二学期《1》
夏休みが終わった。
対抗戦があったり、海へ旅行に行ったり、実家に帰ったり、ラルを含めた男友達と遊んだりと色々やったが、休みとしては充実した日々であったと言えるだろう。
友人達の多くは、休みが終わったことを嘆く声をあげていたが、俺としては正直、そろそろイルジオンに乗りたい欲求が存在していたため、ちょうどいいくらいの長さだったと言えるかもしれない。
せっかく作ってもらったイルジオン、『禍焔』もあれ以来乗れていないしな。
クラスでは、まだ少し浮かれた様子のある同級生達と夏の思い出を語らい、それを「切り替えるように」と教師達に窘められながら一日を過ごし――放課後。
俺は、いつもの格納庫にて、デナ先輩とレツカ先輩の二人と話していた。
「学区祭?」
「うん、学区祭。みんな対抗戦で忙しくしてたから話してなかったけど、ウチの部も参加するつもりだから、協力してほしいの」
このセイリシア魔装学園は、学区と呼ばれる地区に存在している。
つまり、ここ以外にも幾つか学生のための教育機関が存在しているのだ。
彼女の言った『学区祭』とは、その学区内にある学園のほぼ全てが参加する文化祭で、学生達がそれぞれ店を開いたり、何か劇でもしたりと、まあ色々とやる訳だ。
なので、その時期は学区全体が祭りのような様相になるのだとか。
ウチのクラスは……確か、真っ当に喫茶店をやるんだったか?
対抗戦の方で忙しくしていたため、あんまり覚えていないのだが、まあ恐らく女性陣が給仕の恰好でもして、何かするのだろう。
……フィルとシオルのメイド姿か。
正直、見たい。あの二人、文句なく美少女だし。
楽しみだ。
「へぇ、ウチの部は何やるんです?」
「装備の発表会。もっと言うと、レツカの開発品発表会。この子、装備開発に関して言うと本当の天才だから、現時点ですでに相当の注目を集めててね。私は開発品の整備を手伝って、君と、アルヴァン、カーナの三人にはそれを装備して、デモンストレーションを行ってほしいのよ」
「整備部として行うものなのに、私主体になってしまって申し訳ないんだが……どうかな?」
デナ先輩の次に、ちょっと不安そうにしながらレツカ先輩が聞いてくる。
「勿論やりますよ。二人には対抗戦ですげーお世話になりましたし、というかそうじゃなくても、何でもします」
「そうか……ありがとう。そう言ってくれると助かる」
二つ返事でオーケーすると、ホッとした様子で一つ息を吐き出すレツカ先輩。
この人、レーネ先輩と同じドSだが、意外と可愛いところもあるらしい。
「……? 何だ、ユウヒ君?」
「いや、レツカ先輩も結構、可愛いところがあるんだなと思って」
「……それに関して私は、心外だと言うべきか、それとも照れるべきなのか、微妙に判断に困るぞ」
「ユウヒ君はかなりお口が正直だから、本音ではあるんだろうけれどね」
ポリポリと頬を掻くレツカ先輩と、じとーっとした目を送ってくるデナ先輩に、俺は笑って肩を竦める。
「それで、どんなものを造ったんです? 大砲とか?」
「ん? あぁ、勿論それもあるぞ」
勿論なのか。
いや、まあ、この人だしな。
「というか、ユウヒ君のアイデアを基に造ったイルジオンの追加武装――『オプショナルアーム』と呼ぶことになったものがほとんどだ。すでに反応も良いから、このままいけばもっと大々的に開発が始まる可能性がある。その時は、共同開発者として君にもちゃんと特許料が入るようにしよう」
「いやいや、あんな一言二言言ったくらいで共同開発者を名乗ってたら、殴られちまいますよ。モノを造ったのだって、先輩ですし」
俺は思わず苦笑を溢す。
律義な人である。
「しかし、アイデアとはそういうものだろう? 実際君がいなかったら造れていなかったものだし……」
「……わかりました、じゃあ先輩が今後、何か新しく追加武装を作ったら、テスターとして試供品とかもらえませんか? 俺にとっちゃ、そっちの方が嬉しいです」
「そんなことでいいのか?」
「何言ってんすか、先輩の発明品を誰よりも早く使えるなんて、最高っすよ」
実際、あんな雑談だけで試供品が貰えるのなら、俺としては万々歳だろう。
むしろなんか、申し訳ないくらいだ。
この人の造る装備、マジでカッコいいし。
「……フフ、そうか、最高か。わかった、そうしよう。感謝するよ、ユウヒ君」
「こちらこそ。これからもよろしくお願いします、先輩」
俺達は互いにニヤリと笑みを浮かべ、握手した。
「……やっぱり、似た者同士ね」
その隣で、呆れた顔をするデナ先輩だった。
* * *
フィルとシオルと共に、帰路を歩く。
こちらで過ごすことになったシオルだが、彼女はフィルと同じ『料理研究部』と『裁縫部』に入ったらしい。
彼女の身体能力の高さを見て、何か運動系の部活から勧誘もあったようだが、我が幼馴染が家庭的な女を目指すためにそこに入った、という話を聞いて、そうしたようだ。
本人の技術向上、というのは勿論あるだろうが……自分で言うと自惚れているようでちょっとアレなのだが、その理由としてはやっぱり俺に繋がってくるところがあるのだろう。
嬉しいやら、ありがたいやら、気恥ずかしいやら。
「――それで、僕達もこれから一つ作品を作ることになってね。もう、大変だよ」
「私、あんまり手先が器用じゃないから、ちょっと心配ね……」
「はは、まあ、そういうのは別に、最終的に上手く作れなくてもいいんだと思うぜ。スタートが違う以上他人と比べても意味ないし、どれだけ努力出来たかって部分で納得する方が大事なんだろうさ。――と、そう言えばウチのクラス、学区祭だと喫茶店やるんだったよな? お前らも給仕するのか?」
「え? うん、するよ。『女装男装喫茶』だから、男装して」
…………んっ?
「なんて?」
「だから、女装男装喫茶。男の子達はメイド服で、逆に女の子達は執事服で、喫茶店やるって夏休み入る前に決まったでしょ。話、聞いてなかったの?」
「……聞いてなかったです」
正直に答えると、フィルは「もう、興味ないことにはこれなんだから」と呆れた顔になる。
いや、ちょっと待て。
「……あのですね、フィルさん。お聞きしたいんですが、何故わざわざ、そんなあべこべでやるんです?」
しかも、男装の方はまだ需要があるかもしれないが、女装の方は誰得なんだ、いったい。
「その方が面白いから、だってさ。やっぱ話題性を集めるためには面白いことしないと、って」
フィルの次に、シオルが口を開く。
「ユウヒは、女装する面子に入ってたわね。頑張って」
「えっ」
「大丈夫大丈夫、僕達で可愛らしくお化粧してあげるから。ユウヒは素材が良いし、きっと男の子にもモテモテになれるよ!」
毛程もそうはなりたくないので、自信満々に言われても困ります。
「……俺、二人がメイド姿とかすんのか、と思って結構楽しみにしてたんだが……」
「え、そうなの? フフ、なら今度家で着てあげるよ」
「……恥ずかしいけれど、あなたがそう言うなら、私も……」
『いつきも、きたい』
ブレスレットから、そんな千生の言葉が俺達に流れ込んでくる。
「いいね、千生ちゃんも一緒に着よっか」
「イツキちゃん、かわいいから、きっとよく似合うわ」
『えへへ、ありがと』
「……じゃあ、それは楽しみにさせてもらうけどよ。ったく、クラスの男どももよく納得したもんだぜ。そりゃあ、フィルとシオルと、千生もそうだな。三人とかだったら、何着ても似合うだろうから男装もいいかもしれねーけどよ」
「ユウヒ、メイド服着たら、ちゃんと『おかえりなさいませ、ご主人様』って言ってね?」
「絶対言わねぇ」