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慣らし運転《1》

 

 空を飛ぶ。


「いやぁ……やっぱコイツはいいなぁ」


 久しぶりに乗った、我が専用機、禍焔(カエン)


 まるで生きているかのように黒の機体が唸り、可変式ウィングが火を噴く。


 やはりコイツはいい。

 ただ飛んでいるだけで、本当に楽しいのだ。


 改めて、コイツを造ったレツカ先輩と彼女の所属する会社には多大な感謝の念を送りたいところである。


「フィル、そっちはどう――何してんの、お前?」


『え? 何って、慣らし運転だけど』


 さも当たり前のような声音で、通信から彼女の声が返ってくる。


 今俺達がしているのは、専用機の『慣らし』である。

 対抗戦の時はぶっつけ本番で機体に乗ったが、本当はもっと何度も乗って微調整を繰り返し、より最適化させる必要があるのだ。


 まあ、機械というものは大体どれもそうだろう。

 完成したばっかの品だと、内部のグリスが上手く回っていなかったり、部品同士の噛み合い方がぎこちなかったりするので、それらをより滑らかに動作させるための作業が必要になってくる訳だ。


 が――フィルさん。


 自身の分身を十体近く出現させて、一体一体全く異なった恰好をさせる、なんていうのは慣らしの範疇から大きく逸脱していると思います。

 しかも、それぞれが全然違う行動をしているし。


 何という無駄に高度な魔法なんだ……アレがアイツなりの負荷テストなのだろうか。


『本当にいいね、専用機。術式補助がよく働いてくれてて、僕の脳味噌がもう一つ増えたような気がするよ』


「お前の方の『デュラル』は、外見はそこまで特徴的なところはねーけど、やっぱ使用感は全然違うのか?」


『うん、本当にとっても使いやすくなってるよ。これだけ分身を生んでも、まだこうして君と、普通に会話出来るくらいの余裕があるしね。この機体の性能を十全に引き出そうと思ったら、もっと頑張らないとダメかも』


「あー、そりゃ同感だな」


 この機体は、本当に何でも出来る。


 前にも思ったことだが、素材に最高級のものが使用されているため、機体パフォーマンスの上限がアホみたいに高く、故にそのギリギリまで利用しようとすると、先に俺達の方が限界に到達してしまうのだ。


 自らがどこまでやれて、どこからが無理なのか、という部分をしっかり線引きしないと、待っているのは自滅だろう。

 これからの俺達の課題は、いかにこの機体のスペックを引き出せるか、ってところだな。


 全く、何と訓練し甲斐のある機体であることか。


『……それより、僕としては、君の方に何してるのって言いたいんだけれど』


「何って、見ての通りだ。前方向と後ろ方向に、スラスターを同時に思いっ切り噴かして、滞空してる」


『……それ、魔力の高まり具合から見て、通常機だったら爆発してるだろうね』


「バラバラになってもおかしくないかもな。いや、それより先に魔導線(マギケーブル)がお釈迦になるか。けど、感じからして、多分機体的にはまだまだ全然余裕があるぜ?」

 

『……その機体でレースとかしたら、この国でユウヒに敵う人、いるのかな』


「いるところにはいるんじゃねぇか? コイツ、これでも汎用性を求めて造られてるようだから、ガチのレース用機体とかが相手だったら、ちょっとわからん」


『いや、比較対象にレース用機体が出て来る時点で、ちょっとおかしいんだけれど』


 最初に引き合いに出したのはお前だぞ。


 それに、おかしいのはお互い様だ。


 と、それぞれ好き勝手に飛んでいると、レツカ先輩からの通信が入る。


『よし、二人とも、そろそろ良さそうかな。色々あって順番が前後してしまったが、今から本格的な慣らしを行う。準備はいいね?』


「オッケーっす」


『僕も大丈夫です』


 ここまでのは、本当にただの準備運動のようなものだ。


 次に俺達は、レツカ先輩の指示に従って、マニュアル化されている工程通りに機体を動かし、各部の深いところまでの慣らし作業に入る。


 直進、旋回、急加速、急停止。


 負荷を掛けるためだけに存在する何の効果もない魔法の同時発動、可変式ウィングの片翼だけでの飛行などなど、ほとんど曲芸染みた工程もまた次々に熟していき――っつーか。


「……先輩、これ、本当に慣らしのマニュアルに入ってるんすか?」


『え? 入ってないよ?』


「すげーあっけらかんと言いましたね」


『あはは……』


 楽しそうな声音で、レツカ先輩は言葉を続ける。


『いやぁ、君達がどれくらい出来るのか、ちょっと知りたくなってね。と言っても、確かにマニュアルには載っていないが、慣らしの範疇ではあるさ。二人の能力的には、これくらい難しい方が楽しいだろう?』


 それは……その通りなのだが。


『フフ、さ、まだ工程は半分済んだくらいだ。次に……』


 何故かレツカ先輩が言葉を止めたかと思うと、何やら騒がしい音が通信の向こう側から聞こえてくる。


「先輩? どうしたんすか?」


『レツカ先輩?』


 向こう側で誰かとやり取りをしていたのか、彼女の話し声が聞こえ、それから少しして俺達の呼びかけに反応する。


『……タイミングが悪いと言うべきか、逆に良いと言うべきか。――聞いてくれ、ユウヒ君、フィルネリア君。魔物が(・・・)海域に出現した(・・・・・・・)。どうかな? 慣らしの続きがてら、討伐は』


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― 新着の感想 ―
[一言] この2人が機体を乗りこなすことが出来るようになったら国一個滅ぼせそうだよね.........。
[一言] 魔物さん、逃げて~、超逃げて~!!! (元)魔王だけでも大変なのに、大魔王までいるし… フィル「誰が大魔王だって…!?(笑顔だが青筋が立っている)」
[良い点] それぞれ別方向に化け物じみてる2人 こう、専用機のワクワク感ってありますよね きっちりシェイクダウンが必要な所とレツカ先輩の遊び心、良いです。 [気になる点] 試し斬り、試し撃ちで専用機な…
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