整備部発表会《4》
いつも感想、ありがとうありがとう。
――第一集会場の近くにあったベンチに、洗脳されていた三人の記者らしき男女を寝かせた後。
「じゃ、改めて。魔導刑事のオルドだ。出来れば詳しく聞きたいんだが……この三人は、この装置で洗脳状態に陥っていた、と」
オルドと名乗った刑事は、ソレ――人骨装置の一つを摘み上げ、まじまじと確認する。
人骨装置の数は、洗脳魔法を食らっていた人数と同じ、三つ分。
いつの間にかテーブルの上に置かれていたのを、フィルが目敏く見つけて回収してきたのだ。
これは、俺も以前見たことのあるものに小型バッテリーを取り付けているようで、単体でも起動可能にしてあるようだ。
会場の方の停電はすでに回復し、レツカ先輩が発表会を再開している。
ご丁寧なことに、時間で起動する妨害装置が電気回路付近の壁にいつの間にか設置されており、それを外したらすぐに電気が戻ったのだ。
恐らく、来場者が入り始めた頃に設置されたんだと思うが……。
「はい、恐らくは。つい昨日、似たようなものを見ていますが、ほぼ同じ構造をしていました。恐らく、お客さんに自由に見てもらっていた時に仕掛けられたんだと思います」
俺と同じ推測をするフィルの言葉を聞き、刑事は問い掛ける。
「監視カメラは、あの部屋には?」
「あるはずです。……今までの敵の動きからすると、何かが映っているとは思えませんが」
「……じゃ、それは後で確認しておこう。それにしても、人骨装置ねぇ。報告は聞いていたが、恐ろしいもんだ。というか、よく洗脳魔法を学生が解けたものだ」
「オルドさん、警察は何を――」
「少年、最初ん時みたいな話し方でいいぜ。お嬢さんはともかく、今更少年に畏まられても、気持ち悪い」
気持ち悪いって。
「……そうか。じゃあ、ありがたく。――おっさん。アンタは何でウチの発表会に忍んでたんだ」
俺の問い掛けに、だがオルド刑事は肩を竦める。
「機密事項だ。悪いが、おじさんは刑事だからな。言えることと言えないことがある」
「へぇ? 今んところ、こっちにとっちゃアンタが一番怪しいんだが。不審人物がいたって通報して、アンタの特徴を伝えるぞ」
「俺は警察なんだが……」
「その言葉が全ての免罪符になる訳じゃねぇ」
そう言うと、刑事は苦笑を溢す。
「お、おい、ユウヒ――」
「いや、少年の言うことも一理ある。ま、そこまで隠さなきゃならんことでもないし、いいだろう」
俺を窘めようとするアルヴァン先輩に手をひらひらさせ、オルド刑事は答える。
「ローリア=エンタリアという女性を尾けていた」
……ローリアさんを?
「――ふむ。私を、か」
「! ローリアさん」
その時、ちょうど会場の方から現れるのは、彼女自身。
「私は魔眼がある故、完全な暗闇の中でも、そこに魔力が存在すればある程度見ることが可能でね。君達の動きが見えていたから、何か手伝えないかと思って来たのだが……刑事さん、事情を聞かせてもらってもいいかな?」
本人がこの場にやって来るとは流石に思っていなかったのか、一瞬面食らった様子を見せながらも、オルド刑事は言葉を続ける。
「……あなたの所属する企業、『マギ・エレメント』に疑惑が出ています。それで、以前にあなたは自社を通報したことがあったでしょう。不正を行っている、と。その時は、特に証拠も出ず捜査が終わったようですが……出来れば話を聞かせていただきたく」
「話を聞くだけなら、気配消しの魔法なんざ使わなくても良かったんじゃないか?」
「いやいや、わかってないな、少年。俺の仕事は、悪い奴のケツを追い掛けて捕まえることだ。だから、気配を勘付かれていいことなんて一つもねぇんだ」
俺の言葉に、チッチッ、と指を振るオルド刑事。
「……つっても、ま、今回は完全に裏目だったみたいだが。いやぁ、おじさん、最近良いことねぇぜ。昨日も酷い目に遭ったしな。これだけ仕事を頑張ってるってのに、可哀そうだと思わねぇか?」
「いや、知らねぇよ」
わざとらしい嘆くようなポーズをする彼に、俺は呆れた顔で言葉を返す。
ったく……随分な刑事もいたものだ。
と、次にローリア女史が口を開く。
「……確かに、そういう過去もあるな。あんまり言いたくはないのだが、私のところは大企業だからね。当然、風通しの悪い部分や、社員としてそれなりに思うところもあり、それが嫌で会社と衝突したこともある。ただ、昔の話だ」
「今はもう違うと?」
オルド刑事に、彼女は軽い調子で言葉を返す。
「勿論、今も面倒な面はある。しかし、会社というのは元々そういうものだ。上手く付き合っていくコツを覚えたのさ。――ただ、話はわかった、私が協力出来ることは、協力しよう」
「助かります。そんじゃ……君らはまだやらなきゃいけないことがあるだろ? こっちは大人が後始末をしておくから、君達は学区祭を楽しみなさい」
俺達に向かって、そう言う刑事。
……聞かせられるのは、ここまでと。
チラリとフィルに視線を送ると、我が幼馴染はコクリと頷く。
――微かな、本当に微弱な魔法の気配。
彼女が成功したことを見て取った俺は、素知らぬ顔で言葉を返す。
「なら、俺達はこれで。ローリアさんも、また」
「うむ、また会えることを楽しみにしているよ」
「っとと、あー……じゃあ、少年。これ、俺の名刺だ。何かあったら、情報提供なんかをしてくれると助かるぜ」
「……あぁ、わかった」
そうして俺達は、その場を後にする。
――疑問は、尽きない。
今回、何故犯人は、わざわざ俺達の発表会を狙ったんだ?
俺とフィルが遭遇したような例とは違い、今回のはもっと、何か必要に駆られたからこそ行われたもののように見える。
停電用の装置まで用意された、手の込んだ犯行だからだ。
だが……何の意図も見えてこない。
いつものように、その効果はイタズラと言える範疇に収まっており、随分と限定的なものである。
いったい、この『攻撃』には、何の意味があったんだ?