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貴族



「そういやよ、ユウヒ」


「あん?」


 学園内部に存在する食堂で、最近よくつるむようになったラルと昼飯を食っていると、そう話し掛けてくる我が友人。


 この食堂、かなり広い上に洒落ていて、飯も上手いしなかなか悪くない感じだ。

 

 学生用に飯の値段も抑えられており、毎日学食通いでも問題ないかもしれない。

 多分、採算を取ることはあまり考えられていないのだろう。


「ずっと聞こうとは思ってたんだが……お前、フィルネリアとは付き合ってんのか?」


 俺は、コップの水を吹き出しそうになるのをどうにか抑え、言葉を返す。


「……違ぇ、そんなんじゃねぇ。俺とフィルは、そんな関係じゃねぇ」


 ……あまり、深く考えたことはなかったが、俺とフィルとの関係か。


 感覚として、一番近いものは――やはり、戦友、か。


 所属した陣営は違えど、同じ戦場を駆け抜け、生き延び、戦った。

 恐らく、俺のことを最も理解しているのはフィルだし、そしてフィルのことを最も理解しているのは俺なのだ。


 ……いや、最近はちょっと、何を考えてんのかわからん時もあるけど。


 ただ、アイツが俺にとって一番の理解者であることは間違いなく、それは今後一生変わることはないだろう。


 恥ずかしいから、こんなこと絶対言わないけどな。


「そうか? フィルネリアの方はどう見てもって感じだが――」


「僕が何だって?」


 と、その声に顔を向けると、いつの間にか近くに、フィルと猫獣人の少女、ネイアが料理の乗ったお盆を持って立っていた。


「……い、いや、何でもねぇ。そ、それより、お二人さんも来たんだな」


「席が全然見つからなかったんだけど、二人の姿が見えて。一緒にいいかな?」


「おう」


「あ、あぁ、いいぜ」


 俺の隣にフィルが座り、ラルの隣にネイアが座る。


 対面の席の方で、「バカ。フィルを敵に回すと、今後すごいやり辛いわよ」「い、いやだってよ……気になるじゃねぇか」とか何とか言っていたが……君ら、俺の知らない間に仲良くなってたんだな。


「お、フィル、それ美味そうだな」


「一切れずつね」


 そう短く言葉を交わし、フィルの皿に乗っていた料理の切り身と俺の皿に乗っていた料理の切り身を交換する。


 うむ、美味い。

 明日はこっちにしよう。


「……確かに、アンタの気持ちもわからなくないけど」


「だろ?」


「あん? 何だよ」


 これくらい普通だろうに。


 そう思って隣に顔を向けると、幸せそうな表情で「ん、何?」とのんきな返事をするフィル。


 お前、飯食ってる時、幸せそうだよなぁ。

 嫌いじゃないぞ、そのちょっと抜けた(ツラ)


「……ま、アタシらは見守るだけね。――と、そうだ、ちょっと前に知ったんだけれど、二人って貴族だったのね。流石にビックリしたわよ」


 ネイアの言葉に、目を丸くして俺達二人を凝視するラル。


「えっ、マジで? その割には……普通だな」


「おう、言うじゃねぇか、ラル」


「あはは、まあ、貴族と言っても、僕の方はほぼ一般の人と同じような感じだから。お父さんが、ちょっと偉い役職に就いてるってだけで」


「そうだな。俺も木端貴族だから、フィルと似たようなもんだ」


「いや、ユウヒは子爵家だから、木端って言うのは無理があると思うけど……仮にも、土地の名前を有する貴族家だし」


 ちょっと呆れたような顔をするフィル。


「んなもん、便宜上ってだけだろ。土地も別に、ウチが持ってるって訳じゃないしな。俺が成人する頃には、もっと権限が剥奪されててもおかしくないし」


 実際、国は中央集権化を未だに推し進めている。


 議会政治が行われるようになり、民主寄りの政治が行われるようにはなってきたが、それでも議員の三分の一は必ず高位貴族が占め、統帥権を握っているのも国王である。


 封建制や専制君主制などはとっくに終了し、立憲君主制へとすでに移行しているものの、法やシステムが明確になったことで、むしろ前時代よりもよっぽどスムーズに行政や軍隊が動かせるようになったと言えるのではないだろうか。


 そうやって、色んな面で改革が推し進められている今、特に権限もないウチみたいな中途半端な貴族家は、ぶっちゃけ邪魔なだけだろう。


 少し前まではまだあったらしい貴族各々の軍――騎士団なんぞも全面的に解体され、全て常備軍として設立し直されているしな。


 軍は一元化された指揮の下に運営される方が、圧倒的に強国となれるのは間違いない。


 俺も、前世じゃそうしていたしな。

 と言っても、俺の場合はほぼ絶対王政みたいなもんだったが。


 部下に仕事を丸投げすることはあっても、基本的に自分で好き勝手やりまくる王だったし。へへへ。


「いや、普通ってのは、褒め言葉のつもりだぜ? あんまり大きな声じゃ言えないが……時々いんだろ? この時代になってもまだ、貴族だからどうたらって威張り散らす奴。勿論、そういうのばっかとは言わねーけどよ」


「そうね……私も見たことあるけど、ああいう人って自分が外からどう見られているのか、わかってないのかしらね?」


「あぁ……」


 俺もあんまり言いたかないが……治める土地もなく、ただ名前だけが残された、いわゆる没落貴族なんかにそういう輩は多いだろうな。


 ――実権を握っている高位貴族以外の貴族位というのは、要するに飾り(・・)だ。


 ウチも、治める土地があるとはいえ、それは変わらない。

 元々地主だったからこそ、国が気を遣って今でも『レイベーク』という一地方の代官をやれているが、それは貴族でなくとも出来る仕事であり、無能ならば簡単に奪われる程度のものなのだから。


 むしろそんな時代にあって、爵位的には一番末端とは言え自らの手で貴族位を勝ち取ったフィルの親父は、かなりすごい人物であると言えるだろう。


 あのおっさん、あと十年もすれば、軍のお偉いさんになっていてもおかしくないだろうな。

 ……いや、義理堅い性格をしているので、ずっとレイベーク地方に留まり続ける可能性も高いが。


 とにかく、そういう綺麗な飾りを誇りに思うのは結構だが、それを全面に押し出して威張り散らしても、マヌケなだけだろう。


 何故なら、人が見るのは人であり、飾りの美しさはオプションに過ぎないからである。


 飾りとは、あくまで主となるものを装飾するもの。

 小うるさい豚を着飾らせても、滑稽でしかない。


 ウチの親父も、フィルの親父もすげー立派だと俺は思っているが、それは立場に胡坐を掻かず、努力し続けていることを知っているからだ。

 その責務を果たさんと、日々苦労していることを俺は知っている。


 決して、オプションが綺麗だから立派なのではないのだ。


 それでも、必死になって飾りにしがみつくのは――きっと、それだけしか縋れるものがないのだろう。


 貴族という、かつての特権階級の残滓にしか、価値を見出すことが出来ていないのだ。


「ま、だから、爵位とか気にしなくていいからな。むしろ、気にされるとこっちが困る。な、フィル」


「ん、そうだね。今まで通り接してくれると嬉しいかな」


「……わかったわ。そもそも、そういうの以前に友達だからね。立場を聞いて態度を変えるような、薄情者のつもりはないし」


「お、いいこと言うじゃねーか、ネイア。そうだな、友達だしな。それに、フィルネリアは上品な感じもあるが、ユウヒなんて、こう……山賊の頭って言われても納得しそうだし」


「よし、ラル、その喧嘩買うぜ。飯食ったら校庭行こうか」


 笑顔を浮かべる俺に、両手を挙げて降参のポーズをするラル。


 そんな感じでふざけながら、俺達は昼休憩を過ごしたのだった。



 ――俺達は、いい奴らと知り合えたのかもしれない。


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