整備部発表会《1》
多少くせ毛気味のストレートの髪はボサボサで、目の下には濃い隈。
顔色もあまり優れておらず、ちょっと青白い。
美人の範疇に入るだろうが、何と言うか、不健康的な見た目だ。
ただ……不思議なことに病的な感じは受けず、存外しっかりしているようにも見える。
多分だが、立ち姿がしっかりしているのが理由だろう。
体幹がそれなりに良いのだろうか。
種族は人間――いや、違うな。
左の瞳は黒で、しかし右の瞳が俺と同じ赤色というオッドアイをしているのだが、そこに莫大な魔力が渦巻いているのがわかる。
いわゆる、『魔眼』と呼ばれる類の瞳だろう。
魔眼には何かしらの魔法的効果、例えば人よりも魔力を捉えやすいとか、魔法の構造をより感覚的に理解出来るなどがあり、彼女の瞳も何かしらの能力を持っていることだろう。
となると恐らく、人間と魔族のハーフだな。
先天的に魔眼を持つのは、ヒト種の中じゃ魔族だけなのだ。
とりあえず一番近くにいたのが俺だったので、声を掛ける。
「あー、えっと……お客さんですか? 学区祭の開始は二時間後ですよ。あと、俺の知る限りじゃあ、格納庫で何かイベントはなかったはずですが……」
イルジオンを置いてあるのに、おいそれと開放なんて出来ないからな。
すると、彼女は首を傾げる。
「む……そうなのか? しかし、この学園の……ええっと、整備部だったか? の発表があるはずだから、てっきりここで行われるのかと思ったのだが……」
お、整備部の活動が格納庫で行われているってことを知ってるんなら、ウチの関係者か?
ウチの面々の誰かに発表会のことを聞いて、ここに来たのだろうか。
「――ローリアさん!」
なんてことを俺が思っていた時、こちらに寄って来て声をあげるのは、レツカ先輩。
「レツカ君、おはよう。君の発表会を見ようと思って来たのだが……どうやら場所も時間も間違えてしまったらしい。いかんな、説明を聞いたつもりで、聞いていなかったようだ」
「はは、私が今日のことについて話した時、あなたは徹夜明けでしたからね。ただ、来てくれただけでありがたいですよ」
「うむ、今日の午前中に行われる、ということだけは覚えられていたようだ。日付を間違えていたり、時間に遅れたりせずに済んだようで良かったよ」
親しげな様子で会話を交わす二人。
どうやらローリアと呼ばれた女性は、レツカ先輩の知り合いだったらしい。
「ユウヒ君、紹介しよう。彼女はローリア=エンタリア。基礎魔法理論と魔法生物学の二つを専門とする研究者だ。所属する組織は違うのだが、ひょんなところで知り合ってね。言わば、私にとっての研究の大先輩といったところかな」
「はは、優秀なレツカ君にそう言われてしまうと、少し照れるな」
なるほど……やっぱり、研究者だったか。
「そして、ローリアさん、彼がユウヒ=レイベーク君です。私の優秀な後輩……いや、優秀過ぎると言っていい後輩ですね」
「どもっす」
レツカ先輩の紹介に、ローリア女史は興味深げな声を漏らす。
「君がユウヒ君か。噂は聞いているよ、学生でありながら、学生の範疇を遥かに超えた能力を有している、と。……うむ、こうして見ても、確かに恐ろしい魔力量だ。この国において、君程の魔力を有している者が何人いることか」
じぃ、とそのオッドアイで俺を見詰め、彼女は言葉を続ける。
「人間種のように見えるが、君は魔族の血が入っているのかな?」
「いえ、我が家は純然たる人間の家系ですよ。その瞳は魔眼ですか?」
そう問い掛けると、彼女は頷く。
「あぁ、これが何か知っているんだね。そうだ、『魔力眼』と呼ばれるタイプの魔眼だ。ふむ、その魔力量に加え赤い瞳をしているから、魔族の血筋かと思ったよ」
俺のは単純に親からの遺伝だが、魔眼は何故か赤い瞳となることが多い。
魔力量と瞳が合わされば、そう勘違いしてもおかしくはないか。
――『魔力眼』というのは、魔力が『視える』タイプの魔眼を言う。
俺もまた他者の魔力をよく見るが、この『見る』というのはあくまで比喩表現であり、実際はかなり感覚的な部分で感じ取っている。
言わば、暑いとか寒いとかを、肌で感じるのと同じだ。
それに対し『魔力眼』はもっと単純に、魔力が『視える』らしい。
確かな形として、そこにあるものとして、視界に映り込むのである。
研究者としては、相当に稀有な才能と言えるだろう。
……いや、むしろそれを持っているからこそ、今の職に就いているのかもしれないな。
「っと、すまんね、見たところまだまだ準備中であったようだ。ここにいては邪魔だろうから、また後で会おう。この後の発表会、楽しみにしているよ」
彼女は手をひらひらさせ――ん?
彼女の手……。
ひとしきりの挨拶を終え、ローリア女史が去って行った後、俺はレツカ先輩へと問い掛ける。
「レツカ先輩、あの人……いえ、やっぱ何でもないっす」
「? そうか。――ユウヒ君、これ持って行くの、手伝ってくれないか。私では少し重くてな……」
「あ、任せてください。これっすね」
そうして再度準備に戻りながら、俺は、胸中でこう思っていた。
――あの人、多分、相当戦えるな。
そろそろキャラまとめを作っておかないと、作者自身が混乱しそうだな……。