閑話:帰省《1》
「……おっさん。落ち着いて、落ち着いて俺の話を聞いてくれ。とりあえずまずは、その抜き放った剣を下ろすんだ」
「落ち着く? 私は落ち着いているとも。二人も娶ろうとするのだから、それを守れるだけ、さぞお前は強くなったのだろうと、確認してやろうと思ってなァッ!!」
そう言ってフィルの親父であるおっさんは、躊躇なく剣を振った。
「ぬわぁ!? あぶねッ!?」
俺は初撃を身体を逸らして回避すると、瞬時にブレスレットを起動し、抜き放った千生の本体で二撃目を防御する。
「むっ!? その剣……相当な業物だなッ!! お前の手にもよく合っているように見える、よくもまあこの短期間で馴染ませたものだッ!!」
「クソッ、やっぱりこうなったか……ッ!! フィルーッ!! 助けてくれ、フィルーッ!!」
「娘に助けを求めるとは、何事か、ユウヒィッ!! お前がそんな根性無しだとは知らなかったぞッ!!」
「アンタがこんな面倒くさくなかったら、俺だって呼ばねぇよッ!!」
「あー……とりあえずみんな、元気そうで良かった」
「……だから、元気だって言った」
斬り合いを始めた俺達を傍らで見ている我が父と我が妹が、こちらの緊迫感とは裏腹にそれぞれのんびりとそう言う。
父よ。今、息子が斬り殺されそうになっているんだぞ。
もっと他に、何か言うことがあるんじゃないのか。
と、必死に救援要請をする俺に、フィルが苦笑を浮かべてようやく介入する。
「お父さん、落ち着いて。僕はもう納得してることだし、ユウヒも……まあ、情状酌量の余地はあるから」
情状酌量なんですね、フィルさん。
「……しかしだな」
「それに、シオルが大分居た堪れない顔になっちゃってるから。とりあえずまず、ユウヒのお家入ろ」
そう、ここはまだ、我が家の前の玄関である。
今日大体この時間に帰ると連絡しておいたのだが、そうしたら俺の姿が見えるや否や、おっさんが斬りかかってきたのである。
「むっ……」
おっさんは、視線だけで人を殺せそうな眼力で俺を睨んでいたが、フィルの説得が功を為したようで、ゆっくりと剣を鞘に納める。
その指は、ピタリと柄に添えられ動いていないが。
おっさん……隙あらば俺を斬り捨てるつもりだな。
だが、悪いな、今のアンタの実力じゃ俺には勝てねーぞ。
――そうして俺達は、とりあえず全員家の中に入り、リビングに行く。
ちなみに俺の母親とフィルの母親は、現在キッチンで料理を作ってくれているようだ。
親の料理、久しぶりだからちょっと楽しみである。
最初のカオス空間が多少落ち着いたところで、親父が口を開く。
「シオルさん、だったね。その、愚息が迷惑を掛けたようで、申し訳ない」
「迷惑だなんて、そんな。私は……彼に助けていただきました。本当に、色々と。私の方こそ、ご迷惑をお掛けして、ごめんなさい」
そう言って深々と頭を下げるシオルに、親父とおっさんが若干狼狽える。
まあ、よく知らない少女に頭を下げられたら、そうもなるだろう。俺もなる。
「えーっと……その、何だ。何て言ったらいいのか、本当に今困っているんだが……フィルちゃんは、納得しているのか?」
「僕は、問題ないですよ。ユウヒが責任取ってくれる限りは」
意味深な笑みで俺を見る、我が幼馴染。
……フィルさん、あなた、いい機会だからと圧力掛けてません?
「……そうか。シオルさんの方は、あー……息子を慕ってくれているという話だが、こんな息子で構わないのか?」
「はい、こうして、一緒にいられるだけで私は、幸せですから……」
そう言って顔を赤くし、俯くシオル。
……空気が痒い。
やめろ親父、こっちを見るな。
と、シオルの次に口を開くのは、キッチンからこちらにひょこっと顔を覗かせた我が母。
「それなら、いいんじゃないかしら? 本人達の間で決着が付いているのなら、こういうのは親が口を挟むものでもないだろうし。だからあなたも、デゴルトさんも、変に口出ししちゃダメよ。ユウヒは……その分、覚悟しないとダメだろうけど」
「……へい」
覚悟は……ま、してるさ。
今更逃げようとも思わんし。
というか、両親に女性事情を問い質されるという拷問。
いったい俺が何をしたというのだ……。
未だおっさんはすっげー言いたいことがありそうな顔をしていたが、とりあえずシオルに関する話が一段落したところで、親父が言葉を続ける。
「それで……もう一つ聞きたいのだが、その女の子は、いったい……?」
彼の視線の先にいるのは、リュニと再会の言葉を交わしている千生。
「それに関しては、親父、ちょっと話が」
* * *
場所を移動し、親父の書斎。
「――という訳で、千生は真っ当なヒト種じゃないんだ。当然親も存在しないし、彼女のことを大っぴらにも出来ねぇ。変なのが寄り付く可能性がある。それでウチで面倒見ることにしたんだ」
千生の存在を説明すると、親父は難しそうな表情を浮かべる。
ちなみに現在、ここにあるのは大太刀の方だけだ。
千生自身は、リビングで皆に可愛がられていることだろう。
「……なるほどな。リュニから妹が出来たと聞いた時は何事かと思ったが、まさかそれ程の事情だったとは……」
「まあ、もう離れられない俺の主武器だし、それでいてもう一人の妹みたいなもんだから、今後も俺が面倒を見ようと思ってる。だから親父も、千生のことはただの幼女として扱ってくれ。インテリジェンス・ウェポンって正体がバレるのはすげーマズい」
「あぁ、わかった、そうしよう。しっかり守ってやるんだぞ」
「わかってるさ」
コクリと頷き、親父は言葉を続ける。
「それにしても……半年足らずで、よくもまあこんな色々とあったものだ。脅威度『Ⅹ』の魔物にテロリストと遭遇、新しい子供に新しい彼女。昔からお前は問題児ではあったが、ここまでとは予想外だったぞ」
「いや、問題児っつわれても、全部別に俺が何かした訳じゃねーから。シオルのことも、その……成り行きでそんなことになっちまっただけだし」
俺が苦笑を溢すと、親父はニヤリと笑う。
「お前がそこまでモテるとは知らなかったぞ。ま、父さんも昔はモテモテで、母さんも必死にラブコールを送ってきたものだ」
「へぇ? あとで母さんに聞いてみようかな」
「……いや、それはやめてくれ。別に他意はないが、やめてくれ」
おう、我が父よ。
モテモテだったのは本当なのだろうが、見栄を張るからそうなるんだぞ。




