整備部発表会《2》
滞りなく準備は終わり、俺達は全員、学園の『第一集会場』に集う。
準備は万端。
あとは、始まりを待つだけだ。
「いやー……こうやって見ると壮観だな」
「同感っすねぇ。やっぱこの光景は、どうしようもなくテンション上がりますよ」
俺とアルヴァン先輩は、その光景を眺めながら、思わずニヤニヤと笑みを溢す。
レツカ先輩の造った、『オプショナルアーム』を中心とした装備群。
それらがずらっと並べられているこの様子はもう、ワクワクしないと言ったら嘘だ。
なんと心躍る空間であることか。
俺、こういう道具ってのは使ってこそなんぼだと思っているが、それでもやっぱり、飾っておきたくなる気持ちもよくわかるな。
あと……うむ、俺のイルジオンである禍焔。
我が愛機、やっぱ格好良過ぎるな。
学区祭が終わったら、心行くまで乗って、堪能するとしよう。
「いやはや、お前の専用機……カエンだったか。改めて見ても、カッコいいな。俺のも負けていないつもりだが、黒と赤の色合いに、あの形状。素晴らしいと言わざるを得ん」
「へへへ、先輩。そんなに褒めても、何にも出ないっすよ」
と、そんな会話を交わす俺達に、デナ先輩が声を掛けてくる。
「ほら、男達。もうちょっとで始まりなんだから、ニヤニヤするのは後にしなさい」
「「へい、ボス」」
「うむ、よろしい。じゃ、アンタらは早く着替えてきなさい。油塗れよ」
俺とアルヴァン先輩に両手で指を差し、そう指摘する我らがボス。
言われて気が付いたのだが、いつの間にか女性陣は制服か訓練服に着替え終わっており、どうやら俺達だけがまだ作業着を着たままであったようだ。
「む、忘れてた。ユウヒ、着替えるぞ。流石にこのまま人前に出る訳にはいかん」
「了解っす」
そうしてアルヴァン先輩と共に、連れ立って更衣室へと向かい、俺達はそそくさと着替える。
「――そう言えばユウヒ。この学区祭に関する話なんだが……どうやら、怪人が出たらしいな」
彼の言葉に、俺は着替えながらピクリと反応する。
「怪人、っすか。それ、中等部の後輩に聞きましたよ。なんかよくわからんけど、怪人がいるっていう曖昧な情報だけが流れてるんすよね」
「? いや、俺が聞いたのはもっと確たるものだ。昨日の夜、警察が怪人のような恰好をした何者かに遭遇して、犯行予告を受けたらしい」
「えっ……そんな具体的な動きがあったんすか?」
思わずアルヴァン先輩の顔を見ると、彼はコクリと頷く。
「呼称は『ファントム』だそうだ。何ともまあ、歌劇的というか。……ウチの学園で起きた幾つかの出来事と、ソイツが関係あるのかは知らないが、やっぱり何か良くないことが裏で進行しているようだ。改めてだが、お前も、警戒はしておいてくれ」
「……わかりました、気は抜かないでおくことにします。……というか、昨日の夜のことなのに、よくそこまで詳しく知ってるっすね?」
「あぁ、実はキルゲの家がな、警察と深い関係のあるところなんだ。だから色々知っていて、無論それらの情報をそう簡単に外に漏らしはしないんだが、今回ばかりは学園も無関係じゃないからな。俺に警戒した方がいいって、アイツから連絡があったんだ」
なるほど……そこからの情報か。
「へぇ、エーロンド家は、警察関係の家だったんすか。道理でキルゲ先輩は、あんなに苛烈というか、『正義』一色といった感じな訳っすね」
「はは、そうだな。その姿が眩しくて、光を鬱陶しがるような者もいるが……俺も、『正義』と言ってまず何を思い付くかといったら、奴の姿だな」
肩を竦めてそう言うアルヴァン先輩に、俺はニヤリと笑う。
「やっぱ、仲良いんすね」
「付き合いが長いからな、それなりに互いを知っているってだけさ。――さ、早くみんなのところへ戻ろう。女性陣を待たせちゃ悪い」
「うーっす」
* * *
そして、整備部の発表会が開始する。
人入りは非常に良く、やはり学生よりも一般客が多く、恐らくどこかの企業人や記者らしき者達が並ぶ装備を隅々まで観察し、写真を撮っている。
本当に、学生の発表会とは思えない盛況ぶりだ。
レツカ先輩が軽いデモンストレーションを行うまでは、まだ少しあるんだがな。
「流石、すごい人の入りだな」
そう話し掛けてくるのは、先程格納庫で出会った研究者の女性、ローリア女史。
「ローリアさん。さっきぶりです」
「うむ、ユウヒ君、さっきぶりだ。――それが君の専用機か。なかなかカッコいいじゃないか」
「いやぁ、そう言ってもらえるとすげー嬉しいっす」
ポンポンと俺の隣に置いてあるイルジオンを叩きながら答えると、彼女は俺の愛機をまじまじと観察し始める。
「随所に見たことのない機構が組み込まれているな。しかも、それでいて新機軸の装備といった感じはなく、手堅さも感じさせる。流石、レツカ君のところの企業が造っただけはある。……というか、これだけのスペックのものを、よく専用機として寄越したものだ。紙面上のスペックだけ見ても、相当メチャクチャな性能をしているのがわかるぞ」
パラパラと、出入り口で配っている装備のスペック表を確認しながら、そう言うローリア女史。
「正直なところ、まだまだ訓練中ってとこっすね。機体のパフォーマンスの許容範囲がバカみてぇに高いもんで、無茶するとこっちが先にバテます。今は、どれだけ機体の限界に自らの限界を近付けられるか、ってところっす」
「……これをまともに動かせる、という点からして驚きなのだがな。それで、こちらが兄弟機か。ふむ、こちらは内部構造に重きを置いて造っているのか」
そうして彼女と話していると、専用機『デュラル』の担当であるため、俺の隣に立っていたフィルが、紹介してほしそうにチラリとこちらを見る。
「その専用機の方は、こっちの奴の機体です。フィル、ローリアさんだ。レツカ先輩の知り合いらしい」
「フィルネリア=エルメールです。本日はお越し下さり、ありがとうございます」
ペコリと頭を下げるフィル。
「あぁ、よろしく、フィルネリア君。君のことも聞いているよ、ユウヒ君と同じくらいの実力を持った子だってね」
それから彼女は、俺達二人を交互に見る。
「……一つ聞かせてほしいのだが、君達はもしかして、軍の特殊部隊に所属していたりするのか?」
「はは、何すか、それ。俺達は普通の学生っすよ」
「……うん、そうか。いや、すまない、馬鹿な質問だと私も思うが……気を悪くしないで聞いてほしいのだが、君達の魔力の質が、異常な程に洗練されているように見えてね。一切の無駄がなく、綺麗過ぎる程の流れで静かに魔力が循環している。しかも、意識的にやっている訳ではなく、自然体のままで」
……流石、魔眼持ちか。
やはり、よく『視えて』いる。
「普通の学生は勿論のこと、軍人でもそこまで洗練された魔力を有してはいないだろう。生まれつき、というのはあるのかもしれないけれど、それよりは人為的に訓練したような気配を感じてね」
「ま、正直に言うと、幼い頃からずっと魔法で遊んでたんすよ。実家が田舎で、他に特に面白いものもなかったんで。多分それが、理由だと思います」
それは、嘘じゃない。
本当にガキの頃から、暇があれば魔力の操作を練習して魔法を使っていたし。
つっても、嘘じゃないってだけで、勿論一番の理由は、俺達に前世があるからだろうが。
「えっと……失礼でなければお聞かせ願いたいのですが、ローリアさんのその眼は……」
「あぁ、魔眼だよ。人より多少、色んなものが見えるんだ」
「なるほど……初めて見ました。お綺麗な瞳ですね」
「はは、ありがとう」
フィルの言葉は、こちらの世界では、の話だろうけどな。
前世の俺の部下には魔眼持ちもおり、フィルは交戦経験があるはずだし。
――と、その時、デナ先輩がこちらへ声を掛けてくる。
「ユウヒ君、フィルちゃん、準備をお願い。もう始めるわ」
「了解っす。――それじゃあローリアさん、今から本番なんで、この後も楽しんでくださいね」
「失礼しますね、ローリアさん」
「うむ、頑張りたまえ」