占の館
この状況で何かを占ってもらうでもないが、兎に角周りとは一線を画すその外観は、中に人がいる可能性を大いに秘めており、まるで実家に帰省でもしたかのような安心感を与えてくれた。
その館は、校庭の隅にひっそりと佇む気象観測用の温度計を入れた俗に言う百葉箱なるものを、そのまま人が入れるサイズにまで巨大化させた様な簡素な作りをしており、その屋根は闇のように黒く、壁は夜空をイメージしているのか深い青色のグラデーションで彩られ、至るところに星が散りばめられた典型的な占いの館といった具合であった。普段なら胡散臭いと思うところではあるのだが、この状況では中で待ち構えているであろう占い師を無条件で崇拝してしまうのでは無いかと思う程気持ちが昂ぶっていた。
ゴクリと生唾を飲み、深い深い深呼吸を経た後、満を持して館内に足を踏み入れると、外観の通り内装も小ぢんまりとしており、広さとしては駅構内の売店や宝くじ売り場を彷彿とさせる狭苦しいワンルームであった。残念な事に期待していた占い師の姿はなく、あからさまに落胆した私は、足を踏み入れる前とは異なり、深い深い溜め息をついた後、中央部の丸テーブルと共に置いてある客用とおぼしき肘掛け付きの椅子にゆっくりと腰を下ろして休憩に入る事にした。背もたれに体重を預けつつ部屋を見回してみると、席は紫色のカーテンで囲まれており、テーブルを挟んで向かい側には占い師用であろう客用よりも少しばかり豪華な肘掛け付きの椅子があり、更にその奥には小さな木製の本棚が備えつけられていた。向かって右側の壁にはどこの国だか島だかよくわからない地図が飾ってあり、何かしら文字が書いてあるのだが、外の文字同様理解は叶わなかった。
なんとなく本棚に収められた書籍のタイトルを見てみると、背表紙に記載されたタイトルは全て片仮名表記で読みにくい事この上ないものの読解可能で、並んでいるのは占いに関する書籍ばかりであると思われた。テソウ、ニンソウ、セイメイハンダン、セイザ、タロット、トランプ、テリョウリ、ルーン、フウスイ、スピリチュアル…一つ一つ順に読んでいくと違和感を覚えた。
「テリョウリ…手料理?」
およそ占いとは関係のなさそうな場違いなタイトルに、かえって関心が湧いてしまい、ゆっくりとその本に手を伸ばしてみる。そう言えばこの街のものに触れるのはこれが初めてでは無いだろうかと思いながら、手に取ったテリョウリの本を開いてみた。




