もう一人の部員
――翌日、放課後。
この後行われる予定の、対抗戦の説明会まで少し時間があるため、格納庫にて暇を潰していた時。
「見たまえ! これが、我が魔工技術を駆使して組み上げた、二輪式魔導車だ!」
『おぉ~!』
バサッと片腕を広げる少女――レツカ=アンバース先輩の言葉に、俺は周囲の野郎の先輩方と一緒に、歓声をあげる。
彼女の後ろにあるのは、二輪式の移動用車輛。
かなりの改造を施してあることが一目見て理解出来るような造りをしており、ゴツゴツとした武骨な見た目となっている。
だが、そのゴツさと武骨さがむしろ良い。
彼女はロマンの何たるかをわかっていると言わざるを得ないだろう。
「元となったのは、トレイアルブ社の古いネイキッドモデルだが、私が手ずからパーツを交換し、エンジンから何まで手を加えたことで、最新式のバイクと遜色ない程のスピードを出すことが可能となっている!」
『おおお~!!』
各部を紹介する彼女の言葉に、俺を含めた皆が、先程よりも大きな歓声をあげる。
「そして! これには一つ、ギミックを仕込んである! なんと変形をすることが可能で、このペダルを踏んでギアを入れることで、スピードフォルムへと変化することが出来るのだ!」
『おおおお~!!』
ウィーンと数秒で形が変化し、ゴツい見た目は変わらず、だがどことなくスタイリッシュな、前傾姿勢気味のフォルムへと変更するバイクに、もうこれ以上はないという程にテンションの上がる俺達。
ちなみに格納庫にいる女性陣が、周囲でしらーっとした目でこちらを見ているが、テンションが上がり切っている俺達の中には、それを気にする者は誰もいなかった。
ロマンとは、全てを置いて優先されるものなのだ。
この感情には誰も逆らえず、誰も抑えることが出来ないのである。
「最後に!! このボタンを押すと、覆いが剥がれ、巨大砲塔が姿を現す!! ビーム砲を発射可能な、最新式の大砲だ!!」
「うおおおおお!! ――って、あ?」
姿を現した砲塔に、もうMAXテンションになる俺だったが……周囲を見ると、歓声をあげているのは俺だけだった。
「そうか、レイベーク……お前は奴の理解者だったか」
「アイツの相手は、お前に託した」
「頑張れよ、少年」
ポンポンと次々に俺の肩に手を置く、機工科の先輩方や機龍士科の先輩方。
そのまま彼らは、「レツカ、ロマンをよく理解してるが、あの大砲搭載ぐせがな……」「どう考えてもアレはいらんだろ。エラく車体がデカいと思ったら……」「解散解散」と言って、それぞれ去って行った。
……何だよ、カッコいいだろ、これ。
ロマンに溢れまくってるだろ。
と、訝しげな思いで首を傾げていると、レツカ先輩が俺のところまでやって来る。
「大剣を武器として使用していると聞いた時から思っていたが、やはり君は見所があるな。しかし、残念ながら彼らは、大艦巨砲主義の素晴らしさを理解していないのだ……」
そう言って先輩は、「困ったものだ」と、わかりやすく肩を竦める。
「先輩、俺はわかってますよ。デカいは正義。そういうことっすよね」
「うむ、その通りだ。胸も大きい方が、男の子には人気が出るだろう?」
「……いや、その例えは俺、何にも言えなくなるんで、やめてくれないっすか」
――彼女は、俺が会っていなかった、整備部の最後の部員の二年生だ。
亜麻色の髪に、褐色に近い肌。
小柄な体躯で、二年のもう一人の整備部であるカーナ先輩と同じくらいの背丈をしている。
カーナ先輩は小動物のような可愛らしい人だが、こちらは知的美人といった感じの風貌だ。
ちなみに、小柄でも胸はデカい。
先程の発言は、それを受けての言葉だと思われる。
そういうセクシャルな部分は、男としては大分反応に困るので、やめてほしいところである。
――レツカ先輩は、変形バイクなんてものを一人で組み上げられる程の、いわゆる天才である。
この若さで彼女が確立した基礎魔法理論も存在しており、その応用である魔法工学の分野では、すでに一線級の研究者と同等の腕を有しているのだそうだ。
その実力を買われ、どこぞの研究所でアルバイトがてら開発協力をしていたりもするらしく、そちらの協力のために授業免除すらされることもある程だと聞いている。
彼女は二年生だが、どうも学園で教えられる技術はすでにほとんど吸収してしまったので、好き勝手にやらせてもらえているらしい。
学園としても、彼女が在籍しているだけでその知名度に大きくプラスとなるため、いてくれるならば何も問題はないのだろう。
整備部……こうして考えると、結構すげー人材が揃ってるのな。
「ちなみに先輩、このバイクは公道を走れるんすか?」
「いや、無理だな。武器、搭載しちゃってるし。テスト走行もしていないから、途中で壊れる可能性もある。というかそもそも、廃品同然のを貰って組んだものだから、車輛登録すらしていないぞ」
あ、そうなんすか。
完全な観賞用、と。
……が、カッコいいから、それでもいいかもな!
「時に、ユウヒ君。君、今、専用機を造ってもらっているだろう?」
「? はい、そうっすね」
レヴィアタンの討伐報酬で追加してもらった、俺用の専用機。
すげー楽しみにはしているものの、今は製作途中であり、完成にはまだそれなりに掛かるという話だったのだが……。
「それ、実は私も協力しているところが造っているんだ。それで、近い内に機体の雛形が完成しそうでね。学園に持ってくるから、その時君と、君の友人の……フィルネリアさんだったか? の詳しい身体データの入力に協力してほしいんだ」
おぉ……まだ、理事長と交渉してから二週間も経っていないのだが、もうその段階まで来てるのか。
「勿論、いいっすよ。こっちは造ってもらっている側っすからね、フィルの奴も大丈夫なはずです。いつ頃になりそうなんです?」
「一週間程でこちらに来るだろう。君は対抗戦の選手に選ばれたらしいから、今後大分忙しくなるだろうが、折を見て付き合ってほしい」
「了解っす。こちらこそよろしくお願いします――っと、お。シオル」
たまたま近くを通りがかったらしい鬼族の少女、シオルに声を掛けると、彼女はこちらに小さく会釈する。
「よう、今日は自主訓練か?」
そう問い掛けると、コクリと頷く留学生。
「こちらの機体は、まだ慣れていないから。あなたは……新型兵器の研究?」
彼女はチラリと、俺達の後ろにあるバイクを見る。
「いや、これは兵器というか、おもちゃだな。ロマンたっぷりの」
「うむ、これは兵器ではなく玩具と呼ぶべきだろう。ロマンたっぷりの」
「「カッコいいだろ(う)?」」
「……えぇ、そうね」
声を揃える俺達に、彼女は平坦な声でそう答える。
おっと、今、とりあえずで返事をしたな?
お前も感情をあまり表に出さないタイプであるようだが、俺は我が妹リュニと我が剣千生という、二大口数少ない幼女との生活の経験があるのだ。
それくらいであれば、すぐにわかってしまうのだよ……いや、まあ、今のは俺じゃなくてもわかるかもしれないが。
「……それより、そろそろ対抗戦の説明会が始まると言っていたわ。あなたも、行った方がいいんじゃない?」
「お? マジか。教えてくれてサンキューな。それじゃあ、先輩、シオル、また」
そして俺は彼女らと別れ、格納庫を後にした。
ちなみに作者は、カワサキ信者です。
カワサキのよう……あの漢気溢れるフォルムがよう……いいんだわ。へへ。