獣人組合のギルドマスター
悲劇の鑑定結果から一夜明けて、
本日は冒険者ギルドの下位組織である獣人組合(獣人のギルド)でミーア達4人と正式にパーティー登録することになった。
パーティー登録の人数には制限がなく人数が多い方が難しい依頼を受られるなどメリットは多い。
どうせ行動を共にするのなら正式にパーティーを組んだ方が動きやすいし何かと都合が良いからだ。
魔力0で魔法は使えなくても私には転移のスキルがある。
戦力は今後の成長に期待ということだろう。
獣人組合は手前が酒場になっており朝から既に酔っ払いの獣人冒険者が何人か酒瓶を片手にくつろいでいる。
受付カウンターは1番奥にあり掲示板には沢山の依頼が貼ってある。
ミーアはヒューマンの冒険者ギルドの下位組織と言っていたが私にはこれが冒険者ギルドと言われても違いはわからない。
ミーア達仲間は先に受付で何か話をしている。
パーティー登録の注意点か何か事務的な話をしているのだろう。
受付の話が少し長引きそうな感じがするので、
私はちょっとした暇を持て余して討伐依頼の魔物リストを眺めている。
すると何者かに背後から話しかけられる。
「すごいね! その歳でもう文字が読めるんだ!」
振り返るとニコニコと優しそうな笑顔をした20歳くらいの青年がいた。
透き通る様な薄いエメラルドグリーンの髪色をした細身の美しい顔をしたエルフの男性だ。
「はい。ほとんどがDランク以上の魔物なので私が戦うことはまずないと思いますが……」
思わず討伐依頼リストの感想を言う。
「ここに来るのは初めてかい?
僕はここの職員のエリックよろしくね。
小さな冒険者君。」
そう言ってにこやかに握手を求めてくる。
冒険者ギルドの職員というともうちょっと厳つい感じのイメージがあったので、新人か1番下っ端職の員なんだろうという印象を受ける。
「はい、私はゼロ。
よろしくお願いします!」
思わず差し出された右手と握手をする。
「……。
ふーん。面白そうだね君。」
エリックは握手している手を少しの間見つめてから私を見てにこやかに微笑む。
どうでも良いが握手している右手をなかなか離してくれない。
エリックはどこからか出した受付用紙を私に渡して
「ちゃんとシッカリ書いてね」
笑顔でそう告げる。
私はエリックから受付用紙を受け取り、『私が勝手に書いてしまっても良いのだろうか』と正直不安になりミーア達仲間に困った視線を送る。
想いが通じたのかタイミングよく受付にいたミーア達と目が合う。
すると酷く焦った様子で彼女達仲間は急いでこちらに向かってきてくれる。
「ギルマス! どうしたんですか!?」
どういうわけかミーアはかなり動揺している様だ。
ギルマスって……ギルドマスター??
多分ギルドの1番偉い人だよな。
「ちょっと新入りに挨拶をね!
ゼロ君はそれ分かるところでいいから記入しておいてね」
エリックは笑顔で私に受付に行く様に合図する。
「ミーアにはちょっと話があるから」
エリックはそう言い残すとミーア1人だけを連れて奥の部屋へ行ってしまう。
残されたバン達3人は酷くバツが悪そうな顔をしている。
⭐︎
【ミーア視点】
よりによって1番見つかりたくない人物……獣人組合のトップ(通称ギルドマスター)のエリックに見つかるとは……
知らない人を無断で町に入れるだけでもルール違反。
それがよりによってヒューマンの子供だったということはただのルール違反どころの騒ぎではない。
下手したらあたしだけでなくパーティー全員の責任問題になってしまう。
最悪仲間の命だけは守らねければならない。
ヒューマンに手を出した者は例えどんな理由があろうとも極刑は免れない。
エリックは静かに椅子に座ってあたしにも座る様に促す。
彼の妙に落ちついている様子がかえって不気味でより不安を煽る。
「彼ヒューマンだよね?」
爽やかな笑顔が逆に怖い。
「……はい」
「レオの事があったからミーアが子供を連れて来ることは今まで大目に見ていたけど……」
「弟のことは関係ないっ!!」
思わず息を荒げる。
「……ヒューマンの誘拐は下手すると極刑だよ?」
エリックはため息を一つついて続けた。
「でもっ……」
ゼロは困っていた。
記憶を失い誰も頼ることもできずたった1人で森を彷徨っていた。
彼がヒューマンだからという理由だけであのままあそこに放置していたら間違いなく魔物にやられて死んでいた。
もしかしたら……それで良かったのかもしれない。
けどほんの少しだけゼロの髪の色がレオに似ていたのが気になった。
ただそれだけで深い理由なんて無かった。
「……まあ、別に彼は誘拐された訳じゃなくて、ミーア達にきちんと保護されていたみたいだけど……」
エリックは困った様に微笑むと何かを考えている。
どうやらゼロの誘拐疑惑の線は消えたみたいだ。
ギルドマスターであるエリックが言うのだから間違いないだろう。
パーティーメンバーにこれ以上迷惑をかけずに済んで内心ほっとする。
いざとなったら全ての責任を自分1人で負うつもりだったが、問題が起きないのならそっちの方が断然良い。
「……ゼロ君は僕が預かるから帰っていいよ」
突然のエリックの発言に一瞬耳を疑う。
「えっ? それは困ります!」
既にゼロとは一緒にパーティーを組んで旅する約束をしている。
「う〜ん……
それじゃあゼロ君の身元調査が済むまでこっちで預かるからそれでいいかい?」
ゼロと一緒に行動するとしても別行動するにしても
どちらにせよヒューマンの身元調査は必要だ。
ゼロの保護者が探しているかもしれないし、
下手すると誘拐犯にされてしまう可能性だってまだある。
「……わかりました」
あたしは力なく返事をした。




