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ハングリー 精神  作者: 狩瀬G2
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第3会議室

 時刻は11時55分、場所は会社内である。今朝出かける際に妻から愛妻弁当という名の愛情の塊を持たされた私は、出勤中も仕事中もこの弁当をどこで食するべきか考えていた。


 普通なら自分のデスクで食べれば良いだけの話なのだが、同じオフィス内では憎っくき上司イヤミ係長が、昨日我が妻と共に旅行から帰宅したであろう奥方がこしらえた弁当を食す筈であり、この場で私も愛妻弁当を広げ始めた日にはどんな表現方法でからかわれるのか分かったものではない、その為自分のデスクで食すという選択肢は無い!


 それでは食堂ならどうか。いや、社員食堂という限られた座席数で、注文もせず持参した弁当を貪り食うのは、トコロテンのように太い心を持つ私でも流石にはばかられる。食堂はなしだ!


 外でコンビニ弁当やサンドイッチを食べている社員も見受けられるが、私からすれば論外である。虫や埃を気にしている訳ではない、そんな事をいちいち気にしていたら今後縁日で何も食べられなくなってしまう。そうではなく、私の1番の気がかりは天候である。天気が良い日ならまだ良いが、雨や雪の日はどこで食べたら良いのかと今のように右往左往する事は必至、であるならば、今日一日悩み、今後は悩まずに済む場所を見つけ出すほうが効率的ではないか!


 そんな侃侃諤諤の議論を1人脳内で行っていると、いよいよ社内には12時を告げる鐘が鳴り響き、各々が昼食を取るため大移動を行い始めたため、係長に目を付けられる前に私もひとまず歩きながら使用頻度の少ない部屋を探そうと弁当を引っ提げ、社内の狭い通路を人の流れに逆らいながらうろついていると、唐突に既視感を覚えた。


「そうだ、ちょうど良い場所を夢で見たではないか」


そう呟くが早いか、愛妻弁当を後生大事に抱え、半ば駆け足で既視感の正体となる目的の部屋へと向かった。


 辿り着いたは第3会議室、滅多に使用されることはないこの部屋であれば存分にお一人様昼食が堪能できる、そもそもこの階自体が会議室や資料室等、普段は立ち寄ることの無い部屋ばかりが集められた階層の為、万が一第3会議室が使用中でも、臨機応変に他のこじんまりした部屋へ移動すれば良いのだから、我ながらナイスな思い付きである!


 昼の大移動の時間帯でも通路には誰も居らず、当然ながら室内ももぬけの殻だと思い込んでいた私は、中の様子を確認することもなく、鼻歌交じりに勢い良く扉を開け放った。


「おや、キミは…随分とご機嫌な様子だね」


中に人が居た、それも普通の人ではなく、とてもとても偉い御方がいらっしゃった。


「新居屋部長!先日は高価なお酒を頂きまして誠に有り難う御座いました!とても美味しゅう御座いました!」


見よ、この咄嗟に出たとは思えない程美しい最敬礼を、上体を腰からきっかり45度前へ倒し、頭から腰にかけて真っ直ぐに伸びた背筋は素晴らしい角度を生み出している、挨拶の文言も完璧である。


「気に入ってもらえて何よりだよ。しかし惜しい、折角綺麗なお辞儀であるのに、言葉と同時にお辞儀は残念だ、語先後礼、私には分離礼をして欲しかったね」


「申し訳ございませんでした!」


クスクスと笑う部長に対し、早速分離礼で最高の謝罪を披露する。私は指摘された事は即改善出来る男なのだ。

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