冒険者の訓練(剣術2)
それから十数回は打ち合ったであろうがまだ一度もエリックに私の攻撃は擦りもしない。
こっちは息するのもやっとだというのにエリックは涼しい顔をしている。
ちょっと考えてみたのだが、あまりにも圧倒的な実力差があり過ぎると訓練にならないんじゃないのか?
それにギルドマスターというのはギルドのトップなので忙しくわざわざ初心者冒険者に剣術を教える時間の余裕なんて無いはずだ。
「エリックさんの他に冒険者の稽古をつける人っていないんですか?」
新人冒険者を育成するのにいちいちギルドマスターが出てくるのは少し変な気がする。
「いるよ。
でも僕は君に興味があるから」
エリックが不敵な笑みを浮かべる。
生憎とそういう趣味は……
現在は同性なので無しでいきたい。
エリックは少し頼りなく見えるが顔はイケメンなので正直、前世だったらありだ。
一瞬そんなバカな事を考えてしまう。
「……」
困った顔でエリックを見つめる。
どういう意味での興味なんだ?
「心配しなくてもそういう意味じゃないから大丈夫だよ」
エリックはハハハと笑う。
「それってどういう意味ですか?」
転生者だからなのか?
「ヒューマンの魔力0って君が初めてなんだよね。
僕は魔術の研究を趣味にしていてね、膨大な魔力量を秘めたヒューマンの魔力0がどういうものなのか面白い研究材料になると思ってさ」
エリックは新しいおもちゃを見つけた子供の様に目をキラキラと輝かせる。
つまりはエリックは面白半分で私を鍛えているということだ。
「もしかして身元調査って……」
そう言いかけるとエリックは首を横に振る。
「大丈夫。ちゃんと僕の知り合いのヒューマンの所に君の身元の調査は依頼してあるよ。
……もちろんそれだけじゃないけどね」
エリックはものすごく楽しそうにそう言って微笑む。
「そろそろ呼吸も整ったでしょ?」
エリックは小さな木刀を構えて特訓再開の合図をする。
剣術スキルもない今の実力からするとエリックに一太刀当てるだけでも不可能だろう。
そこで、今回は体術を入れて勝負を仕掛ける。
剣だけを使えっていうルールはないハズだ。
これがラストだ!
そう思い全力で木刀を振るう。
真直ぐに垂直に振るいながらエリックが半歩下がるのを予測する。
サイドから振るうと大きく後ろにバックステップする。
最初のパターンと同じ動きだ。
もう一発……と思い木刀を相手に向けて突きの軌道でぶん投げる。
どうせ使えない剣ならこんなものくれてやる。
そこからのソバットを腹に打ち込んだ!
蹴りは僅かに逸れてしまうがエリックの脇腹を掠める。
そこから更に足に右ローキックを入れて思いっきりエリックの顔面をぶっ飛ばす!
見事にクリティカルヒットしたと思ったのだが……
右手に激痛が走る。
「ごめんごめん。
いきなり体術使ってきたからびっくりしちゃって」
エリックが謝ってくる。
「いきなり防御魔法使うのは卑怯だと思いますよ」
右手をさすりながらエリックを睨む。
「う〜ん……
テクニックは良いんだけど
多分君の体術じゃ魔物には通用しないと思うよ」
エリックはそう言うが木刀では擦りもしなかった攻撃が体術では間違いなく一撃は当てる事ができた。
なので『魔物には通用しない』の意味がわからない。
そう思っていると
「それじゃ実際に戦ってみようか」
そう言ってエリックは指を鳴らすと目の前には赤い魔法陣が浮かび上がる。
「?????」
いきなりの事で頭がついていかない。
「今から現れるのはEランクの魔物ゴブリンです。
武器は取り上げて木刀を持たせているから君とは良い勝負をすると思う。
色々試してみるといいよ」
そう言ってエリックは不敵な笑みを浮かべ私に木刀を投げて渡す。
訓練用の魔物なのかな?
そう思っていると魔法陣の光は落ち着き目の前には私と同じ木刀を構えた緑色の人型モンスターのゴブリンが現れた。




