俺はおねぇのおにぎりを、また、食べたい
3つ違いのおねぇと、俺は今日、同い年になる───
親は何も言わないのが、なんか重い。
言ってくれればいいのに。
『事故に遭わないでね』とか……
声に出したら、現実になるとでも思ってんのかな。
思ってんだろうな……
「おい、ヒロ、お前の17歳は今日から始まるんだぞ! 祝ってやるから、カラオケでも行っちゃおーぜーぃ」
「明日、お祝いしてくんね?」
「なんでよ」
「なんでも」
「そ。じゃ、人、集めとく。やっぱ女子もいなきゃだめっしょ」
結局合コンしたいだけじゃん。
声には出さなかったけど、俺の顔には出ていたようだ。
イブキはウインクしてきたが、どうみても両眼が瞑っていた。不器用なやつ。
家に帰っても誰もいない。
そりゃそうだ。両親は共働きだ。
月末だから、どちらも残業確定。
テーブルには母親の字で、
『誕生日おめでとう!
冷蔵庫におかずあるから
週末、みんなで食事に行きましょう』
少し丸い字がおねぇと似てる。
冷蔵庫を開けると、俺の好物の煮込みハンバーグがあるが、
「……鍋ごとって……ねーわ」
炊飯器を開けると、そこは空だ。
「米ぐらい炊いてよー」
俺は米をはかりながら、ふと、おねぇのおにぎりを思い出す。
両親がいない日は、大抵、おねぇのおにぎりが出てきたからだ。
「……よし、今日は俺が、おにぎりでも作っておいてやろう! 祝われる側がもてなすなんて、チョー俺、すごくね?」
スマホをいじっていれば、あっという間に米は炊ける。
粗塩と海苔、ツナマヨを用意した。俺アレンジで、黒胡椒多めに。
思えば、おねぇのおにぎりはちょっと大きめで、綺麗な三角だった。
ラップにご飯をのせて、ツナマヨを包むように、三角になるように握ってみるけれど……
「なにこれ。丸にしかならなくね?」
みっちりと詰まったおにぎりに塩をまぶし、海苔を巻く。
皿に乗せれば、少しはマシに見えてくる。
大小様々、5つのおにぎりができたので、一番小さなおにぎりをおねぇに、中位の大きさを俺のおやつにして、仏壇へと持っていく。
「おねぇ、いっしょに食おうぜー」
ひと口噛んだ。
なんだこの米の塊。
味、しねぇし……
おねぇのは、ほろほろって、ご飯がほぐれてた。
同じように作ったはずなのにな……
「……おねぇのおにぎり、また、食いてぇなぁ……」
かたく握りすぎたせいか、喉に、おにぎりが詰まる。