冒険者の訓練(エリックの考察)
死ぬ思いでやっとのことゴブリンをやっつけた。
パチパチパチパチ……
エリックが拍手してくる。
「いやー凄いね。
まさか本当に倒してしまうとは思わなかったよ!」
エリックは大袈裟に驚いてみせる。
倒すことはできたかもしれない。
けれどもアレじゃどう足掻いても魔物相手の実戦では通用しない。
「面白い技だったけれども実戦ではあまりおすすめできないね。
君も気が付いていると思うけれど1vs1の決闘と戦闘ではまるで勝手が違うからね」
絞め技はかけている最中は完全に無防備だ。
敵が2人いたら残りの1人に攻撃されるし、人型の魔物以外には通用しないだろう。
「ゴブリンはあまり強い魔物じゃないんだ。
防御力も攻撃力もそこまで高くない。
ゼロ君の攻撃があまり効果無かったのは武器と魔力が無かったからなんだ」
「……はい、木刀で殴っても効果ありませんでした」
木刀は武器だ。
「木刀を武器にするにはこうしないと……」
そう言ってエリックは短剣を振るい訓練場の奥にあるわら人形に飛ぶ斬撃を放ち真っ二つにする。
「なんだそりゃ?」
思わず声が出てしまう。
「魔力が使えなきゃ木刀は武器にはならない。
真剣を使えば攻撃力はその分上乗せされるから魔力と武器は相乗効果があるってこと」
つまり最初からある程度強い武器を使うか、
もしくは魔力を使うかということなのだろうか?
「今回は魔力がないと人は魔物と戦えないって事を身を持って体験してもらうつもりだったけれど……」
エリックはついさっきまでゴブリンだった魔石を見つめてから言葉を続ける。
「ゼロ君、君強過ぎるよね?」
「え……?」
何言ってんだ?
さっきのゴブリンとの戦闘だって私の攻撃は全く効果なくて完全な泥試合だった。
「はぁ〜……」
エリックは深いため息を吐く。
「君は魔力の使えないただの6歳の少年のはずだよ。
まともな武器もほとんど使わないで子供がゴブリンを倒してしまうなんてありえないよ」
エリックはゴブリンの魔石を拾い上げてじっと見つめる。
「普通はどうなんですか?」
ゴブリンの強さがよくわからない。
「普通は君くらいの歳の子供なら剣と魔法をある程度使えないと勝てないね」
なるほど。
「それだけじゃない!
僕は今日回復魔法をまだ一度も使っていない」
どういう意味?
そう思った時にエリックは回復と洗浄魔法を私にかけてくれる。
青白い光に身体が包まれ気持ちいい。
「かなりスッキリしたでしょ?」
エリックが優しい笑みを浮かべる。
「いや〜回復魔法無しで君がどこまでやれるか試してみたんだけど……
君のスタミナや回復力それに力や防御力も全部異常だね!
想像以上に面白い!!」
エリックは目をキラキラと輝かせる。
どういうわけかものすごいエリックに対する怒りが込み上げてくる。
「もしかしたら魔力ゼロっていうのは魔力袋が壊れているせいで本来なら魔力袋に蓄えられるはずの魔力が常に全身を駆け巡り自動的に身体能力や自己回復力の強化などの作用があるのかもしれない。
実際に君の身体能力は補助魔法をかけた状態よりは劣るが普通の人よりは遥かに優れている。
しかもそれは補助魔法とは違い1つの効果に1つの魔法ではなく常に全ての状態が強制的に強化され続けているとすれば納得できる……」
エリックが独り言の様に話し続ける。
何が言いたいのか全くよくわからない。
目を丸くしてエリックを眺め続ける。
「つまり何が言いたいかというと
君は最高の実験台だ!……じゃなくて弟子だ!!」
エリックをジト目で睨みつけると言葉を言い換える。
コレって絶対に面白がっているだけだよね……
「……ゴホンッ!
今日はそんな君のために獣人組合で歓迎会をします!
食べ放題・飲み放題だから遠慮しないでどんどん食べてね。
そういう訳で僕は上で用意しているから準備ができたらゆっくりおいでね」
エリックはワザとらしく咳払いをするとそう言い残して慌てて酒場へと行ってしまう。
……多分、私の機嫌を取るために急遽開催する事にしたのだろう。
いきなり回復魔法もなしで特訓の後にぶっ通しで更にゴブリンをけしかけるなんて、
どう考えてもマトモな大人のすることではない。
きっと明日からも命の危険性がある訓練に付き合わされるのであろう……
『命を大事に生き残ること』
それだけを目標に頑張ろう。
エリックが置いて行ったゴブリンの魔石は記念に貰っておく事にして、木刀を片付けて荷物を取りゆっくりと酒場へ向かい階段を上がって行った。




