表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/114

文化祭のあと、おだやかな朝

 目が覚めて、枕元の時計を見ると10時を過ぎていた。

 こんな時間までぐっすりだったのは久しぶりだ。文化祭の疲れが思った以上にあったらしい。


 ぼくはしばらく天井を見つめた。


 ……キス、したんだな。


 月海先輩と交わした、初めてのキス。柔らかな唇の感触が確かに焼きついている。


 つきあってるのにしないの?――そう言われることもあった。だけど、ぼくたちのペースで進んできたから、あんなに夢のような瞬間にたどり着けたのだ。ついにぼくはやった。ファーストキスの相手が月海先輩で本当によかった。ぼくは幸せ者だ。


 ……そういえば、月海先輩が朝ごはん作りに来てくれるはずだったんだよな。


 この時間だ。さすがにいったん帰ったかな。


 ぼくは起き上がった。


「んん……」


 月海先輩が、ベッドに上半身を乗せて眠っていた。


「なんぜ?」


 ぼくは要領を得ないことを口走っていた。


 もしかして、様子を見に来てくれたのだろうか。起きるまで待つつもりで、自分も眠ってしまったのか?


「せ、先輩」


 ゆさゆさしてみる。


「んぅ……あ、景国くん……」


 すぐに起きた。


「おはよう……」

「おはようございます。あの、なぜここに?」

「台所で待ってたけど、景国くんがなかなか起きてこないからどうしようかなって思ってたの。そしたらお母さんが帰ってきて、『部屋に押しかけちゃえ』って言ってくれたから……」


 母さんめ、相変わらずけしかけてくるな。


「景国くんの寝顔があんまりかわいいから、じっと見つめていたら私まで眠くなっちゃったみたい」

「か、かわいかったですか……」

「いつもよりもっと幼く見えてね」


 素直に喜べない……。

 まあ、変な顔をしているよりはマシか。


「あらためて、昨日はお疲れさま」


 月海先輩がカーペットに正座する。


「先輩こそ、やることいっぱいあって疲れたんじゃないですか?」

「私は楽しかったから平気。それに……」


 先輩が人差し指で唇をなぞる。


「キスもできたから」


 ぼくは自分の顔が熱くなるのを感じた。


「景国くん、顔が赤くなってるよ?」

「み、見ないでください……」

「本当にかわいいんだから」

「うう……」


 思わず、布団で顔を隠した。


「そうそう、未来生(みくる)ちゃんから電話をもらったの。協力してくれてありがとうだって。景国くんにもお礼を言っていたわ」

「そっか、柴坂さんはぼくの連絡先知らないですからね」

「無理に交換しなくていいと思う」

「はい、しません」


 月海先輩、ぼくと柴坂さんの接触にはけっこう敏感だよな……。


「未来生ちゃんはこれから忙しくなるだろうから、また協力だけはしてあげてね」

「何かイベントありましたっけ」

「11月は次期生徒会役員の選挙があるでしょ」

「あ、そうでした」


 柴坂さんは生徒会長に立候補するつもりなのだ。ここ数年は立候補者が一人だけで信任投票のみが続いているらしいけど、今年はどうだろう。


「道場にも通い続けてくれるみたいだから、応援してあげないとね」

「そうですね。手伝えることがあったらやりましょう」

「でも……」


 月海先輩はちょっと迷うように間を開けた。


「どうしました?」

「これはワガママかもしれないけど、あんまり仲良くしすぎないでほしいかな」


 窓の方を見ながら、


「私、()いちゃうかもしれないから……」


 小さな声で言う。

 すねたような言い方にドキッとさせられた。


 そうだよな。やっぱり気になるよね。


「せ、節度ある行動を心がけます」

「定型文みたい。景国くん、たまに面白い返しするわよね」

「お、面白かったですかね、今の」

「少しだけ」


 先輩がクスッと笑う。


「朝ごはん、どうする?」

「今から食べます」

「じゃ、用意するわね。景国くんはゆっくり着替えてきて」

「ありがとうございます」


 ぼくはベッドから降りる。


 ――そこに月海先輩が近づいてきた。


 声を出す間もなかった。


 そっと、一瞬だけ唇が重なる。


 先輩がすぐに離れた。


「またしてみたくなっちゃった。景国くん、これからは覚悟しておいてね」

「い……いつでも大丈夫です」

「ふふ、ありがと」


 先輩が部屋から出ていく。

 ぼくは右手で唇をさわった。


 まだ月海先輩の熱が、そこに残っているような気がする。


 一つ関係が進み、ぼくたちはまた少し変わった。

 その変化もいずれは日常に埋め込まれていくのだろうけど、今のドキドキと脈打つ感情は、絶対忘れないようにしたい。


 さあ、着替えよう。

 今日もいい一日になりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ