそうさせたのさ)


 あっけらかんと言い放つ古の勇者ではあるが、どこか寂しそうだ。俺はこれ以上悲しい記憶を思い出してほしくはないと思い、足取りを早めた。最奥の牢屋は金属製の扉が何重にもロックされていた。それでも外からは比較的開けやすいのか錠前を壊してロックを粉砕していく。水刃をチェーンソー代わりに使って一つ一つ丁寧に壊すとようやく扉が開いた。


 目の前には人型の闇が立っていた。文字通り暗闇。一歩も動かず尋常じゃない瘴気をふりまくそのアンデッドが古の勇者の体を用いて作られた6体のうちの1体。俺は権能を用いてそのアンデッドを浄化していく。表面が徐々に薄まると、人の肌が見えた。アンデッドと聞いていたためか、ゾンビのような存在を想定していた。だがアンデットというのは不死の存在に広義で使われる言葉だ。目の前のある物体を核にして動く不定形の存在もまたアンデッドであると言える。


 この黒い靄のアンデッドの心臓部には人間の右腕が埋め込まれていた。傷一つない綺麗な右腕。肩から指先までまるで生きているかのように生気が宿っているようだった。


(その腕をこのアンデッドから引き抜いてほしい。それで君の権能で靄を消し飛ばし、腕を処分してくれれば終わりだよ)


 無抵抗で核を引き抜かれた黒い靄は俺の光で浄化されていった。周りの瘴気も薄まり残されたのは核となっていた古の勇者の右腕のみとなった。

 黒い靄を消滅させたタイミングで、腕の血管に当たる部分が黒く発光し始めた。どうやら呪いの核であることは間違いないようだった。だが弱めの光では浄化しきれないほど強力な呪いが付与されているみたいだ。


(本腰入れて浄化しないとまずそうだ。呪われることは無いだろうけどね。頼んだよ…)


 俺は深呼吸して右腕に向き合う。右腕を床に置き、胡坐をかいて座ると両手で腕を抑えた。そして腕に光を集中させて古の勇者の右腕を光で覆う。右腕の切断面から腕内部に光を通して内部からも外部からも浄化を始める。数分経過したころ、右腕は朽ちて砕けた。


「…終わりましたよ。これで残り5体です…」


(手間かけさせて悪かったね。そしてありがとう)


 古の勇者は自分が悪いわけでもないのに謝罪と感謝を述べる。俺は納得が行かなかった。なぜ被害者である古の勇者が後始末をしているのだろうか。この世の不条理を感じざるを得ない。加害者は好き勝手に生きて、被害者はいつまでも起きたことを引き摺っている。人間の業への理解が甘かった。庶民である俺にはわからない。わかりたくもない。


 浄化が完了した古の勇者の右腕があった場所から小さな光が出現し、俺の右腕に吸い込まれていった。

 特に俺の腕が変わったわけではない。見た目も動かした感じも権能も全て何も変わらない。何だったんだろうか。


(さて、この場所にもう用はないから戻ろうか。長居するような場所でもないからね)


 古の勇者に促されるがまま俺は実験場を後にした。最後の光はなんだったんだろうか。そして自分の知らなかった人間の負の側面を実感して人間という種族に対する気持ちに変化が生じていた。理解できないことばかりだけど、今は出来ることをやらなくてはな。




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