先輩と後輩
レビューありがとう、クッッッソ嬉しいよ!
勿論感想とかも、いっつもありがとう!
危ね、ギリギリ今日中間に合ったな。
「もう……やっぱりアレですね。学生の身でありながらすでに名を残している人なだけありますね」
ジトーっとした眼で俺を見るエイリの次に、レーネ先輩が言葉を続ける。
「フフ、学園にいると、ユウヒ君の特殊性はもう痛い程わかるわよ。年下で、しかも二個下っていうのが信じられないくらい」
「レーネ先輩がそう言うとは、相当ですね……私、王族だって明かして、『似合わねぇ』って返されたの、生まれて初めてですよ。全く、失礼な人なんですから」
彼女の口調は俺を責めるようなものだったが、しかしそこに棘は一切なく、どことなく面白がるような響きがある。
自身の血筋のことは、彼女にとって年齢の話程気にするものではないのだろう。
「ユウヒ君、私と初めて会った時にも、公爵家だって気付いてたようだけど、気にした様子もなかったわねぇ」
「いや、その言い方だと俺、本当に失礼な奴みたいじゃないっすか。気にしてほしいなら気にしますよ? ははー、お嬢様方、お目通り叶って恐悦至極でございます。何か御用がありましたら、この下郎めにお申し付けくだせぇ」
「下郎って、君も貴族家でしょ」
「え、ユウヒ先輩も貴族なんですか? ……そう言えば『レイベーク』って地名、聞いたことがありますね。その割には、全然貴族っぽくないというか、上流階級っぽい品の良さが無いですが」
「後輩、お前だけは、人に失礼とか絶対に言えないからな」
「すいません、勿論良い意味で言いました」
「良い意味で品が無いってどういうことだよ。お前、そう言っておけばどうにかなると思ってんな?」
俺の視線から、わざとらしい動作でスッと顔を逸らす我が後輩。
俺も俺なのは認めるが、コイツもコイツで大概である。
……いや、まあ、変に畏まられるよりも、こうやって冗談で返してくれる奴の方が付き合いやすいことは間違いないのだが。
それにしてもこの二人、四つも離れている割には大分気安い様子で、かなり親しいらしい。
エイリは王族らしいし、レーネ先輩も公爵家だし、やはりその辺りで家の付き合いがあるのだろう。
俺にはほぼ関係のない世界だが、高位貴族はそういうの、多くあるようだしな。
貴族が、高貴なる青い血を宿しておらず、ほぼ一般人と変わらないくらいの地位になったこの時代であっても、上流階級の者達にとって社交の重要性はほぼ変わっていないのだ。
「あははは、後輩達が仲良くやっているようで、何よりだわ」
「……それより、二人は何か、用事があって待ち合わせしてたんでは?」
「あぁ、そうそう、学区祭の関係でエイリちゃんと待ち合わせを――って、それで思い出したんだけど、そう言えばユウヒ君、学区祭で女装するそうね」
「えっ、ホントですか!? うわぁ、すっごい見たい!」
「……ど、どこで聞いたんすか、それ?」
狼狽える俺に、レーネ先輩は獲物を見つけた猫のようにニヤニヤとし始める。
やばい、ドSに火がついてしまったか?
「お姉さん、生徒会長よ? 勿論それくらいは知っているわ。君のクラスがやるのは、『女装男装喫茶』って話だから、メイドさんの姿するのよねぇ? いやぁ、楽しみね。是非とも写真に収めないと」
「ユウヒ先輩、絶対遊びに行きますね!」
「……じゃあ、二人が来たら、俺は逃げるんで。悪しからず」
「大丈夫大丈夫、安心して、ユウヒ君。私が君のクラスに圧力を掛けて、しっかりと逃げられないようにしておくから」
「最悪っすね!? 生徒会長の権限は、そんなことのために使ってはいけないと声を大にして言わせてもらいます!」
「フフ、お姉さんが年上として、二人に良いことを教えてあげるわ。権限とか力とかはね、使ってこそなんぼのものなのよ」
「後輩、この人やべぇぞ。この人だけは権力者にしちゃならねぇ」
「楽しそうですね、レーネ先輩……大人と混じって話している時は、かなりしっかり者のイメージだったんですけど……」
引き攣り気味の笑みを浮かべる、エイリ。
この先輩、仮面が分厚いからな。
それを被っている時は、それはもう頼れる敏腕おねーさんなのだろう。
実際、非常に有能であることは、俺も知っているし。
「しっかりしているのは間違いないけどな、それ以上にこの人の本質はドSだ。気を付けろ、気を抜くとおもちゃにされるぞ」
「そんな、人聞きの悪いことを言って~。お姉さん、悲しいわ」
「先輩、知ってますか。悲しんでいる人は、そんな風にニヤニヤしないものなんすよ、普通」
「あらそう? 心は悲しんでるのよ、今」
「心が悲しんでいて、なおそこまで楽しそうな顔が出来るのなら、それはもう精神性の病気っすね。早いところ病院に行った方がいいと思います」
「そう、心配してくれてありがとう。お姉さんとっても嬉しいわ」
無敵かこの人。
いったいどうやったら、俺はこのドSに勝てるんだ……。
「おい、後輩よ。俺を助けてくれないか」
「あはは……ごめんなさい、私にはちょっと無理そうですね」
そうしてひとしきりふざけたところで、ふと屋外待合所の時計を見たレーネ先輩が、口を開く。
「――っと、もうこんな時間。残念、名残惜しいけれど、ユウヒ君、ここらでお暇させてもらうわね」
「また会いましょう、ユウヒ先輩。あ、学区祭でのメイド姿、楽しみにしてますよ!」
「来んな」