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先輩二人と



 ――今年、学園魔導対抗戦で行われる競技は、四つ。


 個人の魔法技能を競う競技が二つに、イルジオンに乗って行う競技が二つだ。


 俺とフィルが関係あるのは、勿論イルジオンに乗って行う競技――『ブレイク・スティープルチェイス』、『ドラク・フェスタ』である。


 前者『ブレイク・スティープルチェイス』は、いわゆる障害競走だ。

 コースに設置された障害物を避け、ゴールまでの順位を競う競技で、互いの妨害はありとされている。


 後者『ドラク・フェスタ』は、セイリシア魔装学園の入学試験のような、バトルロイヤル形式で戦う競技だ。

 危険が多いため厳格にルールが定められているのだが、やはりその派手さから非常に人気があり、花形の競技であると言えるだろう。


 俺達はそれぞれが両方ともに出場することになっているのだが、ただ少し複雑な形になっている。


 というのも、対抗戦は一年生のみが参加可能な『新人戦』と、全学年参加可能な『本戦』があり、その内『ブレイク・スティープルチェイス』の方は新人戦に、『ドラク・フェスタ』の方は本戦に出場することになっているからだ。


 新人戦は男女で分かれているのだが、本戦は男女混合であるため、『ドラク・フェスタ』では組み合わせ如何によって、同校でもフィルと対戦する可能性がある。


 楽しみだな。

 

 ちなみに、ラルとネイアも新人戦には参加するようだ。

 やはりあの二人も、一年の中では高い実力があると評価されているのだろう。


 ――と、これらに関する詳しい説明会が、つい昨日に行われたのだが。


「全く、みんな文句ばっかり言って。こっちがどれだけ苦労して調整したのか、わかってるのかしら!」


 俺の目の前で、不機嫌さを隠しもせず不満を口にするのは、生徒会長のレーネ先輩。


「レーネ、毎日遅くまで頑張ってたもんねぇ……」


 そう、彼女に言葉を掛けるのは、デナ先輩。


 対抗戦の練習のスケジュールや、訓練施設の割り当てなどは生徒会が中心になって行っていたようだ。

 その関係者は、選手のみならずスタッフを合わせると百名近くにも上るため、恐らく調整は本当に大変だったことだろう。


 にもかかわらず、俺もその場にいたから知っているのだが、「こっち、もうちょっと時間を割いてくれないか?」「この場所で練習は、狭すぎるんだけど……」「これじゃ全然足りないよ」などなど、色々なことを言われまくっていたため、相当なフラストレーションが溜まっていたようだ。


 こういうのは、まあ……別に彼らがわがままという訳ではなく、ある程度仕方のないことなのだろう。


 何故なら、「我慢しろ」と言う側にも理屈はあるし、「いや、もっと良い結果を出すために練習したい」という側もまた正しいのだから。


 と、それからひとしきり毒を吐き終えたところで少し落ち着いたらしく、レーネ先輩は「ハァ……」と一つため息を吐き出す。


「まあ、みんなの言うこともわかるし、その調整をするのが私の仕事なんだけどさ。……しょうがない、また頑張るか」


「大丈夫、レーネは有能だから。本気を出せばすぐ終わるって」


 笑って励ますデナ先輩に、俺はコクリと頷く。


「そうっすね。性格は……アレっすけど、有能なのは間違いないんで、何とかなりますよ」


「あら、ユウヒ君。お姉さん、アレの部分が気になるわね。教えてくれないかしら」


「勿論、聖女様が如く最高だって意味っす」


「そう。ユウヒ君、だんだん私に遠慮がなくなってきたわね」


「……二人とも、知らない間に随分仲良くなってるわね」


 俺達のやり取りに、デナ先輩は苦笑を溢した。


 ――ここは学園ではなく、以前生徒会長と共に入ったことのある、例の高級喫茶店だ。


 対抗戦の説明会の後、「ユウヒ君! ツケの清算! 明日の休日、付き合って!」と言われ、こうして愚痴を聞いているのである。


 デナ先輩の方は、特に貸し借りとかはないのだろうが、まあ仲が良いらしいので彼女も呼んだのだろう。

 

 ちなみに、レーネ先輩は無地のシャツに近いような上にスカートという清楚な格好で、デナ先輩は少しだぼっとした感じの上にジーンズという、カッコいい感じの恰好をしている。


 二人とも素材が非常に良いので、ぶっちゃけ一緒にいて悪い気はしない。


「なあに、そんなまじまじと見詰めちゃって。お姉さん達に見惚れちゃった?」


 少し調子が出てきたようで、わざとらしくしなを作るレーネ先輩。


「まあ、そうっすね。やっぱ二人とも美人だなとは思いましたけど」


「……そ、そう。……冗談で言ったんだけれど、普通に答えられると照れるわね」


「……私、無駄に被弾した気がするんだけど」


 うむ、やはり女の人は、素直に褒めておくとコミュニケーションが上手くいくな。


 とりあえず褒めろ。それで大体上手くことが進む。

 魔王式処世術だ。


 と、レーネ先輩はコホンと一つ咳払いをすると、俺達二人に向かって言った。


「さ、そろそろお買い物行きましょう、お買い物! デナ、ユウヒ君、今日はいっぱい付き合ってもらうわよ!」



   *   *   *



 それから場所を移動し、近くの繁華街で色んな店を見て回る。


 服や小物などを見て、女性陣二人がきゃぴきゃぴと買い物を楽しむその一歩後ろで、俺は完全な荷物持ち要員として彼女らに付いて行く。


 まあ、女性の買い物に付いて行ったら、男の役目などそんなものだろう。

 いや、勿論、無理やり荷物を持たされている訳ではなく、自発的に「持ちますよ」と言った結果ではあるのだが。


 やはり今回もいる、一般人に溶け込んでいるレーネ先輩の護衛達が苦笑を浮かべているのがチラリと見えたが、見なかったことにする。


「やっぱり、男の子が一人いてくれると、とっても助かるわね! 今日は本当にありがとね、ユウヒ君」 


「ごめんね、荷物持ちなんてしてもらっちゃって……」


 申し訳なさそうなデナ先輩に、俺は笑って言葉を返す。


「全然大丈夫っすよ。こっちからすれば、日頃世話になってることの礼のつもりなんで」


 実際、この二人にはすごい世話になっている。

 これくらいは、安いものである。


 普通に、俺も楽しいしな。

 

 と、ふと思い出した様子で、レーネ先輩が口を開く。


「そう言えばユウヒ君。あのレヴィアタンの切り身、食べたんだって? どうだった?」


「あー……実は、微妙だったんすよねぇ。デカいせいか、何だか味がスカスカな感じがして。しかも、結構貰っちまったもんだから、食べ切るのも割と辛くて。魔力は豊富だったんで、滋養強壮の効果はあったと思うんすけど……」


「……もしかしてユウヒ君、量を減らす目的で、お裾分けとか言って微妙な味のアレ、格納庫に持ってきてたの?」


「……何のことかわからないっすねぇ」


 俺は、ス、とデナ先輩から視線を逸らす。


「あら、デナは食べたの?」


「うん。もの珍しさから食べたけど、全然美味しくなかった。へぇ~、そう。ユウヒ君、先輩をそういう目的で使うんだ」


「いっ、いや、違うんすよ! ほら、アルヴァン先輩には、是非とも蒲焼にした奴を食ってほしくて、けど一人分だけ持ってくるってのもアレじゃないっすか」


 どうせだし、と思ったことは、ぶっちゃけ否めないが。


「へぇ~」


 慌てて言い訳を重ねる俺に、ジト―ッとした目を送ってくる彼女。


「そ、それよりデナ先輩! その服、先輩にすげー似合ってますね。いいと思いますよ」


「そう、ありがとう。でも、私はこれ、趣味に合わないって思ってたところなのよね」


 そう言って彼女は、手に持っていた売り物の服を元の場所に戻す。


「…………」


「あはははは!」


 何にも言えなくなる俺に、腹を抱えて大笑いするレーネ先輩だった。


 ――そう、ふざけながら繁華街の中を歩いていた時。


 ふと、俺は、足を止める。


「? ユウヒ君?」


「どうかした?」


「……いえ、何でもないっす」


 不思議そうな顔をする二人にそう答え、再び歩き出す。


 ――やっぱ、尾けられてるな(・・・・・・・)


 肌を刺す視線。


 他人へと意識を向ける時、本人がどれだけそれを隠そうとしても、必ず肉体に緊張は生まれ、そして緊張は体内魔力の乱れに繋がる。


 訓練する程それは小さくなり、自然なものへと変わる訳だが、決してゼロにはならない。


 俺は、これでも元魔王だ。

 平和な世界に慣れてきたとはいえ、付かず離れずの距離をずっと保っている、その不自然な魔力を見逃す程、ボケてはいない。


 気付かれないよう決してそちらへと視線は向けず、薄く魔力を広げて周囲を確認し――いた。


 建物陰。

 人数は、二人。


 肉体を巡る魔力の流れの形状からして、成人男性。背丈は俺よりも高い。

 無駄のない、洗練された循環を見るに、間違いなくその道のプロだ。


 軍人か、それに準ずる何かだろう。


 レーネ先輩の護衛は……気付いていない。

 恐らく、相手にまだ害意が見られないことが理由だろう。


 そう、ストーカーどもは俺達に対し、敵意を持っていない。


 だが、味方ではないことだけは確かだ。

 味方ならばつまり、その任務は俺達の身を守ることであると思われるが、奴らは俺達と護衛のみに意識を向けており、他は全く見ていない。


 監視、という言葉が最もピッタリ来るだろう。


 つい最近不穏な話を聞いたが、それに関係する者達か。

 それとも、もっと別の何かか。


 まあ、どうであるにしろ――不快だ(・・・)


 何が目的か知りたいところではあるが、ただの学生である以上こちらの世界じゃ強硬手段は取りづらい上に、今は俺一人じゃない。

 わざわざ危険を冒す必要はなく、それより二人の安全を守る方が何にも増して優先だ。

 

 そう判断した俺は、今度は、わざと後ろを振り返った。


 一層気配を薄くする二人組の男達を見据え、ソイツらのみを、高めた魔力で威圧する。




 ――潰すぞ。これ以上付いてくるなら。




 すると、大きく高まる、ストーカーどもの緊張。

 数秒程硬直したかと思うと、すぐにこの場から逃げ始める。


 ストーカーどもの気配が乱れたことで、ようやく先輩の護衛達も尾行に気付いたらしく、三人いる護衛の内一人が近くから離れていった。


 あとは、彼らに任せておくとしよう。


 ……ガルグ担任は、理事長がキナ臭いものを感じている、などと言っていたが、どうやらそれは正解だったようだ。


 俺も……警戒しておくべきか。


「……あれ? ユウヒ君……今、何かした?」


 レーネ先輩が、不思議そうに俺を見る。


「? 何がっすか?」


「いや、何だか君の魔力を感じたような気がして……」


 ……周囲に威圧が漏れないよう気を付けていたはずなのだが、生徒会長は感覚が鋭いっぽいな。


「特に何もしてないっすよ。……いや、正直に言うと、あの武器屋が気になって……」


 俺が指を差す先にあるのは、魔法関連のアイテムやイルジオン関連の装備が置かれている、それなりに大きい武器屋。


「あ、私も見たいかも」


「フフ、わかった。それじゃあ次は、そこに行こっか」


 そうして俺は、何事もなく二人と共に繁華街を楽しんだのだった――。


 繁華街とか、早く何も気にせず行けるようになりたいねぇ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ちゃんと蒲焼きにして食べてたw [気になる点] >魔王式処世術 勇者さん、こんなことやってまっせ
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