死した者達へ《5》
投稿遅れてすまん!
上手く書けんくて、何度か書き直してたわ。
『! いま、いつき、かいぶつたおせる!』
フィルの対死霊魔法を埋め込まれた千生が、多分実体があったら両手を突き上げているであろうテンションで、俺へと意思を伝えてくる。
……なるほど、術式の内容を、千生はもう理解出来るだけになっているのか。
彼女は言葉こそ拙いが、その頭脳が明晰で、非常に賢いことはとっくにわかっている。
この短時間で解析を終えたとは、流石我が愛刀である。うむ。
「はは、そうか! んじゃあその力、存分に奴に叩き付けてやるぞ!」
『ん! かわいそうなこ、ねむらせてあげたい!』
「……あぁ、そうだな!」
奴は、可哀想な子だ。
人のエゴによって生み出され、死に、そして死んだ後にも無理やり起こされ、兵器として使用されているのだから。
ふざけんなクソッタレ、なんてコイツがキレるのも、道理だろう。
改めて思う。
死霊術は、クソッタレだ。
この世界で、禁術として指定されていて、本当に良かった。
『グウぅウウうウぅゥウッ!!』
骨の化け物が唸り、近付く俺へと向かって暴れ、骨マシンガンを放ち、攻撃を仕掛けてくる。
本当に、イルジオンがなければ、どうしようもなかったかもしれないな。
嘶き、戦いに喜ぶ禍焔を操り、放たれるスケルトン・キマイラの攻撃を掻い潜っていく。
俊敏な、操縦者である俺自身が振り回されそうな加速。
刹那の後、俺は奴の頭部へと張り付いていた。
「千生ッ!!」
「ん!!」
継ぎ接ぎだらけの額へと千生を突き刺し、次の瞬間、抑えていた対死霊魔法を彼女が開放する。
『――ッッ!?』
声にならない悲鳴。
――さあ、ここからだ。
対死霊魔法の制御権は、千生の刀身を通し、今俺が握っている。
彼女の莫大な魔力を利用し、術式の拡大に活かせるよう、フィルがそのように調整したのだ。
だからここからは、俺が操作し、奴の全身へとこの魔法を回らせないといけない。
「暴れんなッ!! 悪いがこの世界に、お前の居場所はねぇんだッ!!」
多分、スケルトン・キマイラもまた、今流し込まれているものが自らにとって致命傷になると、その乏しい本能で感じ取ったのだろう。
無茶苦茶に暴れて俺を振り落とそうとするのを、禍焔のアホみたいな機体性能で無理やり抑える。
通常機では決して不可能な、禍焔のスペックがあるこそ出来るゴリ押し。
それでも、一瞬でも気を抜けば、姿勢制御を崩してあらぬ方向へぶっ飛んで行ってしまうだろうが――その時、突如として奴の抵抗が弱くなる。
『皆さんっ、ユウヒの援護をお願いしますっ!!』
フィルの通信の後、この戦闘が佳境であることを悟ったのか、それぞれが気合の入った返事を返す。
特殊な通常機を操るガルグ教師が、奴の脚の一本をガッチリと全身で抱え、フィルが残りの脚や尻尾を斬り落とし、大まかな動きを封じる。
骨マシンガンによる反撃は、シオルと、オルド刑事達が中心となって撃ち落としていた。
これが、イルジオンの力だ。
高い機動力と、攻撃能力を有するおかげで、ヒト種よりも圧倒的に格上な生物を相手にして、戦闘を有利に進めることが出来る。
奴のあげる、耳を劈く悲鳴。
――眠れ。
そしたら、お前のこともちゃんと、弔ってやる。
こんな形でお前を生み出した奴らも、痛い目を見せてやる。
だから、もう……眠れ。
流し込んだ対死霊魔法が、千生の持つ圧倒的な魔力によって、スケルトンキマイラの全身へと回っていく。
それは、爪の先、尻尾の先へと回っていき――ビクリと、巨体が跳ねた。
硬直し、その身体からガクンと力が抜ける。
堰を切ったかのように崩壊が始まり、バラバラと全身が崩れ落ちていく。
――スケルトン・キマイラは、二度と動かなくなった。
勝利の鬨の声が、一斉にあがった。
* * *
――最終的な被害は、倉庫が五棟全壊、二棟が半壊。
鉄塔一つが全壊し、止まっていた船舶一隻が沈没。
細かい器物破損は、数え切れない程。
人的被害は、警察の特殊部隊『ガルディアン』の隊員二名が重傷、三名が軽傷、だが命に別状はなかったようだ。
重傷者も、一か月程の入院で現場復帰出来るくらいの怪我だという。
ちなみにこの中で、俺が壊したのは倉庫一つと鉄塔、あと細々したものも幾つかやっちゃったのだが、全てスケルトン・キマイラによる被害となった。
……セーフ。
こうして、怪人『ファントム』の劇は終幕した。
彼女の捜査と共に、今後は『マギ・エレメント』へも本格的な捜査の手が入るとオルド刑事は言っていた。
彼ならば、怪人の望み通り、その奥深くまでをも明かしてくれることだろう。
「――ヒ、おい、ユウヒ」
「……! はい、何ですか。今の私はメイド仮面ユウヒ、正義を守る仮面でございます」
「いや、聞いてねぇけど」
そう、呆れた声音を溢すのは、我が友人であるラル。
「おい、大丈夫か? 昨日寝てねぇっつーのも聞いてるし、なんかすげー大変だったってのも聞いてるが……」
「はい、大丈夫です。私はメイドですから。たとえどれだけ忙しくとも、疲れなど見せないのです」
――学区祭三日目。
スケルトンキマイラ討伐時、すでに早朝になっており、軽い事情聴取を行った後「あとは大人がやるから、君達は帰って学区祭を楽しみなさい」と解散し、詳しい事情聴取は学区祭が終わってからということになった。
オルド刑事が、学生である俺達に気を遣ってくれたのだ。
なので、俺は再度メイド仮面となり、今はクラスの接客を行っていた。
「そ、そうか。ならいいけどよ……ほら、オーダー入ってるから、これを持ってってくれ」
「はい、畏まりました」
「……なぁ、俺と話す時は普通にしてくんねぇか? なんつーか、その……すげーやりづらいんだが」
「無理です。今の私はメイド仮面なので」
「そうよラル、何言ってんの。メイド仮面ちゃんはメイド仮面ちゃんなんだから、余計なこと言わないの!」
俺と、そして共にいたネイアの言葉に、ラルは何とも言えない顔をする。
「……一応な、俺は友人のことを思って言ったんだけどな。い、いや、お前がいいんならいいんだけどよ」
そう友人達とふざけた後、俺はお盆を受け取り注文卓へと向かう。
「やあ、ユウヒ君。今朝方ぶり」
「うわぁ……本当にぱっと見じゃあ、ユウヒ君とは思えないわね」
――そこに座っていたのは、デナ先輩とレツカ先輩。
昨日の今日のことなので二人、とても疲れた顔をしているが……どうやら、その疲れを押してでも、メイド仮面フォームを見たかったようだ。
「約束通り、メイド仮面ユウヒでございます。お嬢様方、本日はお越しいただき、誠にありがとうございます」
一礼すると、二人は歓声をあげる。
「おぉ、可愛い……! 人気になるのもわかるな」
「動作の洗練され具合がすごいわね……まさか、ここまでの完成度とは思わなかったわ」
「ありがとうございます、お嬢様方」
今、ほとんどお客さんがいない時間帯であったため、それから自然と雑談が進み、俺が巻き込んだ事件の話となる。
「……まさか、ローリアさんが、今回の事件の犯人とはね。そんなに苦悩していたとは……」
「ホムンクルス、か……ちょっと、想像つかない世界ね」
ローリア女史は、死ななかった。
一連の事件の中で、最も重い傷を負ったのが彼女だったが、しかしすぐに警察病院にて手術を行われたことで一命を取り止め、すでに安定状態に入ったと聞いた。
「……彼女は、良くも悪くも、純粋だったのでしょう」
純粋だったからこそ、手を出してはいけない領域に手を出した。
純粋だったからこそ、その結果に酷く心を痛めた。
ひどく勝手であり、大人として失格と言えるであろう彼女を、だが、俺は嫌いにはなれない。
これまで十分過ぎる程に彼女は苦しみ、そして今回やったことの重さを考えれば、今後十年二十年、もしくは一生牢屋の中で過ごすことになる。
罰としては、十分なはずだ。
……オルド刑事が、悪いようにはしないと言っていたので、それを信じるとしよう。
「純粋か……そうだな。確かに、子供のような人ではあった。正直で、好奇心旺盛で。だらしない面もあり、面倒くさがりな面もあり、ちょっと抜けた人だったが……私にとっては憧れの人だったよ」
俺達の中で、最もローリア女史と交友のあったレツカ先輩が、悲しそうな笑みでそう話す。
「……レツカにとって、親しい友人だったのね」
「あぁ、デナ先輩や、ユウヒ君のように、大事な友人だった。付き合いも、それなりに長い。にもかかわらず、私はその苦しみに何にも気付いていなかったようだ」
「……ローリアさんは、自らの奥深くに感情を隠していましたから。たとえ、友人であろうと、それに気付くのは難しいことでしょう」
俺の言葉に、少し考える素振りを見せてから、レツカ先輩はコクリと頷く。
「……そうかもしれないな。人の心とは、他者がどうこうするのは、とても難しい。ただ、それでもユウヒ君ならば、どうにかしてしまうような気もするのだが」
「フフ、レツカの言いたいことはわかるわ。ユウヒ君程、対人コミュニケーション能力の高い子、見たことないし」
「あー……その、そうでしょうか?」
思わず口ごもりながら問い掛けると、二人は暗くなりそうな空気を振り払うように、わざとニヤリと笑う。
「ユウヒ君は、割と簡単に、相手の心に入り込むだろう? 全く、君の人たらしの才能には惚れ惚れするよ」
「あはは、そうね。ユウヒ君の人たらしの才能はすごいわね。どんな人とでもすぐ仲良くなれちゃうし」
「……あ、ありがとうございます」
と、俺が何にも言えなくなったところで、小さな影がこちらに近付いてくる。
「ゆー」
「! 来ましたね、小さきメイド仮面よ」
とてとてとやって来たのは、メイド服を着た幼女、我が愛刀である千生だった。
一緒に接客をやってみたいと言うので、クラスの皆にお願いしたところ、ノリ良く二つ返事でオーケーしてくれたのだ。
ちなみに彼女のメイド服は、やはりフィルが裁縫部で編んだものだ。
いつか着せようと思っていたらしい。
仮面も被っているが、あれは外の屋台で買ったもので、何かの番組のヒーローらしい。
何のヒーローなのかは、千生もよくわかってなかった。どうやら特撮が好きらしい後輩のエイリに聞けば、わかるだろうか。
「おぉ、イツキちゃん! とっても可愛いわよ!」
「フフ、あぁ、本当に可愛らしいな。とてもよく似合っている」
「ありがと。でー、れー」
現れた千生の頭を、二人は交互に撫でる。
千生は可愛い上にちょうどよい背丈をしているので、皆撫でたくなるのである。
「さ、小さきメイド仮面よ。お嬢様方にご挨拶を」
「ん、いつきのなまえは、いつき。ちいさなメイドかめん。……ゆー、いっしょにポーズ、して?」
「えぇ、いきますよ。――我ら正義のメイド、皆様のために、世界を救うのです!」
「すくう!」
シャキン、と千生と共にポーズを取ると、先輩達は笑ってパチパチと拍手し、他のお客さん達もまたこちらを見て微笑ましそうに笑う。
それからも要望が出る度に、さながらヒーローショーが如く二人でポーズを取り、メイド仮面として世を救うヒーローとなり切る。
ちなみにこの時、精神的には「まだ大丈夫」と思っていても、前世と違いただの子供である今の身体が意外と疲れており、全然頭が働いていないことに自分自身では気付いていなかった。
ほぼ脊髄反射で言葉を喋り、メイド仮面をやっていた俺は、自身の別人格、という体にしているメイド仮面時の記憶を後程思い出し、一人悶絶することになる――。
明日、エピローグ!