街3
どうせ石と砂の街ならば、銀河鉄道の夜に登場する白鳥の停留所の様にキラキラと輝く水晶だったらどんなに良かっただろうか、然しながら私の眼前に広がる光景は水晶とは程遠い遺跡のような街並みであった。
「大理石ならまだしも、これではピラミッドだな…」
す
私の知らぬ間に地球温暖化が急加速して街中にも砂漠化の波が押し寄せてきたのであろうか。この世紀末の様相を呈する街の中で人を見つけるのは絶望的だなぁと思いつつも、他にすることが無いため仕方なく歩みを進める。
牌楼にもヒガシモン同様、中央部に看板のようなものが備え付けられているのだが、こちらは何が書いているのか理解できなかった。それは達筆すぎるからだとか、海外の文字だからと言う訳ではなく、今まで生きてきた中で見たことのない全くの未知なる記号が描かれていたためである。然しながら理由は定かではないが、これは文字なのだと言うことだけは漠然と理解できた。
何か解読のヒントでも無いものかと牌楼の周りをウロウロしてみたが、特に目ぼしい物は見当たらず、解読は早々に切り上げて更に奥へ進む事を優先した。
ここ迄の道のり同様、道の両サイドには商店が建ち並んでおり、相変わらず文字は一言も理解不能ではあるが、店先に食品サンプルが展示されていたり、看板に目のイラストが描かれていたり、屋台に饅頭やソフトクリームの描かれた暖簾が下がっているなど、見た目で何となく何の店かわかる場合が殆どであった。驚くべき事に土産物屋まで存在し、扉が開放されているため中の様子が伺えるのだが、石でなければきっとフワフワしていたであろう提灯やら、菓子類であろうか?いくつもの箱が積み重なった1画やら、壁にはヒキガエルとナマケモノの中間の様な眠たげな目をした謎の生物を模った巨大なお面が掛けられていたり、最早何を模っているのかすら不明な泡の塊のようなキーホルダーがいくつもの飾ってあるなど、そのラインナップは私の知る物とはかけ離れていた。
暫く建ち並ぶ商店を物珍しい気持ちで観察しながら歩いていると、遠方にまたもや牌楼がそびえ立つのが見えてきた、然しながら遠目で見る限りでは看板らしきものは見当たらず、それが新たな入り口では無く、この街道に終わりを告げる出口なのではと思われた。あの門を潜れば何かしら進展があるかも知れぬと期待に胸を膨らませ、歩く速度もどんどん早くなり、最終的には駆け足で門へと向かっていた。
こんなにも早く走れただろうかという速度でどんどん牌楼に近づいて行き、そのままの勢いで門を潜ろうと門下へ一歩足を踏み入れた瞬間、ポヨンっとゼリーの様な柔らかい何かに弾き飛ばされ盛大に尻餅をついた。
「見えない壁でもあるのだろうか?」
何事かと訝しみつつゆっくりと立ち上がり、弾き飛ばされた場所に恐る恐る手を伸ばしてみる。やはりフニフニとした触感の目に見えない何かが行く手を阻んでいるようで、潜る位置をずらしても、匍匐前進で進んだとしてもそれ以上先に進む事ができなかった。
クスクス…クスクス…
私が門前で四苦八苦していると、どこからともなく笑い声が聞こえてきた。
「人が歩みを進めようと悪戦苦闘しているというのに!人の努力を笑うんじゃない!」
笑い声の正体を突き止めてやろうと辺りをキョロキョロ見回すと、明らかに周りの景色とは異なる建造物を発見した。門を潜る事に夢中になるあまり全く気が付かなかったのだが、何とその建造物には…
「色がある!」
この世界に来て初めて見る遺跡化していない建造物にも看板が備えており、そこには"ウラナイノヤカタ"と記されていた。