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セイリシア魔装学園《4》

 感想、みんな、ありがとうね!



 林の中を駆ける。


 ウィングを操り、木々の隙間をすり抜け、一つ呼吸をする間に十数メートル先へと宙を走り抜ける。


 どうも、かなり綿密に人の手が加えられているようで、絶妙に邪魔な位置に枝があったり、葉が繁っているのがわかる。


 今の自分が、どれだけの速度で飛んでいるのかはわからないが、目の前に現れる障害物を認識し、それを回避するという判断を下す時間は、コンマ数秒以下の刹那の間しか存在しない。

 一つ先、一つ先と未来の自身の位置を常に頭に思い描いていなければ、簡単に激突してしまうことだろう。


 そんな、半ば曲芸染みた飛行を繰り返し――やがて俺は、人工林の出口に辿り着く。


「うし!」


 減速し、ゴール地点に着地すると、待機していたらしいガルグ担任が声をかけてくる。


「ほう、最初はレイベークか。高負荷インナーを着ていながらとは、流石だな」


「お。俺が一番っすか」


 よしよし、調子は良さそうだ。


 ――俺は今、『高負荷インナー』という特殊なインナーを訓練服の下に着込んでいる。


 例の、イルジオンを壊さないための措置だ。


 これは、着た者の魔力を勝手に吸収して空中に拡散させ、魔力制御を乱す効果のあるもので、いつもよりもかなり練り辛いのがわかる。

 魔力に重しを付けられた、といったところだろうか。


 訓練として良い感じに使用出来るので、実は結構嬉しかったりする。


 ちなみにまだ市販はしておらず、仮に値段を付けた場合は結構お高いものらしいのだが、試験用品のテストという名目で俺に与えられたので、実質タダで使うことが出来ている。


 何でも、セイリシア魔装学園と提携している研究所の品なのだとか。

 インナーで消耗品であるため、数着貰ってしまったし、すげーありがてぇ。


「他の生徒が到着するまで、しばらくその状態での機体の感覚を慣らしているといい。お前には……私が下手に口を出さない方が良さそうだ」


「え、俺も色々教えてもらいたいんすけど……」


「私が教えられるのは知識と技術だけだ。飛ぶ感覚、動かす感覚は自らで掴まねばならんが、レイベーク、お前はそれらの感覚をすでに身に着けているように見える。すでにそこに至っているのであれば、他人の教えは練磨の邪魔にしかならん。恐らくお前は、自らで『ズレ』を矯正出来るはずだ」


「……なるほど」


 すげぇな、このおっさん。

 

 つまり彼は、俺に前世があることを知らずに、だがその頃の技術を持っていることを理解しているのだ。

 俺には魔王時代の記憶があり、やはりその頃の経験を土台としてイルジオンという機械も見ている訳だが、その感覚があるのならば他の教えはいらないということなのだろう。


「――あ、ユウヒが一番か」


 俺が到着して少し経ったところで、人工林の中からフィルが現れ、軽々とした動きで俺の隣に着地する。


「お、フィル。今回は俺の勝ちだな」


「うーん……やっぱり、身体能力の勝負だと君には負けちゃうね。というか、魔力を乱されててその結果って、いったいどうなってるのさ」


「乱されてるっつっても、出力上げれば動くのに支障はないしな。疲れもすげーし魔力消費もすげーが、まだ何とかなるレベルだ」


「いや、普通は何とかならないけどね、ソレ。僕が着たら、ロクにイルジオンも動かせなくなるだろうし」


 呆れたような顔で、そう言うフィル。


 まあ、魔力総量と魔力制御には自信があるので。

 むしろ、そこで勝てないと、コイツとは勝負にならんし。


 ――現在行われている授業は、人工林の中を駆け抜ける、いわゆる障害物走の訓練だ。


 ただし、イルジオンに乗って、常に滞空しながら、である。


 どうにか突破出来たが、何度か枝に引っ掛かって地面に落ちそうになった。


 背面にある可変式ウィングがな。

 自分の身体より飛び出ているパーツなので、どうしても意識から抜け落ちがちになる。


 こういうのも、慣れの問題か。


「――うわ、もう二人いるのか。流石ね……」


 と、次に現れたのは……正直わからないのだが、恐らくウチのクラスであろう女子生徒。


 頭からピョコンと猫耳が生え、尻尾が腰の辺りから覗いている、猫の獣人族らしい少女だ。


「あ、ネイア」


「実力は知っていたけれど……うーん、こういう訓練は自信があっただけに、やっぱりちょっと悔しいわ」


 すでに知り合いなようで、そう言葉を交わす二人。


「すまん、ええっと……名前を聞いてもいいか?」


「あ、そう言えばユウヒ君は、自己紹介の時いなかったんだっけね。迷子になって」


 向こうは俺の名前を憶えてくれていたらしく、そう言う猫獣人の少女。


「お馬鹿さんだからね」


「うるさいぞ、フィル」


 ほら、ちょっと困った様子で苦笑してるじゃないか。


「私は『ケット・シー』って種族の、ネイア=グリア。ネイアでいいわ」


「ネイアか、よろしく。そっちは知ってるようだけど、俺はユウヒ=レイベークだ。俺もユウヒでいいぞ」


「よろしくね。――そりゃあ、知ってるわよ。入学試験の時、私を落としたの、君だもん」


「えっ」


「高笑いしながらユウヒ君が突っ込んで来て、ちょっと怖かったわね……故郷に伝わる狂戦士の話を思い出したわ」


「あー……そりゃ、何と言うか……すまん」


「あはは、確かにユウヒ、バーサーカー的な面はあるよね。戦闘中は凶悪な笑顔になるし。腕を一本取られても、相手を倒せればオッケーみたいな、肉を切らせて骨を断つ戦術はよくやるし。まあ、そもそもユウヒの防御魔法を抜ける攻撃ってほとんど存在しないんだけど」


 ……心当たりはあるので、何も言えん。


 ニヤニヤしながらそんなことを言ってくるフィルだったが、何とも言えない顔でネイアが言葉を続ける。


「……一応言っておくと、フィルが戦ってるのを見た時にも、同じものを感じたからね?」


「え?」


「こう、方向性は違うんだけど……表に出ないよう秘められてはいるものの、内側に潜む戦闘狂の質はほぼ同じ感じ、みたいな。い、いや、戦ってる時は誰しも気が荒くなるものだけど」


 失礼なことを言っていると思ったのか、途中からフォローに走るネイア。


 この少女、よく見てるな。 


 基本的には穏やかだし、人当たりも良いが、フィルの中には確かに戦闘を好む一面が存在する。

 そうでなければ、戦いの最中にあんな良い笑顔を浮かべはしないだろう。


「おう、勇者でバーサーカーって、どうなのよ」


「……僕もう、勇者じゃないし」


 今度は俺がニヤニヤ笑いながらこっそり耳打ちすると、ちょっとむくれたようにそう言葉を返すフィル。


「――ハァ、ハァ……速ぇよお前ら……」


 そんな会話を交わしている間に、人工林の中を突っ切って現れたのは、ラル。


 俺達のところまで来ると、息も絶え絶えの様子で両膝に両手を突く。


「……大丈夫か?」


「ハァ、ハァ……フー、大丈夫だ。前に追い付こうと頑張ってみたんだがな。――っと、ネイア=グリアさんだったな」


「そっちはラル=ヴェリオス君ね。ネイアでいいわよ」


「おう、俺もラルでいいぜ。ユウヒとフィルネリアが速いのは知ってたが、まだ他にもすごい奴がいたか……」


「アタシは身体を動かすのは得意なのよ。……いや、得意だと思ってたんだけど、そうでもなかったわ。まだまだ上には上がいるわね」


「あぁ……それには同感だ」


 こちらを見る二人。


 何にも答えられないので、俺もフィルも、ただ曖昧に笑う。


「――ふむ、お前達四人は、早いところ次に入った方が良さそうだな。来週は、海上飛行訓練に参加するといい」


 と、彼らが軽く自己紹介を終えたタイミングで、傍らに黙って立っていたガルグ担任が口を開く。


「海上飛行訓練、ですか?」


 そう聞き返すフィルに、彼は言葉を続ける。


「レイベークはすでに経験しているが、この学園は海に面しているため時折魔物の襲来があり、訓練も兼ねて討伐に向かうことがあるのだ。海上飛行訓練は、そのための空路に慣れるという意味合いに加え、近海のパトロールの役目も果たしている。いつかは必ず経験することである故、早い内に経験しておくことだ」


 ガルグ担任の説明を聞き、ラルが口を開く。


「あー、先生、俺、大分三人に離されてましたけど……」


「いや、今のヴェリオスの到着タイムでもすでに二年の中位と同程度だ。先に進める者は先に進ませる。それがこの学園の方針だ」


 ……流石、といった感じの厳しさだな。


 それは逆に言えば、先に進めない者はそのまま、ということだろう。


「手続きはしておく。お前達も、そのつもりで準備をしておけ――」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 猫獣人というあざとさの権化。だが、それが良い。 [気になる点] 友人枠の2人がどんな影響を受けていってしまうのか・・・
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