襲撃《4》
興が乗ってまさかの二回投稿。ゼノブレイドの誘惑を断ち切った。頑張った。作者の勝ち。
何で負けたか、明日までに考えといてください。
――その通路を守っていたシオルの仲間は、二人。
イルジオンに乗り、魔導ライフルを手に警戒している。
ただ、相手が重武装であっても、奇襲であればあまり関係はない。
俺は、背後から一息の間に距離を詰めると、その武器――イルジオンの可変式ウィングを解体して作った、即席の鈍器を思い切り横に振り抜く。
魔力を数多込めただけの、技も何もないただ力任せなその一撃は、二人を一緒くたに吹き飛ばし、壁に激突させる。
一人はそれで気絶したようだったが、もう一人がノロノロと動いて銃を構えようとするのが見え、俺は攻撃を食らう前にその顎を蹴り飛ばし、意識を確実に刈り取る。
そうして、彼らは動かなくなった。
「うし、終わり」
シオルの仲間だから、殺しゃあしねぇようにするが、床で眠るくらいは甘んじてもらおう。
ちなみに、この可変式ウィング型鈍器は、例の一番最初に倒したおっさんの機体をぶっ壊して造ったものである。
あの機体を奪って乗るのも、選択肢としてはあったのだが……ぶっちゃけ、他人の機体は超動かし辛いのだ。
例えるなら、サイズの違う自分のものではない靴を履いて、ダッシュしようとしているような感覚か。
そんな靴を履いていれば、当然転びそうにもなるし、上手く走れもしない。
あと、もっと単純に機体に不具合が出たり、搭乗者の体調が悪くなったりすることもあるので、それよりは生身の方が普通に戦いやすかったりするのだ。
それにしても、あのおっさんは子供に気絶させられ、機体をぶっ壊され、散々だったな。
「……知ってはいたけれど、あなたの戦闘技能は、本当にデタラメね。どうして、そんな簡単にイルジオンの魔力障壁を突破出来るのかしら」
「おう、俺、魔力が多いからな」
「……あなた、何を聞かれても、大体そう答えてるわ」
そう言われましても。実際そうだし。
今のも、いつものように『魔力刃』を応用した、魔力で干渉する攻撃だし。
魔力量だけが全てではないが、しかしそれが多ければ多い程優位であることもまた確かなのだ。
あとは、その引き出しの数だけやれることが増え、その点俺は前世から戦闘漬けで生きていたので、色んな技を知っているというだけだ。フィルには負けるが。
「それで……まだ聞いてなかったけれど、この後はどうするの?」
「あぁ、まずは――フィルと合流しようと思ってる」
今俺が必要ものは幾つかあるが、まず最も欲しいのは、やはりイルジオンだ。
それに関しては、ちょうどいいものがある。
俺のためだけに造ってもらった機体――『禍焔』と名付けた、専用機である。
ただ、それが納められたトラックには、当然ながら鍵が掛けられている。
無理やり破壊してもいいのだが、まず間違いなく警報の類は設置してあると思うので、それをやると無駄に爆音を鳴らすことになる。
出来れば、レツカ先輩が持っていた鍵があった方がいいだろう。
また、もう一つ欲しいのが、戦力。
俺一人でも、それなりに戦ってみせるつもりではあるが、単純に手が足りない。
シオルはいるが、今回に関して言えば、俺は彼女を戦わせたくないのだ。
彼女は、自身の仲間達をかなり慕っているようだからな。
多分、大事にはされていたのだろう。
となると、やはりフィルと千生との合流を目指したい。
彼女らがいてくれれば、軍が相手だとしても、対等に渡り合える。
そして――恐らく、フィルのことだ。
アイツもまた俺と同じことを考え、レツカ先輩に鍵を貰って、こちらと合流することを選ぶと思われる。
俺が考えることは、アイツも考える。
そう断言出来るくらいには、彼女とは付き合いが長いのだ。
セイリシア魔装学園の控室に留まっている、ということはあり得ないだろう。
まず間違いなくシオルの仲間達が制圧に向かったと思われるし、というか実際各学園の控室には部隊が向かう手筈になっているとシオルが言っていた。
であれば、俺の幼馴染はどうにかそれを切り抜け、移動を開始していると思われる。
その場合、懸念すべきは入れ違いになることだ。
この競技場は非常に広く、通路も多く存在する。
ただがむしゃらに歩き回っただけでは、迷子になるだけで合流出来る確率は非常に低い。
ならば、ロクに連絡も出来ない今、行くべき場所は――俺達の専用機が乗ったトラックのある、関係者用の駐車場だろう。
あそこは俺もフィルも訪れ、場所を知っている。
俺と同じように考え、我が幼馴染もまた千生を連れて、トラックの鍵を持ってやって来てくれる可能性は高い。
故に目指すべき目的地は、そこ。
仮にフィルと合流出来なかったとしても、多少危険だが、トラックの鍵を破壊して高らかに警報を鳴らしながら、禍焔に乗り込むとしよう。
そんなことを軽くシオルに説明すると、彼女はしばし考える素振りを見せた後、ポツリと呟く。
「……やっぱり、付き合いの長さは、強いのね」
「あん? 何だって?」
「何でもないわ」
よくわからん顔で、フルフルと首を横に振るシオル。
ただ、どうやら少し元気が出て来てくれたようだ。
声の沈んだ様子が薄くなり、壊れてしまいそうだった雰囲気が和らいでいる。
隠していた胸の内をある程度吐き出せたことで、少しスッキリしたのかもしれない。
――それから俺達は、最大限周囲を警戒しながら、競技場内を進んでいく。
シオルに聞く限り、彼女のいたところは『第00旅団』と名乗っているのだそうだ。
総勢で二百名近くにも上る組織であるそうで、所属構成員は全員元軍人か、その関係者ばかりらしい。
すでに競技場は、彼らによって完全に制圧されてしまったらしく、遠くで鳴っていた戦闘音が全く聞こえてこなくなっている。
ざわめきも全く聞こえず、上空を飛んでいる飛行戦艦の低いエンジン音だけが辺りに響いているのだ。
観客数を考えると、その制圧はかなり大変だったと思うのだが……この短時間でそれを成し遂げたことから見ても、シオルの仲間達は相当な精鋭集団であることがわかる。
……そんな精鋭達が、多数ルシアニア連邦軍から脱走して『第00旅団』なんて組織に参加していることから、彼の国の危うさも同時に理解出来るがな。
ただ、やはり競技場が相当に広いおかげで、要所要所を彼女の仲間達が守っていたものの、別の通路を通ることでやり過ごすことができ、ほとんど戦闘することなく目的の駐車場に辿り着く。
そして――俺の予想は、当たっていたようだ。
「フィル! 来てくれてたか」
駐車場では、俺より先に辿り着いていたらしいフィルが、敵から奪ったのかサブマシンガンを手にしながら立っていた。
「ユウヒ、シオル! 良かった、やっぱりこっちに来たね。はい、千生ちゃん」
「サンキュー」
俺は彼女からブレスレットを受け取ると、魔力を流し込んで魔法陣を起動し、彼女の本体である大太刀を取り出す。
「千生、大丈夫だったか?」
『ん、ふぃー、たたかってて、かっこよかった』
「はは、そうか。かっこよかったか」
そうして俺が大太刀に話し掛ける様子を見て、シオルが口を開く。
「……その子が、イツキちゃんなの?」
「ん? あぁ、そういや大太刀の方は見てないんだったか。おう、この子の本体は、この剣なんだ。いつもの幼女の姿は、そこから抜け出た分身体、といったところだな」
「……そう。世界は、広いのね」
「それには全面的に同意だ」
俺とフィルとか、転生しちゃってるし。
と、フィルは、まじまじとシオルのことを見詰める。
「……ん、シオル。少し、スッキリしたような顔してるね。ちょっと前を向いた感じ」
「……えぇ、そうかもしれないわ。ごめんなさい、あなたにもいっぱい迷惑を掛けた」
「んーん、いいの。友達だからね」
何だか嬉しそうに、ニコッと笑う我が幼馴染。
彼女らの仲良さそうな様子に、少し嬉しくなりながら、俺は問い掛ける。
「フィル、トラックの鍵はあるか?」
「ん、レツカ先輩から貰ってきた」
「流石」
彼女から鍵を受け取った俺は、すぐに目的のトラックのコンテナを開けると、中へ入る。
そこに鎮座しているのは、昨日ぶりの、俺のためだけに造られた機体。
――よう、禍焔。
初出撃でテロリスト鎮圧たぁ、ツイてるぞ、お前。
俺は、胸中から湧き上がってくる笑みを隠さず、我が専用機に乗り込む。
すぐに魔力障壁が展開され、肉体と機体とが一体化するかのような感覚。
起動した禍焔が唸る。
まるで自ら、戦わせろと言っているかのように。
――お前がレヴィアタンだった時は、それはもう何度もクタバレと思ったものだが、今は仲間だ。
これからは共に戦おうじゃないか、新たな相棒よ。
機体を掌握した後、俺はレツカ先輩がお遊びで造った、追加武装のカノン砲へと手を伸ばす。
幾つか弄ってみると、無事動き、ちゃんと使用可能であることがわかる。
――よし。
これで、必要なものは全てが揃った。
そろそろ、反撃の時間だ。
そして俺は、同じように機体に乗ったフィルと、物珍しそうな顔でトラック内部を見渡しているシオルに向かって、言った。
「聞いてくれ。一つ、考えた作戦がある。フィルと千生、そしてシオルにも出来れば協力してほしい――」