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レクイエム《3》


 奴が次の行動を起こす前に、俺は瞬時に突っ込み、勢いのまま横蹴りを繰り出し――が、目測より攻撃がずれ、掠るだけに終わる。


「!」


 ――チッ、コイツ、さっきまでより魔法の精度が高ぇ!


 やはり本人自身が戦っていることで、モドキよりも魔法能力がかなり上昇しているようだ。


 全く捉えられていない訳ではなく、当たった感触はあったが、俺は胴の中心目掛けて攻撃を放ったのである。

 

 精神干渉系魔法のスペシャリストだろうという予想は立てていたが……これは、俺の想像以上だな。

 

 さらにマズいことに、発動していた『マインドプロテクト』の効果も、もう数秒もせず切れる。

 となると、この後は俺自身でそれを発動し続ける必要があるが、この魔法は難易度が高い。


 当然、俺の魔法能力はその分だけ制限を受けることになる。


 クソッ……準備不足だったか。

 

 学区祭の期間であるため、忙しくてそんなに時間が取れなかったことも確かだが、単純にコイツの能力の上限を見誤ったという点も大きい。


 仕方ない、なんて言葉に意味はないのだ。


 どんな理由があろうと、戦いにおいて存在するのは、勝つか負けるかの二つだけなのだから。

 

『犯行時刻デハ無イガ、許シテモラオウ。少年、貴様ハ強過ギル』


 もはやまともに戦う気が無いらしく、俺の攻撃から逃げることだけを優先し始めた怪人は、空中に魔法陣を描き始める。


 ッ、マズい。

 あの魔法陣の一部に、通信に使われる記述が見られる。


 こんな時に使う通信用魔法の狙いなど、ただ一つ。


 遠隔から装置を起動するためと相場が決まっている。


「このッ――」


「避けろッ!!」


 背後からの声。


 刹那、俺は身体を横にずらし――銃声。


 後ろで回復に集中していた刑事さんが撃ったらしく……だが、ダメだ。


 彼も幻術に何らかの対応をしていたようで、当たりはしたが、肩を掠るだけに終わったようだ。


 目測を、ズラされたのだ。


『ッ――』


 痛みに息を呑みながらも、怪人は動じず、空中の魔法陣を完成させる。


 ――何かが爆発する音がし、地面が揺れた。


 天井が揺れ、それから一つ遅れ、すぐに聞こえてくる喧騒。


 恐らく、これは、コンサートホールの方から。


『今、愚者ガ暴レ始メタ。誰カガ止メネバ、被害ハドコマデモ増エル。私ハ、貴様ラガ善人デアルコトヲ期待スル』


 聞こえてくる騒ぎは、だんだんと大きくなっている。


 破壊音と共に、連続する爆発音。


「ぬけぬけと、よくもそんなことが言えたものだな……ッ!!」


『……祈レ。魂ノ安寧ヲ』


 怒気を露わに怒鳴る刑事さんに対し、怪人は少しだけ沈黙してからそう答えると、俺達に背を向けて逃走を開始する。


 その姿がぼやけ、空中へと霧散するように消えていく。


 ――今なら、まだ追える。


 怪人の魔力の特徴は、もう覚えた。


 奴は強いが、近接戦闘では俺の方が強い。

 それは、ただ客観的な事実として、理解している。


 故に、今追えば最終的には捕まえられるだろうが、目的を果たした奴はこれから、本気で逃げ始めるだろう。


 あの能力の相手を追うのは、そう簡単ではない。

 一昼夜を追い続けることになる可能性すらあるだろう。


 前世じゃあ、一週間くらい戦い続けたこともあるので、たった一日くらい追跡を続けることは無理ではないが……その選択肢を取った場合、この劇場の対処は他人に任せることになる。


 ――喧騒を放っておいて、奴の追跡をするのか?


 今俺がここの対処をすれば、恐らく被害は大幅に減るだろうが、他人が到着するのに任せた場合はその限りではない。


 優先すべきは、いったい、何なのか。


「チッ……刑事さん、奴を追うのは後だ、先にこっちを片付けよう!」


「……クッ、子供を巻き込むのは信条に反するが、そうも言ってられないか……! 少年、これ以上付いて来るのなら、身の安全は保障しない! 自分から鉄火場に飛び込んだんだ、己の身は己で守ってもらうぞ!」


「安心してくれ、鉄火場に飛び込んだのは今回だけじゃないんでね!」


 今世だけでも、すでに二回は経験がある。

 レヴィアタンと、第00旅団の彼らを相手にした時にな。


「……全く、オルド先輩が子供を連れていた訳が、ちょっとわかってきたよ!」


 俺は、脇腹を抑える刑事さんと共に、すぐに走り出した。



   *   *   *



「……少し、遅かったみたいですね」


「間に合わなかったか……!」


 オルド刑事とフィルが劇場へと到着した時、そこでは大混乱が発生していた。


 まるで逃げ出すかのように、中から次々に人が溢れ出しており、非常に大きな喧騒が聞こえてきている。


 地面の揺れ。

 微かに聞こえるのは……何かの破砕音か。


 何かが、あったのだ。


 ――ユウヒが向かったのにこれとなると、ちょっと不味いかもね。


 フィルは、彼の実力をよく知っている。


 それこそ決死の覚悟で、何度も何度も命の取り合いを行った間柄だ。

 彼の厄介さ、強靭さは骨身に染み渡る程に染みており、それは今世においてただの人間となった彼であっても変わらない。


 にもかかわらず犯行を止められなかったとなると、つまりは相手の方がユウヒよりも一枚上手だったということを意味する。

 

 彼が戦闘で負けたとは、天地がひっくり返っても考えられないが、しかしそれ以外の部分で出し抜かれた可能性はある。


 特に今回の相手は、搦め手を得意としているのだ。

 してやられた可能性は高いと言えるだろう。


「――オルド刑事!」


 と、その時、オルドの名を呼ぶ声が横から聞こえてくる。


「! ローリアさんか!」


 二人は声の方向に顔を向け、オルドが反応を示す。


 そこに立っていたのは、白衣に身を包んだ、背の高い女性。


 ――今朝、整備部の発表会で少しだけ話した女の人だね。


 しかし、何故彼女がここに、と内心で思っていたフィルだが、その答えは二人の口からすぐに明かされる。


「申し訳ない、ローリアさん。今回も、もしかすると『マギ・エレメント』の社員が関わっているかもしれないから、予めあなたを呼ばせてもらったが……先に対処しなければならない事が発生したようだ」


「あぁ、この騒ぎだな。……すまないが、こういう事柄には私は無力だ。少し離れたところで待っていよう」


「本当に、巻き込んで申し訳ない。すぐにこちらを終わらせる」


 それからオルドは、フィルへと顔を向ける。


「お嬢ちゃん。今更だが、名前を聞いてもいいかい?」


「フィルネリア=エルメールです」


「そうか、フィルネリアちゃん。一応確認しておくが、今から飛び込むのは戦場だ。覚悟はいいね?」


 彼の言葉に、フィルはニコリと笑みを浮かべる。


「はい、実は戦場には縁がありまして。経験はあるので大丈夫ですよ」


「……その言葉を本気にしていいのかどうか悩むところだが、今は頼もしい限りだよ。――んじゃ、行こうか。俺の後輩と少年が待っているだろうからな」


 オルドと、ユウヒと同じようなことを言うフィルの二人は、次々と人を吐き出す劇場へと突入を開始した。


 あと三話くらい後で、謎解きに入れると思う。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。現場到着ですね。 応援してます。
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