二学期《2》
作者は全然元気です、みんなありがとうね。
みんなも、むしろ以前よりも今の方が危ない気がしなくもないから、十分に気を付けてくれ!
Booo、とブザーが鳴る。
刹那、俺は即座に魔導ライフルを構え、狙いを定めて引き金を引く。
的は、縦横無尽に動き回る光の玉。
三つが同時に飛び回っており、一定時間が経つと一つずつ消え、次が出て来てしまうため、ハイスコアを狙うのならば素早く照準を合わせる必要がある。
……のだが。
「あっ、クソッ!」
的の動きが速く、エネルギー弾が当たらない。
いや、べらぼうに速いという訳ではないのだが、照準を合わせるのが難しく、全然ヒット数が増えないのだ。
狙い方が悪いのかどうなのか知らんが、すぐにマガジンの弾を全て撃ち切ってしまい、リロードしてもう一度撃ち始め――というところで、今度は終了のブザーが鳴る。
最終的なスコアは、『7/20』。
二十の的の内、破壊出来たのは七つ、という意味だ。
「ぐ、ぐぬぬ……負けた」
悔しがる俺に、ラルとネイアがちょっと意外そうな顔をする。
「……あれだな。おめーにも、不得意なものがあったんだな」
「何と言うか、ちょっと新鮮ね」
「だから言ったろ、射撃に関して言うと人並みなんだ」
先にやっていた二人のスコアは、ラルが『17/20』。
ネイアが『18/20』である。
つまり俺が、ダントツのビリである。
というか、恐らくクラスでも下の方だろう。
二人の射撃能力は高いと言えるだろうが、それでも十以下の的しか破壊出来なかったのは、数人とかになるんじゃないだろうか。
――現在行っているのは、ずばり『射撃訓練』そのものである。
一学期はイルジオンの操作を中心に覚えさせられたが、二学期からは本格的に戦闘訓練が始まり、今日のこれもその一環だ。
……今まで「射撃は人並み」と公言してきたが、これからは「射撃は人並み以下」と言わなければならないかもしれない。
俺は近接戦闘型だからと、あんまりライフルには触って来なかったが、ちょっと本気で臨んだ方がいいか。
レツカ先輩辺りが、自動照準型ライフルとか開発してくれないだろうか。魔力は幾らでも食っていいからさ。
「んー、多分一つの的に時間を掛け過ぎなんでしょうね。この訓練場の的、確かに動きが速めに設定されているから、もうちょっと早く照準を合わせないと、追っつかないと思う。それかもう開き直って、幾つかは諦めて、逆に幾つかは絶対に当てるって感じにするか」
「ユウヒは接近戦が専門で、別に早く狙って撃つ技術はいらねーんだし、正確に狙うことだけを磨いたらいんじゃねーか?」
「……そうだな。下手は下手なりに自覚してやるべきか」
と、そう話していた時、隣から歓声が聞こえてくる。
見ると、区切られた一つ隣のボックスに出来上がっている数人のクラスメイトの人垣と、その中心にいるシオル。
「うおっ……やっぱすげーな、シオル」
上部に設置されたボードの表示を見ると、スコアは『20/20』。
しかもどうやら、使用したマガジンは一つだけのようだ。
あれは二十発分のエネルギー弾が撃てるものなので、つまり彼女は全弾命中させた訳である。
流石、面目躍如といったところか。
「実際に戦ったら、あなたには負けるけれどね」
俺の声が聞こえたらしく、そう答えるシオル。
「いや、そうは言っても、すげーものはすげーよ。俺はこんなこと出来ないし……ちなみに、どうやって狙ってるのか、聞いても? 秘訣とか何かあんのか?」
俺の質問に、周囲のクラスメイト達も同じことが聞きたいらしく、うんうんと首を縦に振っている。
「……? どうやっても何も、普通に狙って撃つだけよ?」
が、何が聞きたいのかわからない様子のキョトンとした顔で、シオルは首を傾げる。
……くっ、天才め。
「うーん……シオルには流石に敵わないか」
さらに隣のボックスからこちらにやって来るのは、フィル。
「フィル、スコアは?」
「『17/20』。ユウヒは?」
「……『7/20』」
笑ってくれればまだマシだったのだが、微妙に憐れみの感じさせる表情になる我が幼馴染。
「……君、そんなに撃つの下手だったっけ?」
「どうやらそうらしい。お前、俺と同じで剣で戦うクセに、何で射撃も上手ぇんだ……」
「う、うーん……そう言われても困っちゃうんだけど」
「……ユウヒ、私で良ければ、教えてあげるわ」
「是非ともお願いします」
二つ返事で返す俺に、シオルは教えることが出来て嬉しいのか、ちょっとだけ微笑んだ。
* * *
それから射撃訓練が終わり、各々が訓練場を後にし始めたところで、ガルグ担任に声を掛けられる。
「レイベーク。ちょっと来い」
「お、ユウヒ、また何かやったのか?」
「ユウヒだし、何をやらかしててもおかしくないわね」
友人達のからかいに、俺はただ肩を竦め、それからガルグ担任のところへと向かう。
「そういや先生、話してなかったっすけど……千生のこと、内密にお願いしますよ」
「ん、あぁ、わかっている。彼女は私の生徒ではないが、子供を不幸にさせて喜ぶ趣味はない。お前が理事長にあんな啖呵を切った理由も、今ならわかろうものだ」
「……えぇ、まあ。国が管理、なんてことになるのだけは、絶対に避けたかったですから。――すんません、俺の方はそんだけです。それで、何の用です?」
コクリと頷き、彼は本題に入る。
「陛下から学園へとご連絡があった。急で悪いが、出来れば明後日に宮廷へ来てほしいとのことだ。この機会を逃すと、次は来月などになってしまうらしい。平日ではあるが、無論学園は公欠扱いになる。お前には悪いのだが……」
「わかりました、大丈夫っす」
別に彼が悪い訳じゃないだろうに、律義に申し訳なさそうな顔をするガルグ担任。
相手は一国の王だ、そりゃ予定を空けるのも大変だろうし、俺の方が合わせるのは当然そうなってしまうだろう。
その辺りの事情は、痛い程によくわかる。
ちなみに、あのテロリスト騒ぎではフィルもまた大きく関係している訳だが、向かうのは俺だけである。
俺が考えていることを察し、全部任せると言ってくれたのだ。
……アイツ、やっぱいい女だよな。
「宮廷に行く際には、この身分証を持っていけ。でないと、不審者として警備員に捕まりかねん。絶対に無くすんじゃないぞ。国の中枢へと入れる物であるため、割と大事になる可能性がある」
「うっす、重々気を付けます」
首から下げるストラップの付いた身分証を受け取った俺は、非常に大事なものであるため、間違っても紛失しないよう、千生の入ったブレスレットの魔法陣を起動する。
この中の空間、千生の本体に最適化されているため、それ以外のものはほぼ入らないのだが、身分証くらいならば流石に大丈夫だろう。
……いや、中で千生の刀身に触れてしまい、身分証が細切れになる、なんて未来だけは避けたいので、柄に巻き付けておくか。
そうして、千生の柄までを取り出し、「ちょっとごめんな」と声を掛けて身分証のストラップを巻き付けていると、ガルグ担任が口を開く。
「……その、今もその中には、彼女がいるのか?」
「えぇ、いますよ。千生」
そう声を掛けると、千生の声が俺達の中へと流れ込んでくる。
『せんせ、こんにちは』
「ん、あ、あぁ……こんにちは」
彼の強面の顔が、その時何とも言えないマヌケな感じの表情になるのを見て、俺は思わず笑ってしまったのだった。