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ハングリー 精神  作者: 狩瀬G2
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アダ名

 日本には約29万種類の苗字が存在するのはご存知であろうか?私の苗字は明治時代から続く歴史のある由緒正しい苗字であるらしいのだが、その苗字に特段の思い入れは無く誇りを感じた事も皆無だった。


「よーし!それじゃあ今日からキミのアダ名はポンタ君だ!」


入社歓迎会、まさに宴もたけなわという所で私に不名誉なアダ名が与えられた。名付け親は赤ら顔で満面の笑みを浮かべる熊野美係長その人であった。


「か、係長…なんでポンタ君なんですか?」


側にいた先輩社員様が引きつった顔で恐る恐る係長にたずねる。私の体型からその発想に至ったのであればコンプライアンスに抵触してもおかしくはなく、私と係長を交互に見て上司と新入社員の顔色をうかがう先輩社員様は大変気の毒であった。


「彼の苗字知ってる?読み方変えたらポンタって読めるじゃない?彼ぽっちゃりしてるしピッタリだと思うんだよね〜!」


自らが発した一言が相手を傷つける要素を含んでいるなんて発想が微塵もない、まるで世界から戦争をなくす方法を思いついたかの様な純真無垢な笑顔で答える係長を、私はぽかんとした表情で見つめる事しかできなかった。


 失って初めてその大切さに気付くことが出来る、家族、恋人、友人、ペット、大抵の人が挙げるのはこんな所ではないだろうか?私の場合初めてその大切さに気付くことが出来たものは苗字だった。小学生時代、中村君に"チュウソン"と言うアダ名を付けた私への天罰が今下ったのであろう、もし中村君と再会することがあれば心の底から謝罪しようと心に誓った。


 最初の数ヶ月こそアダ名で呼ぶのは熊野美係長だけだったが、1人、また1人とポツポツ増え続け、入社5年目の現在に至っては、私を本名で呼ぶ同僚は皆無となった、社内では剽軽であることを心掛けていた結果後輩ですらポンタ先輩である!


「ポンタ先輩って何ポイント保有してるんですか〜?」


「私はコンビニエンスストアに生息するオレンジ色の狸ではないっ!」


 とても悔しいので一度だけ熊野美係長の名前で検索したことがある。和歌山県御坊市又は和歌山県田辺市にお住まいの方々には言うまでもない周知の事実であられる事と存じますが、恥ずかしながら私はこの時初めて"くまの"以外の読み方を学んだのだ。私の人生の中で熊野美係長の存在が為になったのは後にも先にもこの時だけであろう。


「ふっふっふ…流石に面と向かって呼べる読み方ではないが、私の心の中ではいつもこの読み方で呼ばせていただこう…そう、イヤミ係長と!」

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