クリスマスは口実です
12月中旬。
ぼくは最近気にしていることがある。
月海先輩がずっと何かに悩んでいるようなのだ。それとなく訊いてみたがうまくはぐらかされてしまう。
悩みは相談し合う約束ですよ、と言っても深刻なものではないから大丈夫なのだと言い張る。
ぼくはこういう引っかかりを残したまま日常を過ごすのがとても苦手だ。
先輩はどうして打ち明けてくれないんだろう。
聞けさえすれば、答えが出せる可能性だってあるのに。
「おはようございます」
「うん……」
今朝も先輩はどこか別のところを見ている感じがする。
分厚い黒のコートを着て、白い手袋、チェックのマフラー。その一方で短いままのスカート。冬の装いとなった月海先輩は素晴らしい。けれどそれを純粋に喜べないのが今のぼくだった。
「先輩、今日こそ教えてください」
「何を?」
「最近ずっと考え込んでいるじゃないですか。その中身をどうしても知りたいんです」
「うーん……」
「お願いします」
グイグイ攻めてみる。
月海先輩は人差し指を唇に当てる。まだ迷っているようだ。
「もしかして今後に関することで、何か……?」
「そうじゃないわ。ただ、ちょっとね」
はあ、と先輩は息を吐き出した。
「わかった、話しましょう」
「おお」
「景国くん、私ね、貴方に渡すクリスマスプレゼントが思いつかないの」
「…………」
本当に直球だった。
そういえばもうすぐクリスマス。
月海先輩はそれで悩んでいたのか。ようやく納得できた。
「実はね、ある提案を貴方にするべきか否か考えていたのよ」
「ある提案とは?」
「大きなケーキを一緒に食べて、それでプレゼントの交換はなし……とか」
「いいんじゃないですか?」
即答すると、先輩がきょとんとした。
「いいの?」
「深く悩むくらいなら、いっそなしにしちゃいましょう。先輩と同じものを食べてクリスマスを過ごせるだけで最高ですから」
実のところ、ぼくはまだクリスマスプレゼントについて何も考えていなかった。漠然と、前日に長野駅前のショップを見て回って決めようかと思っていた。
しかし先輩はずっと考えていたらしい。
ぼくには、クリスマスに賭ける思いが足りなかったのだろうか……。
「景国くん、プレゼントなしで物足りない感じはしない? 私は、貴方から色んなものをもらってきたから今でも満ち足りてるんだけど」
「そうですねえ……」
気にならないと言っても、気にするのが先輩だ。
ならば最低限、何かお願いした方がいいのかな。
…………。
……。
あ。
大変なことを思いついてしまったぞ。
これはお願いするのにかなり勇気が必要なやつだ。
でもクリスマスというイベントを最大限利用するならこれしかない。
「先輩、じゃあお願いしてもいいですか?」
「何かしら」
「クリスマスの夜、先輩の家に泊まりたいです」
「なっ」
月海先輩が固まった。
「と、泊まる? うちに?」
「で、できればでいいんですけど……」
「それが、景国くんの希望なのね」
「先輩は泊まりに来たことあるじゃないですか。でも逆はなかったなぁとか思ったりして」
「そ、そっか。私ばっかりなのも不公平よね」
先輩は腕を組んだりほどいたり忙しい。
「でもうち、何もないわよ。遊ぶものもないし」
「ぼくの家でも特に何もしなかったじゃないですか」
「そうだったかしら?」
「一回目は先輩が座敷で寝込んで――」
「あああっ、嫌なことを思い出させないで!」
「二回目は背中に文字を書いたとか――」
「くっ、恥ずかしい思い出が……!」
「そういうわけなので特別なことは考えないで、一緒にケーキを食べてだらだらできたら……」
月海先輩が空を見た。
「わかった。その日は一緒に過ごしましょう」
「本当ですか!」
「景国くん、勇気出して言ってくれたんだものね」
……気配で察知されたのかな?
「でも、どうせなら何かで遊ばない? 12月だし討ち入りごっことか」
「赤穂浪士!? やりませんよ!」
「吉良上野介はお父さんで」
「ぼくに頼清さんを攻撃しろと!?」
「まあ冗談だけどね」
「びっくりした! お屋敷だから本気かと思いました……」
「私もそこまでお茶目なことはしないわよ」
「討ち入りはお茶目じゃないです」
道場があるから武器はいくらでも用意できるところが怖いといえば怖い。
「たぶん夕方までは未来生ちゃんがいるはずだから、話すなら早めに来てね」
「わかりました」
「長話は認めないけどね?」
「……帰り際にちょこっとだけにします」
今でも柴坂さんをどこかでライバル視しているらしい。
先輩がため息をついた。
「クリスマスの予定が決まったら気が楽になったわ。サプライズとかも考えてたけど、いいアイディアが出てこなかったの」
「自然体がぼくたちらしいですよ」
「そうね」
ぼくと先輩は、距離を詰めて手を握る。
「こういうことも、自然とできるようになったものね」
「世間がどうとかは気にしないで、ぼくたち流でいきましょう」
月海先輩がうなずいた。
「クリスマスケーキ、楽しみにしていてね」




