国王と理事長
ありがとう! 死なない程度に……毎日投稿するわ!←
まあ、今、努力時なのでね!
出来る限りで頑張りますよ!
――学生達が、高揚と緊張を持ってホテルなどに引き上げた後。
引率の教師を除いた大人達は、この後こそが本番と、笑顔の裏に一物を抱えながら、交流を行っていた。
セイローン王国が、開催者として国王を連れてくることは予めわかっていたため、各国もまたそれぞれの国でトップに近い権力者を送り込んでおり、さながら国際サミットが如き豪華な顔触れとなっている。
特に、つい一昨年からこの競技大会に参加し始めたルシアニア連邦は、顔繋ぎの良い機会だとばかりに国のトップ層が三人もやって来ており、張り切って会話を交わしていた。
「――陛下」
「先生?」
そんな、競技大会とは半ば関係がないような政治の場にて、セイローン王国国王、ラヴァール=ヘイグヤール=セイローンのもとへとやって来る、一人の老人。
セイリシア魔装学園理事長、ファーガス=リトリディア。
ファーガスが教師としてラヴァールに勉学を教えていた時期があり、故に今もなお国王は、彼を「先生」と呼んでいた。
「少し、よろしいでしょうか」
ファーガスの声音にピクリと反応を示した国王は、周囲の者達に断りを入れると彼と共にその場を離れ、人気のない場所へと向かう。
付き従う護衛達に周囲を警戒させ、万全の態勢を整えたところで口を開く。
「ここならいいだろう。どうなされた、先生」
「話は聞いておいででしょうが……今年の対抗戦、危ないかもしれません」
「……あぁ、聞いている。ルシアニアの軍人らしき者達が、入り込んでいる件だな。エリアル公爵から報告をもらってから、警備は倍に増やし、軍に周辺地域を警戒させているが……先生は、まだ足りないと?」
「わかりません、ですが、備えはどれだけあっても良いでしょう。今は、情報が圧倒的に足りていない。これは、老骨の人生経験から得た勘ですが……こういう時は大体、何か良くないことが起こるものです」
「……先生の勘か。ならば、無下には出来んな」
ファーガスという男の鋭さを、国王は付き合いの長さからよく知っていた。
十分に警戒はしているつもりだったが……これはまだ甘く見ていたかもしれないと、ラヴァールは表情を険しくさせる。
「それと、聞いておきたいのですが、当局はどの程度把握しておいでで?」
「大した情報は持っておらん。不法入国者達がいることは掴めたようだが、その足取りはまともに追えておらんな。多分、先生が得ている情報と大差ないだろう。ただ――先生、敵は、何だと思われるか?」
その唐突な問いかけに、ファーガスは自らの予想を答える。
「最初は、ルシアニアが何か企んでいるのかと思いましたが……彼の国には、騒動を起こすメリットが皆無です。今は、少しでも他国と縁を結びたい時期であるはず。となると、軍部の反乱辺りであるかと」
我が意を得たりと、ラヴァールは頷く。
「あぁ、私もそう思う。どの勢力かは断定出来んが、向こうの内部争いを持ち込まれた可能性が高いだろう」
「……ルシアニアは、どの程度事の把握を?」
「いや、少し話したが、恐らく何も掴んでいないだろう。……わかってはいたが、体制変化の影響で、軍関係に対する警戒が相当に緩んでいるな」
一つ、ため息を吐き出す国王。
ルシアニアの帝国時代は、完全なる独裁国家で圧政が敷かれていたが、しかしその分軍は精強であった。
だが、皇室が解体され、帝国が連邦へと変わると潮流もまた変化し、「これからは軍事ではなく政治で物事を進める時代だ」と、現在あの国の軍部は大幅な縮小がされている。
実際、ルシアニアは軍を維持するために市民へと重い負担が乗っていたようなので、その判断も正しいことは正しいのだろうが……少なくとも、そのせいで今、自分達が煩わされていることだけは確かであった。
彼の言葉に、理事長もまた渋面を浮かべる。
「……彼らにも、困ったものです」
「全くだ。――とにかく、話はわかった。到着は早くても明後日辺りになるだろうが、この後すぐにでも警備を増員するよう言っておこう。我が国で開催するのに、問題を起こされては敵わぬ。しかも、巻き添えでな」
「えぇ、頼みます、陛下。それと、決して護衛の者達から離れぬよう」
「あぁ、わかっている。先生もな。よく、子供達のことを見ておいてくれ」
* * *
「――ユウヒ! シオルは?」
セイリシア魔装学園に宛がわれているホテルにて、俺を待っていたフィルが心配そうな顔で声を掛けてくる。
「……ダメだった。タイミングを見計らったつもりだったんだが、門前払いだ。『前日に他校の生徒が来るな』って」
「……そっか」
首を横に振ると、思い悩むような顔でそう呟くフィル。
――シオルが、何か抱えているのは初めからわかっていたことだ。
何か目的があって俺達の学園にやって来ていたこともそうだが、それ以上にその胸の奥底、彼女の根本の部分に重いものを秘めているのは、わかっていた。
それは、安易に他人が踏み込んでいい領域ではない。
だから、友人である身としては、何も気にせず共にふざけ、笑っていられればいい、なんてことを思っていたのだが――あの、泣き出しそうな、壊れてしまいそうな顔。
俺は……悠長だったのだろうか。
「……俺はよ、そこまで留学生と仲が良かった訳じゃねーから、よくわかんねぇ。けど……聞きたいことがあるんだったら、あとは試合で直接会って聞くしかねぇんじゃねーか?」
そう、真摯な顔で俺達に言うのは、ラル。
「ユウヒがいない間に、確認したぜ。留学生は本戦の『ドラク・フェスタ』のみに出るみてーだ。んで、おめーが一回戦を勝ち抜けば、二回戦目に当たることになる。それまでに会って話が聞けるんなら良し。ダメだったらそこで事情を聞け。そうすんのが一番手っ取り早いはずだ」
「……あぁ。そう、かもな」
と、ラルと共に待っていてくれたネイアが口を開く。
「とりあえず、どうするにしろ今日はもう遅いわ。試合前なんだから、ちゃんと休まないと。特にユウヒは、晩ごはん食べてないでしょ?」
彼女の言う通り、対抗戦の準備が終わった後に、すぐにルシアニアの生徒が泊っている別のホテルに向かったため、何も食べていない。
時刻はすでに、十一時近く。
俺達以外の生徒は、とっくに明日に備えて眠っていることだろう。
「ほら、これ。サンドイッチとおかず。冷めちゃってるけど、これだけでも食べておきなさいよ」
予め用意していてくれたらしく、ネイアは使い捨てのタッパーに入った軽食をこちらに差し出す。
恐らく、ホテルの人にでもタッパーを貰って、取り分けておいてくれたのだろう。
俺はフゥ、と一つ息を吐き出し、心を落ち着けると、それを受け取る。
「……ありがとう、助かる。ラル、ネイア、付き合わせちまって、悪いな」
「おう、おめーとフィルネリアは一年のエースだかんな。心置きなく実力を発揮して、是非とも頑張ってもらわねーといけねーからよ」
「そうね、これは貸しだから。返したかったら、いっぱい活躍しなさいよ?」
肩を竦めるラルに、フフンと勝気な笑みを浮かべるネイア。
二人の言葉に、俺とフィルは顔を見合わせ、苦笑を溢した。
――コイツらには、敵わないな。
「っと、千生は?」
ネイアとフィル、俺とラルが相部屋で、ホテルにいる間千生はフィルが見てくれることになっており、ブレスレットも渡してあったのだが……。
「千生ちゃんは僕達の部屋でもう眠ってるよ。『いつきも、まつ』って言って、ついちょっと前までは起きてたんだけどね」
「アンタ、明日あの子にも声を掛けてやりなさいよ?」
「あぁ、そうするよ。ネイアも、千生の面倒見てくれてありがとな」
その会話を最後に俺達は別れ、それぞれの部屋へと向かったのだった。




