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時計塔の戦い《3》

 いや、マジで遅れてすまん。忙しかったんや……。


 今度こそ、最後まで一気に駆け抜け――られたらいいな。


『精神ガ焼キ切レソウナ程ノ怒リヲ、覚エタコトハアルカ?』


 ……どうやら、仮面にスピーカーが仕込まれていたようだ。


 最初、怪人モドキはこれで話していたのだろう。

 恐らく、カメラも内蔵されていると思われる。


「知らねーよ、んなことよ。一つ言えることとしちゃあ、お前の復讐に無関係の奴を巻き込むな。こっちはただ、学区祭を楽しみたいだけだっつーのに、お前が物騒なことをしてやがるから、無条件に楽しめねぇんだよ」


「お、おい、少年――」


 挑発する俺におっさんが口を開きかけるが、俺は片手を挙げて彼を止める。


『フッ、ソウカ。ナラバ謝罪シヨウ。祭リヲ邪魔シタコト、ソシテコレカラノコトヲ』


「まだやるってーのか。いい加減、目的を話したらどうだ。お前の復讐と、この傍迷惑な犯行と、いったいどういう関係があるんだ?」


『関係ハアルノサ。深イ関係ガナ。――話ハ終ワリダ。次ノ犯行ハ、今夜二十一時二十二分。子供ハ家ニ帰リ、後ハ大人ニ任セルコトダ』


「おい、ヒントは」


『我ガ望ムラクハ、レクイエム。歌エ、踊レ。シカラバ罪ハ暴カレル』


 その言葉を最後に、仮面は何も喋らなくなった。


 ……今のが、ヒントか。


「……だとよ、おっさん。今度は場所の指定をしてくんなかったな。自分らで探せっつーことか」


 俺の言葉に、彼は少し考える素振りを見せてから、口を開く。


「……いや、ここまでの動向からして、怪人は自身の犯行を知らしめたいと思っている節がある。自己顕示欲を満たしたいからそういうことをする犯罪者はいるが、コイツの場合はもっと、しっかりとした目的があってそうしているように思う。である以上、ノーヒントっつーのは考えにくいな。お嬢ちゃんの方に、何かあるかもしんねぇ」


「――えぇ、刑事さんの言う通りでした」


 そう言って、上から降りてくるのは、フィル。


「ん、そっちも終わったのか。早かったな」


「特にトラップなんかは仕掛けてなかったからね、装置の起動を阻止するのはそう難しくなかったよ」


 あっけらかんとそんなことを言うフィルに対し、オルド刑事が何とも言えない顔で俺達二人を見る。


「……ホントに、何者なんだ、二人は?」


「さてな」


 どこにでもいる元魔王と元勇者だ。


「それよりフィル、おっさんの言う通りだったってのは?」


「うん、とりあえず二人にも来てほしい」


 彼女の言葉を聞いて俺達は、足場と一体化している奥の階段から上へと登る。


 先程怪人と戦った場所から、高さにして二階分程上に登っただろうか。

 恐らく外の大時計の裏側であろう場所に辿り着き、今は止まっているが、巨大な歯車や何らかの装置などが鎮座しており――そして、ソレは置かれていた。


「……子供の頭蓋骨か」


 それも、三つ分。

 機械で連結され、一つの人骨装置と化している。


「仕掛けられている魔法は、多分いつもの洗脳魔法だね。君が遭遇した時のは、既に発動済みだったらしいけど、今回のはそうじゃなかったよ。事前に止められて良かった」


 つまり、フィルが止めなければ、今回は本当に被害が出たっつーことか。


 ……これだけの大きさとなると、その効果はいったいどれ程のものになることだろうか。


 少なくとも、三つあるから三人の洗脳が出来る、なんて簡単なモンじゃない。

 こういうのは、装置が大掛かりになるに比例して効果が跳ね上がるものであり、加えて下に張ってあった結界だ。


 怪人の言う通り、駅前広場にいる一般人全員くらいならば、その魔法効果を食らうことだろう。


「んで、お嬢ちゃんが言っていたのは……これか」


「はい、そうです」


 オルド刑事が見ているのは――地図。


「学区の地図か」


 見覚えのある、俺達の生活圏である学区。


 その一区域に円が描かれており、恐らくこの中のどこかで次の犯行を行うと言いたいのだろう。


 おっさんはそれをマジマジと見詰め、口を開く。


「つまり、この中のどこかで犯行を起こすっつー意思か。つっても、随分大きく円が書かれているな。……少年、さっき怪人が言っていたのは、『我が望むらくは、レクイエム。歌え、踊れ。しからば罪は暴かれる』だったな」


「あぁ。レクイエム……となると、教会とか、劇場とかか?」


「パッと思い付くのはその辺りか。この円の中にそれらの建造物は――」


 と、話している時だった。


「オルド先輩! どこですか、オルド先輩!」


 どうやら、怪人と戦っている際におっさんの呼んだ応援が、今到着したらしい。


 下の方から、彼を呼ぶ男性の声が聞こえてくる。


「おう、こっちだ!」


 おっさんがそう呼ぶと、どうやらこちらも刑事らしい、若い男性が下から顔を覗かせる。


「先輩! 全く、一人で勝手にどこかへ行ったと思ったら――って、子供?」


「二人のことは気にしなくていい。それより、そっちは何か、進展はあったか?」


「えっと……先輩、聞かせていいんですか?」


 俺達の方を見ながら、おっさんの後輩らしい刑事がそう言うが、おっさんは気にせず後輩刑事を促す。


「いいって、この二人も協力者だ。んで、どうなんだ?」


「……えぇ、一つだけ進展が。一つ前の犯行の、洗脳されていたガイシャの身元が判明しました」


「お、随分早かったな」


「先輩が午前中に協力を取り付けてくれた、ローリア女史の協力で一発でした。名前はアレクス=ロドリゲス。『マギ・エレメント』の研究員です」


 ローリア女史……今朝知り合いになった、魔族の女性だな。


 彼の言葉に、おっさんはピク、と眉を動かす。


「……あの会社に連絡は?」


「すでにしています。ですが、会社には関係ないことだと、にべもない対応でしたよ。……ただ、今日一日、あそこの幹部達が慌ただしく動いているのが確認されています」


「……なるほど。俺達に知られたくない何かがあるのは、どうやら確からしいな」


 狙われているのは間違いないのに、警察関係者を遠ざける。


 それはつまり、後ろめたいことがあるという証明に他ならないだろう。

 お偉いさんがそうやって行動しているなら、きっと裏で何かしらの対応を行っているに違いない。


 俺と同じことを思ったのか、おっさんはコクリと頷いて指示を出す。


「わかった、絶対に目を離すなよ。そんだけ慌ただしくしているなら、必ずどこかでボロを出す。怪人も、あの会社に関連した者であることはこれで間違いなさそうだ」


「張り込んでいる皆には、そう厳命しておきます。それで……こっちは?」


「今回のはこの二人の協力のおかげで阻止出来た。ただ、また新たな犯行予告だ。その場所の特定をしようとしているところだな」


「了解です、急ぎ特定しましょう。ですが、まず……」


 後輩刑事は、俺達へと顔を向ける。


「とりあえず、危険だからもう君達は帰りなさい。協力してくれたことは本当に感謝するが、これは子供が首を突っ込むことじゃない。というか、何を考えてオルド先輩が協力を頼んだのかもわからないし、正気を疑いたいくらいだ」


 まともな大人の対応をする彼に、おっさんは肩を竦め、俺達へと口を開く。


「そういう訳だ、悪いな二人とも。この後は俺達大人がやるから、気を付けて帰るんだぞ」


 胡散臭い笑みを浮かべ、わかりやすくそんなことを言い放つおっさんに、俺もまた優等生っぽい笑みを浮かべる。


「うわ、悪い顔」


 うるさいぞ、フィル。


「オホン、そうか、それじゃあオルド刑事、後は頼れる大人に任せるよ」


「あぁ、任せろ。市民の安全は俺達刑事がしっかり守ってやる」


 そうして俺達は、彼らと別れたのだった。


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[一言] 元魔王と元勇者がどこにでもいてたまるか(
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