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海上飛行訓練《1》



 ――ガルグ担任に、海上飛行訓練に参加するよう言われた日から、一週間と少し経ったその日。


 俺とフィル、そしてラルとネイアは訓練服を着込み、格納庫へやって来ていた。


 現在、上級生であろう機龍士科の生徒達、そして彼らの機体の整備をする機工科の生徒達が準備に勤しんでおり――そして俺達の前には、アルヴァン先輩が立っていた。


「よし、揃ってるな、お前達」


「あれ……? 引率、アルヴァン先輩なんすか?」


 俺の問い掛けに、彼はニヤリと笑みを浮かべる。


「あぁ、専用機持ちの数人に声が掛かってな。ユウヒがいるという話だから、顔見知りの俺がいいだろうということになった。――一年、俺は三年のアルヴァン=ロードレスだ。今日一日、お前達の引率をすることになった。よろしく頼む」


 俺以外の皆が順に挨拶を返した後、彼は言葉を続ける。


「先に伝達事項が一つある。どうやら最近海が荒れているらしく、もしかすると魔物と遭遇する可能性がある。今回はなるべく俺が排除するが、数が多い場合は戦ってもらうことになるかもしれない。お前達四人に実力があることは聞いているが、決して気は抜くな」


 そう、どうも今、海が荒れ気味になっているらしい。


 海域に棲息する魔物による被害が例年より多くなっており、原因は判明していないが、少し前に鳥どもが学園方面に飛んで来たのも、その一環だろうとのことだ。


 ……自然が荒れている、ね。


 そういう時は大体、近くに強い魔物が住み着いた場合が多い。

 強い魔物の気配を感じ取り、それより弱い魔物が逃げ出す訳だ。


 確かに、警戒はしておいた方がいいかもしれない。


 それから幾つかの注意を聞いた後に、俺たちはそれぞれの機体へと向かう。


 一年が使う機体は、ほとんどが古い機体だ。


 問題なく動きはするが、機能が少なかったり、性能が少々劣っていたりするものを割り当てられ、学年が上がるまでそれを使い続けることになる。

 何かの競技大会で良い成績を収めたり、自分で機体を持っていたりするとその限りではないものの、それはほとんど例外みたいなものだ。


 イルジオンは高いので、そんなポンポン仕入れられるものじゃないため、仕方がないことはわかっているのだが……今後、色んな機体を試してみたいものである。


 ちなみに、今日はここんところずっと使用している高負荷インナーを下に着ていない。

 魔物の出現可能性がゼロではないため、万が一を考慮してガルグ教師からそうするように言われたのだ。


 滅多なことをしなければ大丈夫だとは思うが、一人海に落下して救助を呼ぶハメにならないよう、気を付けなきゃな――なんてことを思いながら、通算二台目となる俺の割り当て機体に向かおうとした時、アルヴァン先輩が声を掛けてくる。


「ユウヒ、ちょっと待て。デナが話があるようだから、行ってやるといい」


「? 了解っす」


 アルヴァン先輩にそう言われ、ちょいちょいと手招きしていたデナ先輩の下に行くと、彼女は一機のイルジオンをコンコンと叩きながら口を開いた。


「ユウヒ君、ガルグ先生にお願いされて、この機体を君用に組んでみたから、乗ってみてほしいんだけど……いいかな?」


「! マジすか! よっしゃあ!」


「不具合があるといけないから、飛ぶ前に試してほしいの」


 俺は大喜びでその機体を起動し、開いた前装甲に身体を滑り込ませる。


 魔力障壁(マギシールド)が輪郭に沿って展開し、俺と機体とが一体化する。


「内部の魔導線(マギケーブル)の量を倍にして、とにかく魔力伝達に強い設計にしたの。ただ、それでもユウヒ君の全力戦闘にどれだけ耐えられるかはわからないし、その分機体が重くなって機動性が落ちているから、そこは気を付けて。いつもより、多量の魔力を吸われることにもなると思う」


 そう説明を受けながら、軽く魔力を流し込んでみると――ん、確かにいつものエール型イルジオンより、少し重たい感じがあるな。


 だが、デナ先輩が手掛けただけあって、魔力の通りが他と比べてべらぼうに良く、反応も速い。

 

 これだけ使いやすければ、多少重たかろうが問題ないだろう。


 魔力を多量に食うといっても、それでもこの程度ならば、枯渇することはないと思われる。

 気にせず三次元戦闘が行えるだけの余裕は十分に確保されている。


 ウチの担任が手を回してくれたようだが、高負荷インナーがない訳なので、こうして機体の用意をしてくれたのはマジでありがたい。


「俺、デナ先輩にはホントに頭上がらないっすね……すげー嬉しいっす! ありがとうございます!」


「ん、喜んでくれたなら良かった」


 テンションだだ上がりの俺と、同じように嬉しそうに笑う彼女と共に、機体のチェックを行って不具合がないことを確認した後、武器を機体に装備する。


 使うのは、学園に置かれている、いつものマキナブレードの大剣。銃器系の武器は、対人戦じゃないので用意していない。


 この大剣には予め魔術回路を組み込んでおり、魔力を流し込むことで『硬化』と『重量倍化』の二つを発動することが出来る。


 色々考えはしたが、この二つだけあれば攻撃力は足りるだろうという判断だ。

 キャパは残してあるので、他の魔法も発動可能だし、大剣をぶっ壊すつもりなら広域殲滅魔法のような高火力なものも使えるしな。


 マキナブレードとして元々組み込まれている機構は、かなりシンプルなもので、抜き放っている間は斬れ味が増すというもの。

 結局、変に凝った能力よりも、シンプルで汎用性の高いものの方が扱いやすいのは間違いないだろう。


 ちなみに、他三人の装備は、まずフィルが魔導ライフルに長剣のマキナブレードというオーソドックスなスタイル。


 ラルが、魔導ライフルと……あれは盾だな。

 腕装甲に仕込み、スイッチを入れることでシールドが展開するタイプのもので、アイツのもよく見るオーソドックスなスタイルだ。


 そして、ネイアが一番見慣れない構成をしており、弓と魔導ライフルの両方を装備している。


 あの弓は、見たところ短弓と長弓の二つのモードに切り替え可能なようで、かなりの部分を機械化されているようだ。

 弓で補えない射程には、恐らく魔導ライフルを使用するのだろう。


 完全な、援護特化の編成である。


 弓ね……俺が言えたことじゃないが、なかなかにマニアックな武器を使ってらっしゃる。


 ただ、俺の大剣はド級マイナー武器だが、弓は普通のマイナー武器程度で、割と実戦でも使われているようだ。


 銃という高射程高威力の武器が生み出されてからも、こうして剣や弓という太古から存在する武器が廃れないのは、魔力が理由だ。


 銃での攻撃は、魔力があまり乗らないのだ。

 どんな形態であれ、銃である以上は必ず銃弾を使用し、そして銃弾は物理的に小さいために含ませることが可能な魔力が少ない。


 魔力の多寡(たか)は、そのまま発動可能な魔法の威力に直結する。


 大砲とかのサイズになると流石に話は別だが、故に普通のライフルと弓とで比べた場合、弓の方が破壊力が上であることが多いのである。


 まあ、その分『射程』、『連射性能』という絶対的優位が銃には存在するので、結局弓はマイナー武器の範疇に収まってるんだがな。


 それでも彼女が使用しているのは――やはり、それらのアドバンテージよりも、威力を重視した結果なのだろう。


「ネイア……お前、俺の同士だったか。これから仲良くしような」


「……なんか、すごく不本意な理解のし方をされた気がする」


 彼女にサムズアップすると、非常に微妙そうな顔をするネイア。


 隠さなくてもいいんだぜ。

 俺はお前のこと、わかってるからよ……。


「そうか、ネイアはユウヒの仲間だったんだな。ま、人の好みはそれぞれだし、そういうのもいいと思うぜ」


「ネイアも、火力愛好家なんだね。大丈夫、それくらいのことで見る目を変える程、安い友情をしているつもりはないよ!」


「無駄にフォローしてそれっぽく見せるのやめてくんないかしら!? 違う、違うわよ、獣人族は武器に弓を使うことが多いから、私も使ってるだけ!」


「いいんだぜ……自分に素直になれ、ネイア。ほら、来いよ。大艦巨砲主義の世界に」


「ユウヒ、アンタ、後で殴るからね」


 そうして俺達が準備を終えたのを見て、アルヴァン先輩が笑って口を開く。


「ははは、変に力んではいなさそうだな。よし、出撃は十分後だ。それまで、そんな感じで緊張を解したり、機体に身体を慣らしておくといい――」


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