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それは白衣らしきものを着た、大柄な青年だった。肌は褐色に近く、たくましい印象を感じさせる。
「パパア~ッ!会いたかったヨ、ニコチャンのパパア~!」
ニコが大ジャンプしてスクリーン越しの白衣の青年にくっついた。小さな子ブタ型ロボットはそのまま頬をすりすりした。
「おおおっ、ニコォッ!ニコなのか?あー、淋しかったぞおー。元気か?ちゃんとご飯食べてるのか?」
青年は顔の全筋肉が緩むくらいのとろけた笑顔で、同じくニコに頬をすり寄せる。英麻とみなみはますます面食らった。
「…パパア?」
「何それ」
「ニコはヤマグチ技官のことをそう呼んでるんだ。俺たちは『ぐっさん』だけど」
ミサキが慣れた様子で画面を見ながら答えた。
「ヤマグチ技官?」
「かつて第八部隊の副隊長だった人だよ。今はタイムパトロールの技術部で技官をやってて、スカイジュエルウォッチや君たち専用のタイムパスポートを製作したのもぐっさんだ。ニコ777の生みの親でもある」
「う、生みの親!?じゃあ、あの男の人がニコを作ったってこと!?」
「うん。だからニコはああして誰よりも懐いてるってわけ」
英麻たち二人はひとまずヤマグチに挨拶をしようとしたが、スクリーンの向こう側はさらに人数が増えていた。
サノの後ろに新たに三人。皆、タイムパトロールの制服姿だった。彼らもヤマグチと同じく口をそろえて「特別部隊をぎゃふんと言わせろ」だの「俺たちの仇を討ってくれ」だのとこちらに向かって発破をかけていた。サノが頭をかきつつ、英麻とみなみに声をかけた。
「ごめんね、二人とも驚かせちゃって。こちら右から順に、僕らと同じ古墳エリア担当の第七部隊ミナミザキ隊長、弥生エリア担当の第六部隊イヌイ副隊長、そしてヤマグチ技官と同じく技術部技官でトライアングルの管理責任者であるホシノ技官」
「ご紹介どうも、サノ。いーか!ミサキ、ハザマ、そして選ばれしスカイフェアリーズの諸君ッ!ぜえったい、あいつらにだけは手柄を上げさせるなよ。時間犯罪者の出没頻度が全時代中、最も少ないというだけで古墳エリア担当イコールヒマと決めつけてる、あの特別部隊にはなッ」
ミナミザキがスクリーンから飛び出さんばかりの勢いで怒鳴った。どうやら彼らそれぞれ特別部隊への恨みがあるようだ。
「私が属する第六部隊は弥生エリアでの囮の国宝強奪事件において初期対応が不十分だったと批判されました。それも真綿で首をしめるかのごとく陰湿な言い方で…」
「俺はこの前のグレイス・オマリーが襲われた件で大量の始末書を書かされた。特別部隊の奴ら、『メビウスが大航海時代に侵入できたのは日本側のトライアングルの品質が悪いからだ』の一点張りで、こっちの話は聞く耳なしだったさ」
イヌイとホシノの言い分が終わった所でミナミザキがさらにもう一人、端から誰か引っ張り出してきた。ヤマグチやミナミザキと同年代と思われるその青年は目の下に隈をこしらえ、どんよりした暗い雰囲気を漂わせていた。
「アメミヤ隊長…あの、大丈夫ですか?」
遠慮がちにハザマが声をかける。
「…あー、ハザマか……頑張ってくれよな…応援してるから」
ヤマグチがどんより青年の背中をばしっとたたいた。
「こいつはアメミヤ。第十五部隊の隊長で担当は平安エリアだ。アメミヤも含め、平安エリア担当の部隊は、紫式部たちが狙われた事件に伴い、特別部隊からメビウス侵入防止計画の改善策を求められては何度も案を却下されたんだ。何かと難癖つけてな。おかげでこいつはすっかりやつれちまった」
「それは第六部隊もやられました」
イヌイが拳を震わせた。
「…うちのタナカ隊長はいまだその打撃から回復しておらず、今日は副隊長である自分がこの場に出てきたというわけです。ああ、悔しいっ」
「あいつらは誰に対してもそうだ。タイムパトロールのイロハを学ぶ時空警護学校の入学試験―――毎年、そこで最高成績を取った者だけが特別部隊に入ることを許される。それゆえ、自分たちがタイムパトロールの中で最も偉いと思ってる。俺が手塩にかけて完成させたスカイフェアリーズ専用タイムパスポートにもあれこれけちをつけてきて…軽量化に成功し、隊員たちのものよりデザインや色に柔らかみと可憐さを持たせ、伸縮自在の首にかけられるチェーンも取り入れた自慢の一品だというのにっ!」
「ヤマグチよ、話がそれてるぞ。いずれにせよ、このまま馬鹿にされ続けるのは我慢ならん。連中の鼻を明かす必要がある。そして、今がまさにそのチャンスなのだッ!」
ミナミザキがサノの背後からさらにぐいっと身を乗り出した。ホシノ、ヤマグチ、イヌイもそれに続く。
「特別部隊以外の隊員が超重要アイテムである時の花びら回収のサポート役になったのも、何かの運命に違いない。通常巡回担当の部隊でも大仕事ができるってことを証明するんだ!」
「おお、そうだッ。第八部隊の底力、見せてやれ!」
「スカイフェアリーズの君たちもよろしく頼みますよっ!」
「ちょっ…せ、先輩方、落ち着いて」
アメミヤ以外の四人に容赦なくのしかかられたサノが悲鳴を上げる。英麻たちは彼らアンチ特別部隊の熱気に気圧されるばかりだった。
押し潰されかけながらも何とかサノが顔を出した。
「くっ…と、とにかく…メビウスには十分用心して回収任務の方、頑張って。それじゃっ!」