マギ・アスレチック・ガンファイト《2》
「……なるほど、本日私を誘われた一番の理由は、これですか」
「はい、二人一組で参加するもので、ペイント銃で相手を一定以上染めれば勝ちになります。魔法は、移動用の魔法のみがオーケーで、事前に特化型の杖を支給されます。あ、試合時間は短く設定されてまして、仮に決勝まで行ってもお時間はそんなにいただかないで済むはずですから、そこはご安心を。チーム名は『メイド仮面ズ』です」
「……仮面を被っているのは、私だけですが」
「チッチッ、そこに抜かりはないですよ! こっちは魔法の掛かっていないただの仮面ですが、ちゃんと用意してるんです」
肩から下げていたバッグの中から、ユウヒのものとよく似た意匠の仮面を取り出し、顔に装着するエイリ。
ノリノリか、とツッコミそうになったユウヒだが、メイド仮面は主に無礼を働くことは決して無いので、黙してスルーし、別のことを言う。
「その競技は私、やったことがありませんよ」
「まあ、お祭りなので、観戦しているみんなが楽しんでくれるような試合が出来れば十分ですよ。まあ、と言っても先輩なら余裕でしょうけど。あれだけ戦えるのなら、射撃系も得意でしょうし」
「……お、お嬢様がそう仰られるのならば、微力を尽くさせていただきましょう」
ユウヒは射撃が下手である、ということを知らない無邪気なエイリの笑顔に、仮面の下で引き攣りそうになる顔を必死で抑え、無表情で答える。
主が求める以上、メイドに不可能はないのである。
* * *
それから二人は、エイリが通う中等部から歩いて五分程の、非常に近い位置に建てられている競技場へと移動し、中に入る。
今回の大会は、『マギ・アスレチック・ガンファイト』のクラブ活動を行っている、幾つかの中等部や高等部が共に協力して開催しており、多くの人の出入りがあるのが窺える。
「あ、エイリ! どうしたの、メイド服なんか着て――って、うわぁ、綺麗なメイドさん!」
「お家の人?」
そう二人へと声を掛けるのは、どうやらエイリの友人らしい、中等部の制服を着た二人組の少女達。
彼女らの言葉に、エイリは笑顔でユウヒの紹介をする。
「こちらは、メイド仮面先輩だよ! さ、先輩、ご挨拶してください!」
「私はメイド仮面。お嬢様の要請により、参上仕った次第でございます」
いつものように一礼するメイド仮面ユウヒに、友人の少女達は小さく歓声をあげる。
「うわっ、すごい、綺麗なお辞儀……! 本職の人なんですか?」
「流石、エイリちゃんの知り合いね……あ、あの、一緒に写真を撮ってもらえませんか?」
「今は、メイドを仕事とさせていただいております。写真は、はい、構いませんよ」
彼女らと数枚の写真を撮り、しばしきゃーきゃー言いながら共に楽しんだ後――と言ってもユウヒは、ただ振り回されるだけであったが――、どうやら彼女らが競技の受付だったようで、案内を始める。
「そっか……この『メイド仮面ズ』ってエイリだったのね。はい、これ、移動用魔法の使えるデバイス。二人の試合は十分後だから、頑張って!」
「頑張ってね、エイリちゃん、メイド仮面さん!」
「見ててね、二人とも! 優勝しちゃうから」
「皆様が楽しんでいただけるよう、頑張らせていただきます」
そうして二人は、教えてもらった競技場の控室へと向かい――その時だった。
――オルド刑事?
ユウヒの視界に映る、人込みの中にいる、今朝知り合いになった魔導刑事。
数人の警察官と共におり、険しい表情で何事かの会話を交わしている。
「……お嬢様、少々ここでお待ちいただけますか?」
「? はい、わかりました」
エイリと別れたユウヒは、オルド刑事の元へと向かう。
一瞬、自身の恰好が頭を過ぎって躊躇するが……いや、そんなときではないか、とすぐに思い直し、声を掛ける。
「オルド刑事」
「? えーっと、お嬢さんはどちら様で?」
「私……いや、俺だ、ユウヒだ――って、まだちゃんと名乗ってなかったか。午前中に名刺を貰った、セイリシア魔装学園の生徒だ、おっさん」
「は……? しょ、少年……?」
ユウヒを、奇妙そうな眼差しでまじまじと見詰めるオルド刑事。
「……魔力の質に覚えがあるな。ほ、本当に少年なのか。何でそんな恰好を?」
「学区祭なんで。深くは聞かないでほしい。それより、何かあったのか? 険しい顔してたが……」
すると、彼は一瞬悩んだような様子を見せるも、コクリと頷いて口を開く。
「……少年ならいいか。聞け、怪人から犯行予告があった」
「……内容は」
「十五時三十八分、つまり今から三十分後に、今まで使用した人骨装置の、大型版を起動させるっつーものだ」
「……なるほど、とうとう本気を出してきたって訳か。けど、十五時三十八分……?」
十五時や、十五時三十分などではなく、十五時三十八分。
何故、わざわざそんな中途半端な時間指定を、という言外のユウヒの疑問に、オルドは肩を竦める。
「多分、奴にはその時間に、何かしらのこだわりがあんだろうよ。ご丁寧に、場所のヒントまでくれてるぜ」
そう言って彼は、どうやら証拠品のコピーらしい紙をユウヒへと見せる。
――地を見よ。血を見よ。しからば、陽の差す先で、また。
書いてあったのは、その短いセンテンスのみだった。
「……これだけか?」
「もう一通別の予告状が届いていて、そっちにゃあ犯行時刻と場所が書いてあったが、ヒント自体はこれだけだ。何かわかるか?」
「……悪いが、俺もまだここに着いたばかりだから、何もわからねぇ。避難は」
「十分前になったら、システムの誤作動という態で警報を鳴らし、避難誘導を始める。ただ、出来ればその前に見つけてしまいたい。……あんまり一般人に頼むのは良くねぇんだがな。少年、何かおかしなものを見つけたら、報告してくれ。残念ながら、余裕がなくてね」
犯行予告を考えてて遅れたわ……すまねぇ。