表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

たらこのエッセイ集

とある隣人の話 ~小さな城に住む者たち~

 蜂の巣ができた。

 バルコニーの屋根に、小さな、小さな、蜂の巣ができた。


 蜂の種類はアシナガバチ。

 危険ではない種類だと知っていたので、放っておいた。


 彼らはせっせと働いて巣を大きくし、新しい命をせっせと育てた。

 日に日に拡大していくコローにには、ぎっしりと幼虫がひしめいて、蜂たちが懸命に世話をしている。


 たらこが近づいても彼女たちは怒らない。

 こちらから干渉しない限り、敵対行動をとらない大人しい種のようだ。

 ネットで聞いた話は事実であったらしい。


 彼女達と直接もめることもなさそうなので、傍でそっと見守ることにした。

 巣には触れずにそのままにしておく。


 どうやら虫を捕まえてくれるらしいので、ある意味では益虫と言えなくもない。

 別に家庭菜園をしているわけでもないが、ちょっと得した気分である。


 季節が夏場に差し掛かると、強い日光が彼女たちの巣に当てられる。

 暑さでばてているのかあまり動こうとしない。

 そんな彼女達を不憫に思いながらも、遠くから見守ることしかできなかった。


 しかし、やはり野生で鍛えられた強さは違う。

 連日の猛暑を難なく耐えきり、彼女たちの巣は繁栄していった。


 たらこも安心したのだが……その矢先。

 侵略者たちが現れる。


 ある日、いつもと様子が違うことに気づいた。

 バルコニーを蜂たちが飛び回っているのだ。


 大きな羽音を立て、騒がしく何かを訴えている。


 何事かと思って巣を見ると、すぐに理由が分かった。

 スズメバチが襲撃してきたのだ。


 無遠慮な侵略者は傍若無人にふるまい、巣の中から幼虫を引きずり出して肉団子にしていた。

 足元には無残に散らばるアシナガバチの死体。


 このままでは全滅してしまう。

 そう思ったたらこは、その場にあったシャベルを使って、巣に陣取っていたスズメバチを叩き落とす。


 この行為が大変危険なことは承知している。

 それでも黙ってみていることはできなかった。


 幸いにも、最初の一撃でスズメバチは撤退。

 他の仲間もシャベルで追い払うと姿を消した。


 しばらくして、生き残った者たちが巣に戻って来た。

 数が減って寂しくなったが、全滅は避けられたようだ。


 それからしばらくして、巣から蜂たちが巣立って行った。

 がらんとした抜け殻になった城にはもう誰もいない。


 空っぽになった巣を見て少し寂しくなると同時に、新しい命がどこかで生まれる可能性に胸を躍らせる。


 もしかしたら、彼女たちはまた近くに巣を作るかもしれない。

 その時はも傍でそっと見守ろう。


 命は巡る。

 生き残った命は次の世代へと引き継がれていく。


 来年、彼女たちが作った巣を見かけたら、命のつながりを実感できるだろう。

 それは何よりも素晴らしいことだと思う。


 挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] スズメバチ!危ないっ……! でも、アシナガバチ達を助けたくて咄嗟に手が出ちゃったんですね。 たらこ様優しいなぁ。 でももうスズメバチとは戦わないで下さいね
[一言] スズメバチを撃退するとは……。 大事にならず、良かったです。 が、やっぱり、あまり無茶しないでくださいね。
[良い点] たらこさまに怪我がなくて良かったです〜。゜(゜´ω`゜)゜。 蜂さんがいなくなって寂しいですが、きっとどこかで頑張って生きていると私も信じています。 素敵なエッセイをありがとうございました…
2021/11/15 19:59 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ