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開幕式


 それからの毎日は、目まぐるしく回り続けた。


 日々、訓練に訓練。

 特に俺達のような一年は、二、三年生と違って対抗戦に慣れておらず、準備期間も短いため非常に覚えることが多く、かなり大変だった。


 そして、期末試験が終わり学園が夏休みに入っても学内の活気は薄れず、その日が近付くにつれむしろ高まっていたことだろう。


 ちなみに期末試験だが、筆記の方はまあ良いかな、という程で、イルジオンと魔法の実技はほぼ満点だった。上々の成績と言えるだろう。

 フィルの方は、筆記も実技も両方ともトップに近く、流石優等生という成績だったようで、シオルもまたそうだったらしい。


 ラルとネイアは、ネイアは良かったようだが……ラルは筆記が非常にマズかったらしく、赤点は免れたようだが大分冷や汗を掻いていた。


 奴には、「ユ、ユウヒ、お前は俺と同種の奴だと思ってたのに、この優等生……!」と罵倒なのかよくわからんことを言われたものである。

 

 そんな感じで、俺の一年の一学期は終了し――現在。


 セイリシア魔装学園の、対抗戦に出場する生徒達は、その全員がセイローン王国内を走る魔導列車に乗って移動していた。


 魔導列車は、国内の人の移動や供給を支える重要な移動車両であり、時間を掛ければ辺境地域まで行くことが可能で、我が家もフィルんところのエルメール一家と共に魔導列車に乗り、保養地へ遊びに行ったことが幾度かある。


 路線によっては、そのまま友好国内を通り、大陸の反対側の端近くまで繋がっているものまであるらしい。


 よくもまあ、そんな規模で魔物対策をしながら路線を引けたものである。

 やはり平和だからこそ、そういうところに注力する余裕があるのだろうか。


「…………」


 と、無言のまま窓に噛り付き、流れる外の景色をじぃっと見続けているのは、千生(いつき)


 彼女はああして、もう列車に乗った時からずっと外を見ている。

 やはり初めて乗る子供には、相当に興味深い光景であるようだ。


「千生、面白いか?」


「……ん。せかいは、すごい」


 俺は、笑って彼女の頭をポンポンと撫でる。


 対抗戦は数日掛かるのだが、「妹が事情があってこちらに来ていて、家に一人で置いていけないから」という感じの説明をしたらあっさり同行することを許され、「そちらに関与は出来んぞ、しっかり面倒を見ることだ」とガルグ担任に言われ、こうして共に列車に乗っている。


 向こう数日、彼女を出さないままでいるのは流石に可哀想だと思っていたので、助かった。

 これで、堂々と千生と共に行動出来る。


「へぇ、その子が君の妹か。とっても可愛いらしい子じゃない。イツキちゃん、これ食べる?」


「たべる。ありがと」


 デナ先輩から菓子をもらい、ポリポリと食べる千生。


 そのリスみたいな姿に、わかりやすく彼女の頬が緩んでいる。


「イツキちゃん、可愛いし良い子よねぇ……」


 と、その正体を知っているレーネ先輩が、苦笑気味にそう言葉を溢す。 


「あれ、何、レーネは知ってたの?」


「ちょっとね。……イツキちゃん、私のお菓子も、食べる?」


「うれし。ありがと」


 ちなみに今、席は俺と千生が隣同士。

 そして一つ前の席を、グルンと回転させてこちらに向け、レーネ先輩とデナ先輩の二人が座っている。


 また、通路を挟んでその向こうの席にはフィルとシオルが座っており、俺が知っている限りだと仲が悪いっぽい二人だったので、大丈夫なのか、とちょっとビビっていた俺だったのだが……。


「フィル、それ、違うわ」


「え? あ、ホントだ」


 何か魔法系の参考書みたいなのを見ながら、そう気安く会話を交わす二人。


 実は彼女ら、何度か二人だけで話していたのは見ていたのだが、あんな感じで俺の知らん間にかなり仲良くなっていた。


 馬が合わないのかと思っていたのだが……何か、深く共感出来るものでもあったのだろうか。


 女ってのは、よくわからん。

 性別以前に、種族からして別物である気がしてならない。


「……そう言えばシオル。結局最後までこっちにいたが、大丈夫だったのか? 何か打ち合わせとか、そっちの学校でした方が良かったんじゃ?」


 そう、シオルは結局、対抗戦の最後まで、セイリシア魔装学園に滞在していた。

 というか今も、こうして俺達と共に魔導列車に乗っている訳だし。


 てっきり俺は、一学期終了時点で国に帰ると思っていたのだ。


 だから、何か送別会みたいなことはしてやらないと、なんて考えていたのに、いつ戻るのか聞いたら普通に「? まだこっちにいるわ」と言われ、面食らったものである。


「それはそうね。けど……私の国は、複雑だから。正直なところ、帰るよりもこっちにいる方が、まともな訓練になるの」


 ……そうか、それでずっとこっちにいたのか。

 単純に、彼女の技術向上として、国元にいるよりこちらの方がマシ、と。

 

 いや、だが、それにしたって一度も戻らないのはマズいのでは、と思っていると、レーネ先輩が俺達の話に混ざる。


「けど、シオルちゃん、向こうに着いたら早いところそっちの学園の人達と会った方がいいわよ? 一度も連絡してなかったんでしょ? どうもウチに、留学生がどうしてるかって連絡も来てたみたいだから」


「……はい、そうします」


 そう答えるシオルの顔に見えるのは……緊張(・・)、だろうか?


 その時俺は、彼女が元の学園の生徒達とは仲良くやれていないのか、なんてことだけしか、考えられていなかったのだった。



   *   *   *



 今年、学園魔導対抗戦に参加する国は、全部で五つ。


 この国『セイローン王国』から始まり、『ルシアニア連邦』、『ラナド共和国』、『ヴェルニア共和国』、『ギリオン連合王国』の五か国である。


 ただ、出場する学園は五つではなく、この国からは三校、ギリオン連合王国から二校、他がそれぞれ一校ずつの、計八校が参加して競うことになる。


 開催地はセイローン王国で、辺境近くの地方に造られた巨大な専用競技場が舞台となる。


 毎年セイローン王国で行われる訳ではないようなのだが、やはり国力のあるところが開催を担当することが多いらしく、そしてこの国は大陸有数の先進国であるため、三年に一度は担当するのだそうだ。


 そういう、国際交流イベントとも言える場でありながら、国の権威を高めることが出来るような場でもあるため、その開幕式の挨拶をする者もまた、立場ある者が選ばれる。


「――今年も無事に、学園魔導対抗戦を開催出来たこと、誠に喜ばしい限りであります」


 各国の生徒達及び、関係者のほぼ全てが揃った大ホール。


 その壇上にて現在、挨拶をしている者は――セイローン王国第十四代国王。


 ラヴァール=ヘイグヤール=セイローン。


 歳は、四十代後半。

 背は高く、余すところなく鍛えられていることが一目見てわかる程にゴツい身体付きをしており、全く歳を思わせない若々しさがある。


 二十代の頃には、王族でありながら戦場に出たこともあるという豪傑であり、その雄々しい姿から、王というものがより庶民的になった今でも非常に人気のある国王だ。


 ……いや、むしろ、王が『神』ではなく『人』になった時代であるからこそ、それだけの人気があるのかもしれない。


 政治手腕もまた確かで、ここ二十年程のセイローン王国の隆盛は間違いなく彼が立役者だと言われる程であり、王族だから、という理由だけではない政治への影響力も有している。


 彼がこの場に出てくるだけで、この国の対抗戦に対するスタンスがわかろうものだ。

 学生にとって、これが非常に有用な大会であるというのも、頷ける話だな。


「まず、各国の関係者の方々。皆様にご協力していただいたおかげで、こうして開催まで持って行くことが出来ました。皆様には、心からの感謝を」


 そう、大人達が集っている方向に向かってセイローン国王が礼をすると、そちらから拍手が送られる。


 ウチの学園の理事長の姿が見える辺り、恐らくあれがそれぞれの学園の責任者だったり、重鎮だったりするのだろう。


 ちなみに、現在行われているのは開幕式である訳だが、しかし競技自体が始まるのは明日である。


 どうやら、今日のこの後から明日に掛けて準備やコンディションを万全なものにし、そして明日は何の雑事に煩わされることなく全力を発揮してほしい、という考えからそうなっているようだ。


 外向けに、明日また別で、派手な開会のパフォーマンスは行うそうだが、俺達が全体で集まることはもうないらしい。


 ありがたい方針だな。


 それから彼は、短く幾つかの話をした後、全部で八百はいるであろう学生達に向かって、言葉を続ける。


「そして最後に、各国の学生達。張り切って、悔いのないよう正々堂々と明日から始まるこの大会に挑むと良い。これから諸君らが対抗戦にて経験することは、その全てが成長の大切な糧となることだろう。――気張れよ、若者よ」


 彼が男前にニヤリと笑うと同時、会場全体を、拍手が包み込んだ。


 ――そうして開幕式が終了し、各国の学園が割り振られたホテルに向かったり、明日からの競技のための準備に向かったりし始めた時、ちょいちょい、と服の裾を引っ張られる。


 何かと思い、そちらに顔を向けると、そこにいたのはシオル。


「? どうし――どうした?」


 固く、強張った(・・・・)その顔を見て俺は、口調を改め、真剣に問い掛ける。


 すると鬼族の少女は、強い葛藤が容易に見て取れる表情で、数度口を開閉させた後に何かを言い掛け――。




「――シオル! ここにいたのか。さっさと来い、お前がいなかったせいで決められなかったことが数多あるんだぞ!」




 突如、俺達のところまでやって来て、苛立ちを隠しもせず声を荒らげる、見知らぬ男子生徒。


 その制服は、シオルが着ているものと似通っており……となると、ルシアニアの生徒か。


 彼はシオルの腕を掴もうと乱暴に手を伸ばし、だがその途中で俺がガシッと男子生徒の腕を掴んで、止める。


「おい! 何してんだ!」


「あん? 留学して出来た彼氏か? 悪いがお前みたいなのを相手にしてる余裕はないんだ! コイツが戻って来なかったせいで、対抗戦の打ち合わせが全然進んでないんだよ! ったく、自分に実力があるからって、みんなに迷惑掛けやがって……!」


 俺の手を無理やり振り払うと、荒い口調のままガシガシと頭を掻く男子生徒。


「……ごめんなさい。また」


「あっ、ちょ……」


 そしてシオルは、固く口を結んでこちらに小さく頭を下げると、ソイツに連れられて去って行く。


 男子生徒の言い分に何も言えなくなってしまっていた俺は、鬼族の少女を止めることが出来ず、その場で一人、マヌケに固まっていた。




 ――俺はその後、彼女に会うことは出来なかった。


 投稿開始一か月、どうにか毎日投稿は続けられたか……。


 だが、ここから先も、死ぬまで毎日投稿し続けるぞ……ッ!


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― 新着の感想 ―
[一言] アタシら読者はいつでも更新を待ってるからよぉ……止まるんじゃねぇぞ……!!
[一言] 頑張ってください!はよ!
[良い点] 絶対の毎日投稿が約束されたこと [一言] 千生可愛ええ( *¯ ꒳¯*)ナー
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