メイド仮面ユウヒ《3》
――昼。
どこのクラスも、一旦昼休憩に入り始めた時間帯。
「きゃーっ! フィルとシオルから聞いてはいたけれど、ユウヒ、すっごいクオリティ高いわねー! 超正統派メイドって感じで!」
ネイアの歓声に、クラスの女性陣が言葉を続ける。
「本当! クラスの男どもの女装、他のは面白くて大分笑ったけど、ユウヒみたいに本格的なのも良い感じ!」
「ね、正しくお姉さまっていう言葉が似合う感じで!」
「ありがとうございます、お嬢様方」
非常に様になった様子で、一礼するユウヒ。
「うわ、すごい綺麗な礼! 流石、洗練されてるわね……!」
「ユウヒ、かなり運動が得意だし、イルジオンも綺麗に飛ぶけれど、やっぱりこういう面にも発揮されるのかな」
「あー、ありそう。――ねえ、ユウヒ君、こうポーズ取って、『お帰りなさいませ、お嬢様』ってやってくれない?」
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「あ~、いいわねぇ! ユウヒ、きっとその道でも食えるわよ!」
「むしろ、ウチの家政婦さんとして雇いたいくらい!」
「ハァ、もうユウヒ君、ずっとそのままでいたらいいんじゃないかな」
彼女らがユウヒを囲んで、延々とキャーキャー言っている様子を見て、ラルは思わず知り合いの鬼族の少女へと問い掛けていた。
「……シオル、アイツ……どうしちゃったんだ?」
風紀委員になった友人が、見回りを終わらせてこちらに合流したかと思いきや、もうずっとあんな感じである。
何と言うか……モテモテだとは言えるのだろうが、あんまり羨ましくない方向でのモテ具合だ。
というか、奴は相当女装を嫌がっていたはずだが、何がどうなって、ああなっているのだろうか。
もう、ノリノリというか、やけっぱちというか。
ユウヒと仲が良い関係で、男子の中ではそれなりに話す相手であるラルの問い掛けに、シオルはちょっとやきもきした気分を胸中で抱えながら答える。
「もうなんか、一つ彼の中で振り切っちゃったようで、朝からずっとこうよ。どうやら、自分は本物のメイドであるって強く思い込むことで、精神安定を図っているようね」
「……今は安定出来るかもしれねーが、あとで素に戻った時、逆に自殺したくなるくらい精神崩壊しそうじゃねーか、あれ? 四日間やるんだぞ?」
「……それに関しては同感ね。本当に様々なものを投げ打って、あの状態になっていることは間違いないでしょうし」
ちなみに、ラルもまた接客要員であるため、現在メイド姿になっている。
彼はユウヒとは逆の方向に振り切り、男のメイド部隊と共に野太い声で男らしく接客を行い、そのギャップが意外と好評で、午前中だけでも客入りはかなり良かったりする。
フィルは午前中に接客をしていたが、午後から風紀委員として見回りがあるため、もうここにはいない。
「……あー、シオル。そんな顔しなくても、ウチのクラスの中に、お前とフィルからユウヒを取ろうなんて猛者はまずいねぇから、そこまで心配すんな」
「えっ、な、何を言ってるの?」
わかりやすく狼狽えるシオルに、ラルはおどけるように肩を竦める。
「どういうやり取りがあったのかは知らねーけどよ、三人の間ではもう決着が付いてるんだろ? フィルとシオルの間に割り込んでユウヒを奪おうなんて命知らず、一年生にはもういねーだろうさ。お前ら、すげー有名人だし」
「そ……そうなの?」
「おう、やっぱユウヒがな、色々とアレだからよ。一緒にいるお前らがアイツにぞっこんなのも知れ渡ってるし、お前らの戦闘能力が本当にヤベーことも知れ渡ってるし、もう脅威度『Ⅹ』の魔物より恐ろしいだろうよ。つか、実際フィルとユウヒなんて、それを討伐してるし」
「…………」
「おっと、余計なこと言ったか。じゃあ俺、接客に出るから、お前も早いところ準備しろよ」
顔を赤くし、気恥ずかしさの感じさせる視線で睨むシオルに、ラルは笑ってその場から逃げて行った。
* * *
裏でそんなやり取りが行われているとは露知らず、女性陣から解放されたユウヒは、接客を開始していた。
外に列をなす程、ということは流石にないが、それでも毎回全てのテーブルが埋まるくらいに人入りは良く、『女装男装喫茶』という企画はこのままいけば成功に終われそうだ、という手応えを皆が感じているくらいには忙しくしていた。
生徒会長コンビである、レーネとエイリが彼らのクラスに訪れたのは、そんな時である。
「ようこそお越しくださいました、お嬢様方」
「あら、随分と綺麗な子ね――えっ、い、いや、待って。この魔力の質……ゆ、ユウヒ君なの!?」
「え!? こ、この完璧な感じのお姉さんが!?」
二人の驚愕の声に、ユウヒは淡々と対応する。
「はい、ユウヒです。二名様ですね? こちらへどうぞ」
思考が停止し、唖然としたまま二人が大人しくテーブルに着いたのを見て、ユウヒは手作りのメニュー表を彼女らの前に置く。
「メニューはこちらになります。お決まりになりましたら、お声がけください」
「え、えっと……ユウヒ君、どうしちゃったの?」
「と、というか、本当にユウヒ先輩なんです? 顔は見えないですけど、私には綺麗なお姉さんにしか思えないんですが……声も違うし……」
「魔力の質が覚えのあるものだから、そこは間違いないはず。うん、はずなんだけれど……」
「はい、メイド仮面ユウヒです。どうぞよろしくお願いいたします」
悪ノリしたクラスの女子達に教え込まれた、メイド仮面らしい、かっこかわいいポーズをシュピンと行うユウヒ。
「うお――!」
「ふえっ、え、エイリちゃん?」
テンションが急上昇し、両の拳を掲げるエイリと、驚いてビクッと身体を跳ねさせるレーネ。
ちなみにエイリは、表では隠しているが、特撮がかなり好きだったりする。
「あ、あの、メイド仮面さん。私と一緒に、こういうポーズを取ってくれませんか?」
「勿論構いませんよ」
「やったぁ! れ、レーネ先輩、これで! これで写真撮ってください!」
「……え、えぇ、いいけれど」
後輩の、今まで見たことがない姿に面食らいながら、レーネは魔道具を受け取り、起動する。
「は、はい、チーズ」
「いえい!」
「いえい」
カシャリと写真を撮り、エイリが大喜びでその写真を確認し始めた横で、レーネは苦笑を溢す。
「……私、例の件で、ユウヒ君に聞いてほしいことがあったんだけれど……」
彼女の言葉に、ユウヒはメイドモードを維持しながらも、ピクリと反応する。
「……えぇ、聞きましょう」
多分夜には死にたい気分になってる。




