6
すぐ後ろではまだヤマグチたちがわあわあ言っていたが、慌ただしくスクリーンは消え去った。サノが通信を強制終了させたらしい。
「すごかったな…」
みなみが肩をすくめた。女の子モードに変化したニコは一人、小躍りしていた。
「パパアに会えてよかったナッ、うれしいナッ!」
「ヤマグチ技官か。こんな『魔女プリ』の変身ブローチに匹敵するほどの可愛いもんをあの人が作ってたとはねえー」
みなみが自分のタイムパスポートやスカイジュエルウォッチを眺めながら呟いた。
「パパアには年の離れた妹チャンが二人かいるからネ。女の子の心の琴線に触れるファンシーグッズがどんなものか心得てるんダヨ」
「ふーん…そういえば、さっきのヤマグチ技官、第八部隊の元副隊長だったんですよね。今の副隊長さんはどんな人なんですか?」
何となく英麻はミサキに尋ねてみた。だが、なぜかミサキは彼にしては珍しくううむ、と唸ってしまった。
「…俺の口からはちょっと」
「え?」
「何て言うか…あまりつかみどころのない人だから説明しづらいんだよね」
「えええっ!?超つかみどころがなくていまだに若干、付き合いにくいマイペースな自由人、ミサキさんにつかみどころないって言わせるなんて…余計、気になる」
「今、さりげなく失礼なことを言ったね」
「あ…すみません。つい、本音が」
「まあ、ほんとのことだから別にいいけど」
ミサキは少し笑った。別に怒ってはいないようだ。英麻はほっとした。
「おい」
ハザマの低い声がした。石ころでも投げつけてくるみたいな親しみのかけらもない声。
「そんな話、今は関係ないだろ」
まただ。
やはり刺々しい態度でまたもハザマは英麻をにらんでいた。いつもの単なる口の悪さとは違う。一体、どうしたのだろう。英麻は戸惑うばかりだった。
「ハザマ…?」
「そろそろ行くよ、英麻ちゃん」
「えっ…は、はい!」
ミサキに呼ばれて英麻は慌ててかけだした。
「こっちにある一番、大きな御所が光明子の住まいだ。御所とは皇族を始め、身分の高い人物の住居を指す」
ミサキがひときわ立派な建造物を示した。
優雅な絵のように美しい屋敷がそこにはあった。
白い壁も赤い柱も宝石のごとく輝いており、植栽の手入れも隅々まで行き届いて申し分ない。屋敷の周りに漂う空気すらきらめいているかに見えた。
すごいなあ。日本昔話に出てくるお城みたい。ここに住んでるお妃様にこれから会うのかー。
英麻はハザマのことはひとまず忘れ、これから対面する五人目の宿主について考えることにした。
藤原光明子。
現皇太子妃、そして将来、天皇の妃となる女性。
どんな人なんだろう。っていうか、私、ちゃんとお話できるのかな。住む世界百八十度、違うのに。
邪馬台国女王、卑弥呼に会った時も緊張したが、今回はそれ以上だった。
皇太子の妃が暮らすにふさわしい荘厳な御所はもう目の前だ。英麻は胸の鼓動が早まるのを感じた。
入り口の扉が近づいてくる。