閑話:千生とシオル
書きたくなっちゃったから一旦閑話。
――ユウヒとフィルが、学園で調査をしていた頃、シオルと千生はすでに家へと帰宅していた。
「…………」
「…………」
自分から喋るタイプではない二人は、無言であった。
基本的に物静かであり、活発的ではない千生は無言でも特に何も思わない性格であるため、そんな空気も全然と言って良い程気にしていなかったが、逆にシオルはと言うと、結構気にしていた。
彼女もまた千生と同じように、どちらかと言うと会話では受け身気味であるのだが、しかし最も大切にしている二人がいつもこの特殊な幼女を楽しませてあげ、しっかり面倒を見てあげていることを知っている。
二人と比べ、自分ははっきり言って口下手だ。
だから、あまり積極的に喋ることは得意ではないのだが……それを理由にして、無言のままでいるのを良しとするのは、何だか微妙に情けないような気がするのである。
それに、今後恐らくこの幼子とも長く付き合うことになるのだろうし、出来れば仲良くなりたいと思う感情は彼女の中に存在しており、それ故シオルは、何を言うべきかちょっと悩んでから、千生へと口を開く。
「……え、えっと、イツキちゃん。何かしたいこととか、あるかしら?」
「のんびり」
「そ、そう……のんびり」
「…………」
「…………」
再度、沈黙。
つっけんどんな返答だが、別に千生がシオルに対して隔意を持っていたりする訳ではなく、ぶっちゃけ平常運転である。
むしろ、鬼族の少女にもすでに心を開いているため、これくらいの短い会話でも問題ないと思っていたりするのだ。
彼女は基本的にのんびりするのが好きであり、何かをする時は大体、その好奇心をくすぐるようなことをユウヒやフィルが上手く提案しているのである。
これは、単純に対人経験の差だと言えるだろう。
幼い頃から、ユウヒの妹であるリュニと暮らしており、しかも前世すら存在する彼らは、コミュニケーション能力が非常に高く、子供が好むものもよくわかっているのだ。
が、逆にシオルは、今でこそそれなりに話す友人も増えているが、両親が死して以降は心を閉ざしていた期間が長かったため、同級生ですら仲の良い者は皆無であった。
第00旅団の大人に囲まれて暮らしていた時もやはり相手側が話をすることが多く、しかも全員が年上ということもあって、むしろ気安いものがあったため、コミュニケーションに悩むことなど一切なかったのだ。
微妙に泣きたい気分になっていたシオルだったが、しかしこれくらいで挫けてはいられないと、必死に思考を巡らし、言葉を続ける。
「そ、そうだ、お腹空いてないかしら? 何か、お菓子とか食べる?」
ピク、と反応する千生を見て、シオルは内心で「良し」と頷く。
この幼女が、意外と食べることが好きというのは知っている。
この方向性で行くのが正解だろう。
「……でも、ゆー、ふぃー、ごはんのまえに、おやつたべちゃ、だめって」
現在の時刻は、五時前辺り。
確かにおやつを食べるにしては、微妙な時間帯であった。
「それなら、ユウヒとフィルのためにご飯でも作っておかないかしら? 多分出来上がった頃くらいには二人も帰ってくるだろうし、きっと喜んでくれるわ」
「むむ、それはすばらしい」
「ん……決まりね」
そうして、二人は並んで台所に立つ。
ちなみに、千生は彼女用に用意されている台を持ってきて、その上に乗っているため、彼女らの目線の高さはほぼ一緒である。
「え、ええっと……じゃあ献立は、私達でも作れるよう簡単に、お肉とサラダ、スープにしましょう。まずはそうね、お野菜からいきましょうか」
「おやさい」
「……みじん切りにしたアレって、レタスとキャベツ、どっちを使うんだったかしら」
「キャベツ、パリパリで、すき」
「……どちらも似たようなものだし、構わないわよね。じゃあイツキちゃん、キャベツを切ってくれる? 多分、食べやすいくらいに細かくしたら、それでいいと思うから。手を切らないよう、気を付けて」
「ん」
シオルはまな板と包丁、洗ったキャベツを用意して隣に置いてやると、千生は包丁を手に取って調理を開始する。
意外と、なのか、それとも当たり前と言うべきなのか、本人自身が刀であるため刃物の扱いを熟知しているらしく、非常に上手い包丁さばきでキャベツを切っていく。
シオルの注文通り、本当に細かく。
「スープは、スープの素があるから後でいいとして……お肉は、どれを使おうかしら」
冷蔵庫の中を見て悩むシオルに、千生が提案する。
「しー。いっぱい、いろいろあったほうが、きっといい」
「……そうね、その通りね。じゃあ、豚肉も牛肉も鶏肉も、全部使ってしまいましょう」
冷蔵庫からその三種類の肉全てを取り出すと、フライパンに薄く油を敷き、火をつける。
確か、鶏肉と豚肉はしっかりと火を通さないといけない、ということだけを漠然と覚えていたシオルは、先にその二種類をフライパンに放り、よくよく火を通す。
多分勢いが強い方が良いだろうからと、コンロを『強火』に設定しておき、黒い部分が増え始め、若干「あれ? これ、やり過ぎかしら……?」なんて思いながらも、まあ生のままで腹を壊してしまうよりは良いだろうと、調理を続ける。
あまり料理が得意ではなく、現在絶賛学び中であるシオルと、そもそも料理というものを全くしたことがない千生の二人組を止める者は、誰もいない。
「……く、黒焦げになっていないなら、大丈夫よね。ここに牛肉も入れて――と、味付けしないと。基本は塩胡椒にして、あとは焼肉用のタレを使うのがいいかしら」
「おー、いいにおい。おいしそう」
「ん、結構何とかなるものね」
「しー、りょうり、じょうず」
「フフ、イツキちゃんも、上手よ」
ユウヒとフィルがおらずとも、意外と仲良くやれている二人であった。
多分、もう一話か二話くらいで学区祭本番に入ると思う。




