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反撃開始


「――ご協力、感謝いたします。流石大国の王。判断が速いですな」


 第00旅団の頭であるヴォルフの言葉に、セイローン国王ラヴァールは乱雑に無線機を置き、腹立たしそうに鼻を鳴らす。


「フン……一時的に引かせただけだ。お前達が地の果てまで逃げようが、必ず捕らえ裁きを受けさせる。必ず、だ」


「結構、国の主とはそうあるものです」


 と、二人の様子に、ルシアニア連邦議員ロドリゴが喚き立てる。


「わ、私を見捨てるのか、ラヴァール陛下! そうなれば、ルシアニアと貴国の関係は悪化しますぞ!?」


「……見捨てはせんよ」


 そう口では答えつつも、だがラヴァールはすでに、ロドリゴを切ることを考えていた。


 比べるべくもない。

 自国の民を死なせるくらいならば、他国の民に苦しんでもらう。


 それに、ラヴァールは、ロドリゴ=ヴラヴァツキという男が不法を行っていることは知っていた(・・・・・)


 裏でそれなりに犯罪に手を染めていることは、ルシアニアに忍び込んでいる間諜達の情報で知っており、だが他国の高官である。

 わざわざルシアニアとの関係を悪化させ、捕まえる理由もなかったのだ。

  

 つまり、ロドリゴ=ヴラヴァツキという男は、セイローン王国においてはどうでもいい(・・・・・・)存在であるということだ。


 故に、彼が誘拐されることでこの場が無事に治められるのならば、ラヴァールにとってそれで構わないのである。


 ただ、懸念すべきは、テロリストの要求に屈したという点。

 テロリストに屈して他国の高官を引き渡したとあっては、求心力の低下は必至。


 ならば、それを防ぐために必要なのは――ロドリゴに、死んでもらう(・・・・・・)こと(・・)


 あれだけ憎悪が募った顔をしながらも、第00旅団を名乗る者達がロドリゴ=ヴラヴァツキを殺さないのは、死なれては困るからだ。

 彼の身柄を用いて、今後何かしらの交渉を行うつもりなのだろう。


 だが、ロドリゴが死ねば、こちらは彼を「英雄」として祭り上げることが可能で、「テロリストに屈さず死んだ戦士」などと仕立て上げれば、恐らく各国と、そしてルシアニアもまたその思惑に乗り、共同戦線を張って関係を強化することが出来るだろう。


 一人の、それも犯罪者紛いの男の命で国際社会が団結するのならば、安いものだとどこも判断するはずだ。


 ――ロドリゴ殿、誘拐されるのを見捨てはせん。だから、貴殿には英雄になってもらおう。


 ラヴァールはチラリと近衛騎士団長に視線を送った後、ロドリゴへと目をやる。

 すると騎士団長は、王の意図を察したように、コクリと頷いた。


 仕掛けるのは、この者達が引き始め、船へと帰還する直前。

 騎士団長の腕ならば、正確に狙撃することが可能だ。


 その後は、競技場近辺に潜んでいる王国軍の特殊部隊に任せ、反撃を開始する。

 王国軍を引かせるよう無線を入れた際、幾つかの暗号と符丁で、その者達がすでに近くまでやって来ていることを、ラヴァールは把握していた。


 ただ冷酷に、王として脳内で計算し続け――しかし、彼の立てた作戦は、全く予想もしない形で崩れ去ることとなる。




 ドォン、と鳴り響く砲撃のような音と、爆発して何かが砕け散る音。




 それが数度連続したかと思うと、ルシアニアの脱走兵達が俄かに慌ただしくなる。


「ほ、報告! 大佐、レークヴィエム号が砲撃を受けています! 推進器の一つが大破、砲塔の幾つかもやられた模様です!」


 VIPルームにいた、他部隊との連絡を請け負っている兵の一人が、周囲の人質に聞こえないよう小声で、だがかなりの焦りを感じさせる声音でそうヴォルフへと報告する。


 飛行戦艦『レークヴィエム』号。


 響いているのは、第00旅団の者達の船であるソレが、攻撃を受けている音だった。


「! 王国軍か?」


「い、いえ、攻撃は競技場の敷地内からです!」


「何!?」


 競技場は、すでにその九割の制圧が終了したと報告が入っていた。

 故に、もはやそちらは気にしておらず、第00旅団の者達の意識は動き始めているセイローン王国軍へと向かっていたのだ。


 詰めが甘かったと言うべきなのか。

 いや、だがそもそもとして、飛行戦艦にダメージを与えられる攻撃が放たれていること自体が、おかしいのである。


 ここで行われていたのは学生の競技大会であり、兵器の品評会ではないのだから。


 まさか、学生がお遊びで造った装備が持ち込まれ、それが使用されている、などとは露程も思ってもいないヴォルフは、何か大きな想定外が発生していることを肌で感じ取り、部下へと即座に指示を出す。


「チッ……デルタ、イプシロン隊を向かわせ、鎮圧しろ」


「し、しかし、彼らは人質の監視を行っておりますが……」


「ここにいる者達以外は、最初からどうでもいいのだ。逃げるなら逃がしてしまって構わんが、レークヴィエム号は絶対に落とされる訳にいかん。急げ、ここまで来て作戦失敗は笑えんぞ」


「ハッ、了解しまし――」


 ――彼ら全員の意識が外へと向いた、その一瞬。


 VIPルームへと突入する、一機のイルジオン。


 それは、幻術を自らに張り付け、周囲と同化して忍んでいたフィルだった。



   *   *   *



 ――今回の敵は、軍人の集団だ。


 ならば、必ず作戦失敗(・・)時のことも考えて行動している。


 命を懸けて行動することと自暴自棄になることは別であり、そもそも彼らは、この大会の襲撃は目標のためのただの過程だ。


 そうである以上、作戦の一つに拘って全てを失うのは愚の骨頂であることを、シオルに聞く限り彼らもよくわかっており、特定の失敗条件を満たした時には撤退することになっているようだ。


 その、即時撤退となる条件は二つ。


 一つ目は、『ロドリゴ=ヴラヴァツキの死亡』。

 二つ目は、『飛行戦艦の一定ダメージの蓄積』である。


 前者は、目的はあくまで誘拐であり、死なれると作戦計画がお釈迦になってしまうから。


 後者は、彼らの要が、やはりあの飛行戦艦であるからだ。


 これから続く長い長い戦いのために決して失う訳には行かず、だからこそソレの存在は、ただの一作戦よりも上位に置かれているようだ。


 ――故に俺は、レツカ先輩謹製カノン砲、『試作型追加カノン』というシンプルな名前が付けられているソレを機体に装着し、地上から砲撃を行っていた。


「次、右に三度、上に五度」


「了解!」


 シオルの指示通りに照準を合わせ、引き金を引く。


 瞬間鳴り響く、耳がバカになる程の轟音。


 下半身パーツから砲と一体化することで、衝撃の大部分は地面に逃がしているはずなのだが、それでも抑え切れない反動が全身を走り抜ける。


 そうして放たれた弾は、一秒後、狙い通りの位置に着弾。

 飛行戦艦に備えられている砲の一つを、粉微塵に粉砕した。


 この弾には幾つかの魔法が設定可能で、言わばシオルが放つ対物魔ライフルのように弾の性質を変えられるため、現在は榴弾の性質を、だが込める魔力を減らすことで弱めに設定している。


 万が一にも、あの飛行戦艦の変なところに撃ち込んだり、強過ぎる攻撃を撃ち込んだりして、落とす訳にはいかないからな。

 そんなことになれば、競技場にいる者達を俺達自身が何千人も殺してしまうことになるだろう。


 だから、一線級の射撃能力をしているシオルに照準に関しては全て任せ、飛行すること自体にはほとんど支障を(きた)さず、だがその攻撃能力、航行能力を落とす部位を攻撃しているのだ。


 そして、こうやって俺が飛行戦艦を攻撃して盛大に注目を集めている間に、フィルにはVIPルームの人質解放に動いてもらっている。


 目標確保の失敗に、飛行戦艦の損傷が合わされば、彼らは確実に撤退するだろう。


 そちらに関しては、完全にフィルに任せることになるが、まあアイツなら大丈夫だ。

 どうにか上手くやってくれることだろう。


 というか、フィルで無理なら誰にも不可能だしな。


 と、ある程度攻撃し終えたところで、そろそろシオルの仲間達がやって来そうなので、俺は機体からカノン砲を脱着し、鬼族の少女へと口を開く。


「助かった、シオル。あとは任せろ、どうにかこの襲撃を終わらせてくる。だから、お前は見つかる前にトラックの中に隠れててくれ。仲間と戦いたくはないだろ?」


「……えぇ」


 様々な思いを感じさせる、複雑な顔をするシオル。


 多少壊れそうな雰囲気は和らいでいるが……彼女がしていることは、裏切りそのものだ。

 色々と悩み過ぎるこの少女にとっては、当然思うところが数多あるのだろう。


 俺は、彼女の目を覗き込み、言う。

 

「……もしかすると、お前の仲間達が立てた作戦通りにやれば、ルシアニアは良くなるのかもしんねぇ。その復讐も達成出来るのかもしんねぇ。けどな、お前の仲間達なら、もっと別の戦い方が出来るはずだ」


 胸に抱いた彼らの正義は、確かなものなのかもしれない。

 そんな彼らの作戦が成功すれば上手く事が運び、逆に失敗すればルシアニアの現状は変わらず、腐った政府が君臨し続けるのかもしれない。

 

 だが、一つだけ言えるのは――やり方が(・・・・)悪い(・・)


 武力を以て、早急に事を為そうとすれば、必ず反発が生まれる。


 必ず、だ。


 それに、シオルの仲間達は非常に有能だ。

 ならばこんな、テロリストの道を選ばずとも、もっと別の方策も取れたはずである。


 復讐心が(はや)って、急ぎ過ぎているように見えるのだ。


 だから、一度帰って頭を冷やしてから、自分達でもっとよく考えてくれ。


「何をどうすれば正解なのかは、正直俺も全くわからん。それでも確かなのは――俺は、お前のことが大事(・・)だ。だから、彼らを止めに向かうぞ」


「…………」

 

 ポンポンと撫でてやると、鬼族の少女は下を向いて少しだけ頬を赤くし、無言でコクリと頷く。


「うし! 千生(いつき)、行くぞ!」


『ん!』


 そうして、彼女がトラックの中に隠れたのを見て取った俺は、千生を手に、作戦の詰めを行うべく空へと飛び上がったのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 現在の話数からしたら、まだ中盤過ぎたあたりでしかないので言っても仕方ないんでしょうけど、最近覚えたばかりの中学生みたいに「数多」を多用するのやめてほしい…… 面白く読んでるのに「また出…
[一言] 魔王が立ちふさがり、勇者が潜入任務。 敵からしたらひどい冗談としか思えないよなあw
[良い点] 大人の思惑をぶち壊す若者の大暴走、こういうノリは大好きだ! 全力じゃないのが残念だけれども大玉撃ちまくるのも爽快ですね フィルの印象が勇者というよりNinja化している・・・カワサキか(…
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